北朝鮮がミサイル攻撃を「予告」していた島、グアム。大統領を選べない島民が抱える葛藤

    北朝鮮に攻撃予告される「軍事拠点」でありながら、大統領を選べない島、グアム。

    8月29日午前6時ごろ、北朝鮮西岸から発射された弾道ミサイルが北海道上空を通過。襟裳岬の東方沖約1180kmの太平洋上に落下した。

    26日にもミサイルを3発放ち、武力誇示を続けてきた北朝鮮。だが、今回のミサイルは、今月9日に北朝鮮が発表していた「ミサイル発射計画」とは、全く異なるルートを飛んだ。

    北朝鮮が示した元の計画で「標的」としていたのは、グアム。

    今回の発射では、アメリカを刺激しすぎないようにあえて避けたとも推測される、北朝鮮から南西約3400kmの地点に位置する島。グアムでは、なにが起きていたのか。

    そのとき、グアムでは…

    29日午前8時(日本時間午前7時)ごろ。

    観光客で賑わうグアムの首都ハガニアの中心部で、エンジニアとして働くジョナサン・ハヴェリャナさん(25)は、「たったいま出勤して会社のパソコンを開くまで、北朝鮮がミサイルを発射したこと自体知りませんでした。職場の同僚もみんな知らなくて驚いていました」と、BuzzFeed Newsの取材に話した。

    ニューヨーク・タイムズによると、グアム国土安全保障省では、今月9日に北朝鮮がグアムを標的にすると発表して以来、24時間体制で職員を待機させ、ミサイル発射後2分以内に全島民へ危険を知らせられるよう、緊急警報などの体制を整えてきた。

    だが、29日に警報が鳴ることはなく、「職場でも特に何もアナウンスはありませんでした」とハヴェリャナさんは語る。

    「みんなの関心事といえば、先週末のメイウェザーvsマクレガーのボクシングの試合、最近相次いでいた雷雨の心配、それからテキサス州を襲った台風の話くらい。それ以外はみんな普通の穏やかな一日を過ごしていましたよ」

    「炎と憤怒」「グアムを炎で包み込む」

    北朝鮮が太平洋に浮かぶ人口約16万3千人、面積約540平方kmの小さな島を「標的」として名指しするまでにはどんな経緯があったのか。

    その背景には、アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の間で繰り広げられた「挑発の応酬」がある。

    BBCによると、まず、国連安全保障理事会が8月5日、7月に2回大陸弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行った北朝鮮に対して、全会一致で追加の経済制裁案を可決。北朝鮮は「主権を侵害された」と猛反発し、決議案をまとめたアメリカに「代償を支払わせる」との声明を発表した。

    すると、これに対してトランプ大統領が「北朝鮮はこれ以上、アメリカを脅すのをやめたほうがいい。さもなくば、世界がこれまで見たこともないような『炎と憤怒』で対抗する」とコメント。

    この言葉がさらに北朝鮮を刺激し、その数時間後には「中長距離戦略弾道ミサイル『火星12号』によって、グアム周辺を炎で包み込む作戦を検討している」「日本の島根県、広島県、高知県の上空を通過し、グアム島の周辺30〜40kmの海上に落ちるだろう」と具体的なルートまで発表した

    グアムは日本人にとっては観光地として馴染みが深いが、島の約4分の1を米軍基地が占め、約6000人の人員が配備されている。位置的にも南シナ海、朝鮮半島、台湾海峡など、緊張が高まりやすい地域に近く、アジア太平洋地域をにらむ重要な拠点だ。

    16日に北朝鮮がグアムへのミサイル発射計画を「一時保留する」と発表するまで、緊張は続いていたとされるが、「島民は動じていなかった」と現地で暮らす会社員のジョシュア・マドリッドさんは話す。

    「確かに北朝鮮の脅しにおびえて島を離れた人もいましたが、ごく少数です。島民からしたら、グアムが攻撃対象になるのは北朝鮮の脅し以前にわかっていたこと。むしろ、アメリカ本土の友人たちの方が私たちのことを心配してくれていたように感じます」

    軍事拠点なのに、大統領を選べない島、グアム

    だが、グアムはアメリカの重要な軍事拠点である一方、その島民たちはある「矛盾」を抱えている。国の命運を決める「大統領選挙」で投票する権利がないことだ。

    グアムは1898年の米西戦争でアメリカ領となったものの、正式な州として編入されることがなく、現在も「準州(territory)」としての扱いが続いている。準州では、住民に大統領選挙での投票権がないほか、連邦議会に議員を送ることもできない。

    「トランプが当選するとは思っていなかったので、本当に驚きました。彼の言葉は人種差別的、かつ俗悪で、大統領に就任してからの政策も全く意味がないもののように感じます。北朝鮮に対する発言も、まるで戦争を始めたいかのようで、見ていてとても心配になります」

    BuzzFeed Newsの取材にそう話すのは、グアムで働く会社員のスグル・ナカムラさん。

    事実、2016年の大統領選に合わせてグアムで実施された世論調査では、71%の住民がヒラリー・クリントンを支持した。実際のアメリカ国内の選挙結果と、グアムの世論調査の結果が食い違ったのは、1980年に調査を初めて以来、初めてのことだったという。

    ナカムラさんは「アメリカの空軍や海軍の基地もあるのに、投票はできないというのはおかしい」と憤る。「もしグアム人が去年の大統領選挙で投票することができたら、ヒラリー陣営の動きは大きく変わっていたんじゃないかとも思います」

    大統領を選ぶことができないことへの憤りや、トランプ大統領の発言に対する懸念は、ハヴェリャナさんも一緒だ。だが、今グアムやアメリカに必要なのは「強いリーダー」だと言う。

    「トランプが北朝鮮に対して挑発的な発言をしたとき、最初は『いいね!トランプは俺たちを守ってくれるんだな!』と思いましたが、だんだん『その辺にしといてくれないと、本当にあいつらミサイルを撃ってくるぞ』と考えるようになりました」

    「でも、投票権のない自分に選挙結果を変えることはできないし、トランプへの支持は変わりません。北朝鮮が太平洋に向かってミサイルを撃ってきたいま、この国を守ると宣言したトランプが約束を守ってくれるか、それを注視したいと思います」

    (サムネイル:AFP=時事)

    BuzzFeed JapanNews