結婚時に「夫婦別姓」を選ぶことができない戸籍法の規定は、憲法に反しているなどとして、大手ソフトウェア会社「サイボウズ」の青野慶久社長ら4人が国を訴えた裁判。
東京地裁(中吉徹郎裁判長)は3月25日、青野社長側の請求を棄却し、現行の制度は「合憲」だとする判断を示した。
作花知志弁護士は「今回の裁判で変わるかと思っていたので残念。証拠や議論は出揃っているので、最終的には最高裁で憲法判断をしてもらえれば」とし、控訴する方針を明らかにした。
判決「戸籍法の規定に合理性はある」

青野社長の他に原告に加わったのは、関東の20歳代の女性と、東京の20代カップル。
関東の女性は、結婚後も旧姓を使い続けたかったが、現行制度では改姓せざるを得なかった。カップルは旧姓を使い続けるために、事実婚せざるを得なかったという。
4人は改姓に伴う精神的苦痛を受けたとして、計220万円の損害賠償を国に求めていた。
日本人と外国人が結婚・離婚する時や、日本人同士が離婚する時は、「同姓」にするか「別姓」にするかを選ぶことができる。
ところが、日本人同士の結婚ではそれを認める規定がないことから、憲法が定める法の下の平等に反するなどと主張していた。
一方、判決は、夫婦別姓を認めれば、個人が社会で使う「法律上の氏」が二つに分かれてしまい、現行制度ではそのような事態は予定されていないため、戸籍法の規定は合理性があると述べた。
また、日本人と外国人の結婚には民法が適用されないと解釈され、日本人同士の結婚と同じ状況にあるとは言えないとした。
「知名度や信頼度を築いてきた通称は、知的財産」

夫婦別姓が認められないことで生じる負担や不利益の例として、原告側が挙げていたものの中には、次のようなものがある。
- 知名度や信頼度を築いてきた通称は、知的財産と言える。(夫婦別姓を認めないことで)その利用を制限することは効率的な経済活動を阻害し、個人の財産権を制限する。
- 公式書類は戸籍法上の姓(結婚後の姓)を使う必要がある。それぞれの書類について、姓についてのルールを確認しながら書かなければならない。
- 銀行口座、クレジットカード、パスポート、免許証、健康保険証、病院の診察券などを、旧姓から婚姻後の姓に変更しなければならない
- 子どもの父母会などでは結婚後の姓を使うが、仕事で関係のある人からは通称としての旧姓で呼ばれることもあり、周囲が混乱する。
- (夫婦別姓が認められていないため、事実婚せざるを得なかった場合は)税法上の扶養家族になれず、配偶者控除,相続税非課税枠などの配偶者としての税法上の優遇制度の適用がない。いずれかが入院した場合、病院で配偶者として認めてもらえない可能性がある。
「ファミリーネームとしての氏」にこだわり

作花弁護士は判決後に開かれた会見で、次のように述べた。
「国側は、法律上の氏は一つで分けることはできない。結婚後に旧姓を用いるのは二つの氏を認めるようなものだから、それはできないと主張してきました」
「でも外国人と結婚した日本人は、戸籍上の氏だけ変えることができるので、そっちは二つの氏になっているので、あれ?というところ。国側は主張するばかりで、その根拠になる証拠を出していません」
また、現代社会において「氏(名字)」がもつ役割は、伝統的な「家族の象徴」というものに止まらなくなっていると指摘した。
「女性の社会進出が進むにつれ、旧姓が使えないことの不利益が指摘されるようになってきました」
「氏は家族を象徴する、家族のシンボルなんだという伝統的な考えから、個人の社会的な評価や、例えば記者だったら『この記事はこの人が書いたんだ』と識別するための社会的・経済的な名称としての機能に分かれてきていると思います」
「ファミリーネームとしての家族的な意味での氏と、社会的・経済的な氏で意味合いが分かれてきているにも関わらず、今回の判決はファミリーネームとしての氏にこだわりを持っていると言えると思います」
「見事にスルーされた」
別姓訴訟は東京地裁で棄却されてしまいました。私たちの主張は見事にスルーされたので控訴します。司法の場で論理的に議論できないことに衝撃を受けつつも、高裁・最高裁にパスしたとポジティブに解釈することにします。今年は統一地方選・参院選もあります。民意を示していきましょう!
青野社長は判決後、「私たちの主張は見事にスルーされたので控訴します」とツイート。
会見では、訴訟を通じて「夫婦別姓」をめぐる議論が高まったことを評価し、法整備に向けてさらに活動を続けたいと話した。
「これまで(夫婦別姓について)何十年と議論されてきた中で、(提訴からの)この一年が最も議論が活発になったのではと思うし、国民の間では十分結論が出ている問題だと思います」
「同姓にしたい人はすればいいし、別姓の方が都合がいい人がいるのであれば選択肢を用意しようという議論なんです。その考えが広まった手応えはあります」
「僕はみんな幸せに暮らせればそれでいいと思っています。制度上の問題で幸せに暮らせない人がいるのであれば、それは直せばいい。制度は人間が作るものだから、制度を直しましょうという、それだけなんです」