一橋大・学祭実行委が百田尚樹氏の講演会を中止 「祭の理念に沿わなくなった」

    百田氏の言動が「悪質なヘイトスピーチ」に当たるとして、講演会中止を求める運動が学内外で起こっていた。

    一橋大学の学園祭で6月10日に予定されていた作家・百田尚樹氏の講演会が2日夜、急きょ中止されることが決まった。

    学園祭実行委員会がホームページやTwitterで発表した。

    【百田尚樹氏講演会中止のお知らせ】 6月10日に予定されておりました百田尚樹氏講演会は中止と相成りました。協力者の皆様、講演会を楽しみにして下さった皆様には大変申し訳ありません。 詳細につきましては、下記URLをご覧ください。 https://t.co/JCsv0aitgQ

    講演会をめぐっては、百田氏のこれまでの言動が「悪質なヘイトスピーチに当たる」として、学内外から反対運動が起こっていた。講演会はなぜ中止されたのか。

    「祭の理念に沿うものでなくなってしまった」

    講演会の中止が発表されたのは2日午後8時すぎ。

    学園祭実行委のホームページに「百田尚樹氏 講演会中止」と題された文章が掲載され、「本講演会がKODAIRA祭の理念に沿うものでなくなってしまった」と中止を決めた理由を説明した。

    当学園祭は一般の学園祭と異なり、「新入生の歓迎」を第一義とするものです。当委員会の企画のために、新入生の考案した企画や、新入生の発表の場である他の参加団体の企画が犠牲となることは、当委員会では決して容認できるものではありません。

    当委員会は本講演会を安全に実施するため、これまで幾重にも審議を重ね、厳重な警備体制を用意していました。しかし、それがあまりにも大きくなりすぎたゆえ、(いくつもの企画が犠牲となり、)「新入生のための学園祭」というKODAIRA祭の根幹が揺らいでしまうところまで来てしまいました。

    文章の最後では、「誠に身勝手な理由で本講演会が中止となってしまいましたことを、重ねてお詫び申し上げます」と謝罪した。

    百田氏「おぞましい言論弾圧」

    これを受け、百田氏は2日午後11時35分ごろ、「私のところにはまだ講演中止の連絡がないのだが…」と自身のTwitterで投稿。

    「中止が本当だとして、サヨクの人たちはそれで満足なのだろうか。自分たちの行ないが、『おぞましい言論弾圧』であり、ファシズムの容認であるということさえ気付いていないとすれば、彼らには『言論の自由』も『正義』も語る資格はない」と続けた。

    私のところにはまだ講演中止の連絡がないのだが…。 中止が本当だとして、サヨクの人たちはそれで満足なのだろうか。 自分たちの行ないが、「おぞましい言論弾圧」であり、ファシズムの容認であるということさえ気付いていないとすれば、彼らには… https://t.co/tjY2H29Q2F

    講演テーマは「現代社会におけるマスコミのあり方」

    そもそも、百田氏の講演会は6月10日、一橋大学の学園祭「KODAIRA祭」の一イベントとして同大学兼松講堂で予定されていた。

    講演会のテーマは「現代社会におけるマスコミのあり方」。

    チケットのオンライン販売用のページには、「『永遠の0』、『海賊とよばれた男』などを生んだベストセラー作家百田尚樹氏がKODAIRA祭に参上!小説家、放送作家としてマスコミ業界の酸いも甘いも知り尽くした百田氏に、『現代社会におけるマスコミのあり方』というテーマでトークしていただきます」と書かれていた。

    「百田氏はテロと差別を扇動」

    一方、学内外では百田氏のこれまでの言動が「テロと差別を扇動している」などとして、講演会に対する反対運動がされていた。

    反レイシズム情報センター(ARIC)」は2カ月ほど前から、ネット上で署名運動を展開。

    同センターは「(千葉大医学部の「集団レイプ事件」の容疑者は)私は在日外国人たちではないかという気がする」「もし北朝鮮のミサイルで私の家族が死に、私が生き残れば、私はテロ組織を作って、日本国内の敵を潰していく」といった百田氏の過去のツイートが、「悪質なヘイトスピーチ」に当たると主張している。

    千葉大医学部の学生の「集団レイプ事件」の犯人たちの名前を、県警が公表せず。 犯人の学生たちは大物政治家の息子か、警察幹部の息子か、などと言われているが、私は在日外国人たちではないかという気がする。 いずれにしても、凄腕の週刊誌記者たちなら、実名を暴くに違いないと思う。

    もし北朝鮮のミサイルで私の家族が死に、私が生き残れば、私はテロ組織を作って、日本国内の敵を潰していく。

    実行委に対し、講演会で差別的な発言をしないことを百田氏自身が誓い、これまでの発言を撤回した上で、人種差別撤廃条約の精神を遵守すると宣言させることなどを求め、これらの条件が満たされなかった場合には講演会を「無期限延期あるいは中止」にするべきだと訴えていた。

    署名活動は、3日午前10時までに1万2千人近い賛同を集めている。

    「企画として通してしまった時点でおかしい」

    また、一橋大学内では「百田尚樹氏講演会中止を求める一橋有志の会」が発足し、5月31日に集会を開いた。

    集会では在日コリアンの学生や韓国からの留学生が登壇し、これまでキャンパス内で受けた差別経験や講演会への不安を紹介した。

    登壇した学生らの発言について、集会にした参加した別の学生はBuzzFeed Newsに、こう明かした。

    • 「百田氏は在日コリアンや中国人、韓国人をヘイトの対象にし続けている。こうした人物を学園祭に呼ぼうという発想がなされ、企画として通してしまった時点でおかしい」
    • 「一橋大学は大学のポリシーとして多くの留学生を受け入れ、『グローバルリーダーの育成』を目指している。にもかかわらず百田氏のような人物を呼ぶとはどういうことか。会場の使用を許可した大学当局の問題でもある」
    • 「学内で差別発言を受けて休学した経験がある。仕方なく復学して通い続けているが、毎日辞めたいと思っている。一橋の在学生には自分のような人の苦しみを知ってほしい」

    実行委「思想信条について語っていただく予定ない」

    百田氏を講演者に選んだ理由について、実行委は一橋の学内メディア「一橋新聞WEB」の取材に以下のように答えている。

    ――今回、講演者として百田氏が適当だと判断した根拠を教えてください。

    集客を見込めるということが最大の理由です。KODA祭は、「新歓期の集大成」という位置づけがあり、大学の内輪のイベントという雰囲気が出てしまいます。外部からの来場者でも楽しめる企画として、毎年講演会を実施しています。メディア企業を志望する学生の多い本学において、人気番組の放送作家で、かつ作家としても広く世に知られた人物でもあるため、話題性は十分であると考えました。

    講演会のイベントページ(現在は削除)には、今回の講演会で「百田氏に自身の思想信条について語っていただく予定はなく、作成が終了している台本にもそのような内容は一切含まれていない」と明記されていた。

    2日夜に発表された講演会中止のお知らせでは、百田氏の言動がヘイトスピーチに該当するという学内外の指摘には触れられていなかった。

    BuzzFeed Newsは現在、KODAIRA実行委や百田尚樹氏講演会中止を求める一橋有志の会などに取材を依頼している。