2015年にアメリカの名門大学に通う男子学生が女性を性的に暴行し、キャンパスレイプや性犯罪をめぐる論争を巻き起こした「スタンフォード大学レイプ事件」。
被害を受けたシャネル・ミラーさん(27)が11月11日、ファッション誌「Glamour」が選ぶ「Women Of The Year」の授賞式で、詩を朗読した。
「私は気にしない」と題された詩で、ミラーさんは、「私が今ここに立っているただ一つの理由、それは、人びとが私の幸福を気にかけてくれたからです」といい、同じ境遇に立つ人々にメッセージを送った。
スタンフォード大のキャンパスで被害
ミラーさんは2015年1月、スタンフォード大学のキャンパス内で開かれたパーティーに参加。酩酊状態のなか、宿舎の外のゴミ置場で、当時20歳だったブロック・ターナー元受刑者によってレイプされた。
裁判ではミラーさんが事件当時、意識を失っており、服を一部脱がされたままゴミ置場に放置されていたことなどが明らかになった。
しかし、裁判長は、当時大学の水泳チームのスター選手だったターナー元受刑者の将来に「重大な影響を及ぼしてしまう」といい、禁錮6カ月(求刑禁錮6年)の判決を下した。
その後、ターナー元受刑者はわずか3カ月で出所し、刑が軽すぎると大きな反発を呼んだ。
陳述書に世界中が注目
一方、公判でミラーさんがターナー元受刑者に宛てて読み上げた手記は、世界中で注目を集めた。
あなたは私を知らないでしょう。でも、あなたはわたしの中に入り込みました。だからこそ、わたしはいまここにいるのです。
(中略)(事件後に受けた病院での検査から)数時間後、シャワーを使わせてもらえました。そこに立ち、水の流れ落ちていく自分の体を見ながら思いました。もう自分の体は嫌だ、と。恐怖を覚えました。
何が私の体に入ったのか。もし汚れてしまったのなら、誰が触れたのか。何もわからなかったのです。自分の体をジャケットのように脱いで、他のすべてのものと一緒に、病院に置いていきたいと思いました。
(手記より一部引用)
ジョー・バイデン前副大統領は手記への返答として、「勇気ある若い女性へ送る公開書簡」と題した声明を発表。
判決の数カ月後には、被害者が酩酊状態にある性的暴行事件を厳罰化するカリフォルニア州法が成立した。
この間、ミラーさんは仮名の「エミリー・ドー」としてのみ報じられ、本名を明かさずにいたが、今年9月に発表した自伝『Know My Name(私の名前を知って)』で初めて、実名で自分の経験を語り始めた。
それまでは「エミリー・ドー」と名乗ることで自分を守っていたというミラーさん。
本名を明かしたことで、「被害のことをオープンに語れるようになり、解放され、より怖くなくなりました。事件が他のもの全てに、影を落とすこともなくなりました」と語っている。
「私は気にしない」
ミラーさんは、陳述書が注目を浴びた2016年にGlamourの「Women Of The Year」に選ばれていたが、当時は身元を伏せていたため、授賞式で賞を受け取ることができなかった。
11月11日の授賞式で3年越しにステージに立ったミラーさんは、「私は気にしない」と題した詩を朗読した。日本語訳全文は以下の通り。
私は、あなたが何を着ていたかなんて、気にしない。
私は、あなたがどれだけお酒を飲んでいたかなんて、気にしない。
私はあなたが彼と踊ったか、あなたが先に彼にメールをしたのか、彼の部屋に帰ろうとしたのはあなただったのかなんて、気にしない。
周りは、それが起きた理由を挙げ続けるかもしれないけど、正直なところ、私は全然興味がありません。
私が気になるのは、あなたが今どうしているか。
私が気になるのは、あなたが今大丈夫か。
私が気になるのは、あなたが押し付けられた痛みは、あなたのせいだと責められていないか。
私が気になるのは、あなたがその痛みを経験して当然だと思わされていないかです。
私が今ここに立っているただ一つの理由、それは、人びとが私の幸福を気にかけてくれたからです。私自身が気にかけていなかった時も。
彼らは私が光を持ち、愛されるべき存在だと思い出させてくれました。彼らが気にかけてくれていることを、私が忘れていた時でさえも。
私が今日の私でいられるのは、そのおかげです。
では、そこから得られる学びとは。
私たちがサバイバーのために立ち上がり、恥の中に彼らを閉じ込めるのをやめ、馬鹿げた質問で尋問するのをやめたら何が起きるか、見てみてください。
本が書かれ、法律が変わり、私たちは創造するために生まれたことを思い出すのです。私たちは美しく、セクシーになり、祝福することができるようになるのです。
だから今晩は、このことを忘れないでください。
私はいつでも、いつでも、あなたのことを気にかけています。
あなたが私のことを、気にかけてくれたように。