「政治活動で遅くなった際、『早く帰って子どもの世話や夕飯の用意をしないとだめじゃないか』『旦那はかわいそうだ』と言われる」
「閉経しているか尋ねたり、そうであれば、もう女ではないなと笑われる」
日本の政治におけるジェンダーギャップが問題視される中、議会内外で起きるハラスメントが、女性の政治参画を阻む大きな障壁となっている。対策を促すために、国も動き出している。
地方議員が寄せた1324のハラスメント事例
内閣府男女共同参画局は1月13日、政治におけるハラスメントを防止するための研修教材作成などに向けた検討会を開いた。
昨年6月に改正された「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」で、セクハラや妊娠・出産をめぐるマタハラを防ぐために、国や地方自治体は「研修の実施や相談体制の整備など、必要な施策を講ずるものとする」と定められたことを受けて、実施されたものだ。
検討会に先立ち、昨年10〜11月に全国の地方議員を対象に実施した実態調査では、1324件の事例が寄せられた。
調査結果によると、有権者からのハラスメントが53.5%を占め、同僚議員によるものが46.5%だった。議員によるパワハラ事例としては、次のようなものがあった。
男性議員から「女は顔がよければ当選できる」「女に政治は無理だ」「男性だったらいいのに」「周りからも評判が悪い」等 の言葉を繰り返し浴びせられ、心労で体調に支障を来した。
少子化対策や子育て支援について議論をしていると、「議員をやめて結婚する方が幸せだよ」「まずは子供を産んだら」と、婚活や妊活への強いプレッシャーをかけられる。
政治活動で遅くなった際、「早く帰って子どもの世話や夕飯の用意をしないとだめじゃないか」「旦那はかわいそうだ」と言われる。
議員によるセクハラやマタハラ事例も、多岐にわたる。
懇親会等で寄ってきて、酔った勢いで体を触り、周りもその場の雰囲気に流されて注意等をしない。
閉経しているか尋ねたり、そうであれば、もう女ではないなと笑う。
妊娠中のつわりがひどく、会合を欠席すると「子どもを理由に欠席が続くと、この会派から外れてもらうよ」と脅される。
男女共同参画局の担当者によると、教材は各地の議会研修で使われることを想定しており、動画形式などを検討しているという。
議員活動における課題で「男女に差」
内閣府が昨年4月に発表した「女性の政治参画への障壁に関する調査研究報告書」でも、地方議員の中でも、特に女性議員が直面する様々な課題が明らかにされている。
調査は2020年12月〜2021年1月にかけて実施され、全国の地方議員5513人(女性2164人、男性3243人、無回答106人)が回答した。
議員活動を行う上での課題について、女性議員の回答で最も多かったのは「専門性や経験の不足」(女性58.8%・男性41.8%)、「地元で生活する上で、プライバシーが確保されない」(女性36.6%・男性23.9%)、「性別による差別やセクシャルハラスメントを受けることがある」(女性34.8%・男性2.2%)だった。
中でも、性差別とセクハラを課題に挙げた女性議員が3割を超えたのに対して、男性議員は2.2%と、男女の差が顕著だった。
他にも、男女の差が大きかった項目の中には、「議員活動と家庭生活(家事、育児、介護など)との両立が難しい」(女性33.7%・男性13.7%)、「政治は男性が行うものだという周囲の考え」(女性30.6%・男性14.5%)などがあった。
実際に議員活動や選挙活動中に、有権者や支援者、他の議員などからハラスメントを受けたかという設問では女性の57.6%、男性の32.5%がハラスメントを経験したことがあると回答。
ハラスメントの行為別では、女性は「性的、もしくは暴力的な言葉(ヤジを含む)による嫌がらせ」(女性26.8%・男性8.1%)が最も多かったのに対して、男性は「SNS、メールなどによる中傷、嫌がらせ」(女性22.9%・男性15.7%)が最多だった。
「性別に基づく侮辱的な態度や発言」(女性23.9%・男性0.7%)、「身体的な暴力やハラスメント(殴る、触る、抱きつくなど)」(女性16.6%・男性1.6%)、「年齢、婚姻状況、出産や育児などプライベートな事柄についての批判や中傷」(女性12.2%、男性4.3%)などのハラスメントも、女性がより被害を受けていることがわかる。
女性の政治家を増やすために有効な取り組みを聞いた項目では、政策立案や選挙手法に関する研修などに続いて、女性議員の8割が「ハラスメント対策」を挙げた。
「男性化」される議員像
女性議員に対するハラスメントについては、有志の女性議員でつくる「全国フェミニスト議員連盟」も昨年、議連に所属する議員を対象に、アンケート調査を実施している。
特に注目したのが、議会内で同僚議員から受けるハラスメントだ。
中間報告によると、アンケートに回答した女性議員84人のうち、約8割が同僚議員からハラスメントを受けたことがあると回答。
中でも1期目の議員や、1人会派などに所属する少数派議員、妊娠・出産を経験した議員などが被害を受けやすい傾向が見られたという。
調査に携わった筑波大学の大倉沙江助教(政治学)は、今回の調査は回答者の数が少なく、偏りもあるため、より大規模な調査が必要だと前置きした上でこう語る。
「今回の調査を通じて、誰が議会でハラスメントを受けやすいかを検討していく中で、妊娠・出産した議員や子どものケア責任を負っている議員が、非難の対象になりやすい傾向が見えてきました」
「例えば、昼夜の別なく有権者のために働くのが政治家だといった考えが根強い中で、ケア責任がある女性はそうした働き方ができずに、『議員としての責任を果たしていない』などと非難されています」
「これは女性に課せられた性役割と、多数派にとっての『あるべき議員像』の矛盾から生じるものであり、子どものケアが女性に偏っていることの弊害だと思います」
同じく調査に関わり、検討会にも参加している上智大学の三浦まり教授(政治学)も、地方議会の9割近くを男性が占める中、議員という仕事が「男性化」されていると指摘する。
「女性議員に対する『子育てはどうしているのか』『家のことは誰がやっているのか』といった発言など、『女性の場所は家であって議会じゃない』という考えに基づいたハラスメントは、いまだにすごく多い」
「今ある議員像が『健康で、24時間働くことができ、経済的に自立をしていて、地域社会で名誉的な立場にある人』になっていて、当然そこには女性が想定されていない」
「議会にとって『異物』である女性を排除したいという心理の人が少なくなく、それが様々な形態のハラスメントとなって引き起こされているのではないでしょうか」
政治における女性参画の拡大は「急務」
国会における女性比率は、衆議院が9.7%で、参議院が23.0%。各国の議会の女性比率を集計している列国議会同盟によると、世界190カ国のうち165位と低迷している(2021年11月現在)。
「日本は(男女間の格差を数値化した)ジェンダーギャップ指数において、非常に低位を占めており、特に政治分野における女性参画の拡大は急務です」と男女共同参画局の担当者は語る。
「特に、地方議会は住民の生活に密着している課題を話し合う場。そこに生活者としての女性の目を反映させることは非常に重要であるとともに、地方議会で様々な経験を積んだ議員が国会に出てくれることもある」
「国会における女性議員を増やすためにも、地方議会から女性議員の数を増やしていく必要があると考えています」
ハラスメント防止「取り組む予定ない」7割
内閣府の検討会では、各地の地方議会の先進的な取り組みも紹介されている。しかし、多くの議会ではまだ、対策が行き届いていないのが実態だ。
昨年7月に男女共同参画局が全国の自治体を調査した際には、「議会におけるハラスメント防止に関する取り組み」として、議員向け研修を行っていると回答した市区町村は83(4.8%)、議員向け相談窓口を設けていると答えた市区町村は3(0.2%)にとどまった。
また、現在は取り組みを行っていないが、今後は取り組む予定であると答えた市区町村が320(18.4%)だったのに対して、今後取り組む予定はないと答えた市区町村は1234(70.9%)に上った。
男女共同参画局の担当者は、「6月の法改正から7月の調査実施までは期間が短く、この間に新たな方針を決められなかった議会が多いと推測される。今後、研修などの取り組みを実施する自治体数が大きく増えることを期待している」と語った。
政治におけるジェンダーギャップが深刻な問題となっている日本。地方議会や国会では何が起きているのか。各地の女性議員たちが直面している課題を取材した。
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(サムネイル:Getty Images)