「枕営業を要求された」「妊娠したら仕事打ち切り」芸能人・フリーランスのハラスメント被害を調査

    これまで実態が把握されてこなかった、芸能関係者を含むフリーランスへのハラスメント。3団体が共同で始めた調査によって、様々な被害経験が寄せられ始めている。

    職場でのハラスメント防止に向けた法整備が進むなか、現行の制度では守られていないフリーランスや、芸能関係者の被害実態を明らかにする調査が始まった。

    8月中旬に公開された中間報告(8月8日時点)では、回答した828人のうち、60.8%がパワーハラスメント、35.4%がセクシュアルハラスメントの被害にあったことがあると答えた。

    調査はインターネットで実施しており、8月26日まで回答を受け付けている

    フリーランス・芸能関係者へのハラスメントを調査

    調査は、約2600人の俳優や声優が加盟する「日本俳優連合」と、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)のフリーランス連絡会、フリーランスで働く人を支援する「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」の3団体が共同で始めた。

    国内で働いた経験があるフリーランスが対象で、個人事業主として芸能事務所に所属している俳優や、副業・兼業をしている人なども含まれる。

    今年5月には、通称「パワハラ防止法」とも呼ばれる「労働施策総合推進法」などが成立。

    日本で初めてパワハラについて規定し、労働者へのパワーハラスメントを防ぐために必要な措置を講じるよう企業に義務づけた。

    だが、企業に雇用されていないフリーランスや就活生は、防止措置の対象に含まれていない。

    企業にセクハラ対策を義務付ける「男女雇用機会均等法」も、雇用関係にある労働者が対象のため、「同じ職場で働いていても、フリーランスが被害にあった場合は、泣き寝入りしてしまうケースが少なくない」と、フリーランス協会代表理事の平田麻莉さんは言う。

    法案の付帯決議では、今後策定される指針の中で、自社の労働者が取引先に対して行ったハラスメントも「雇用管理上の配慮が求められる」と明記するよう求めている。

    具体的な内容は、9月に始まる労働政策審議会で検討される。

    今回の調査も、これまで光が当てられてこなかったフリーランスや芸能関係者の被害実態を把握するための参考資料として、同会に提出される予定だ。

    芸能・メディア業界に広がるハラスメント

    8月8日時点で寄せられた828件の回答のうち、女性は69.6%、男性は29.1%だった。

    職種別では「俳優・女優」(20.8%)、「編集者、ライター、ジャーナリスト、翻訳者、通訳、校正者」(14.4%)、「声優」(13.4%)がもっとも多かった。

    「芸能やメディア業界は業界内のプレーヤーが比較的少なく、フリーランス側が選べる取引相手の選択肢も少ないため、ハラスメントが起きやすい傾向があるのではないか」と平田さんは指摘する。

    調査では、通常時に何社と取引があるかも尋ねており、4社以上が41.9%、2・3社が32.7%、1社が25.4%だった。取引先が少ないほど、経済的な依存度が高まり、泣き寝入りに繋がりやすいと考えられている。

    具体的な被害内容では、次の5つが最も多かった。

    1. 脅迫・名誉毀損・侮辱・酷い暴言などの精神的な攻撃(59.8%)

    2. 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制など、過大な要求をされた(43.1%)

    3. 経済的な嫌がらせ(36.8%)

    4. 隔離・仲間外し・無視などの人間関係からの切り離し(34.4%)

    5. プライベートを詮索されたり、私的なことに過度に立ち入られたりした(33.9%)

    芸能関係者ならではと言えるハラスメントの例としては、「仕切りがないところで着替えをさせられた」(6.3%)、「脱いだら出番が増えると言われた」(2.5%)、「同意なく露出の高い衣服を着させられた」(2.3%)などの被害もあった。

    「性的関係を求められた、迫られた」(17.1%)、「レイプされた」(4.5%)など、性犯罪に当たるような被害も寄せられている。

    その他にも、マタハラ(妊娠・出産嫌がらせ)に当たる「妊娠を告げたら仕事を与えないと言われた、仕事を切られた」(5.0%)や、「性的指向や性自認について話題にされたり、からかわれたりした」(7.4%)などSOGIハラの被害もあった。

    「枕営業の要求」「妊娠とともに仕事を打ち切られた」

    自由記述の欄では、具体的な事例がいくつも寄せられている。

    「枕営業の要求。応じなかったら悪いうわさを流されたり、仕事の邪魔をされた」(30代女性・声優)

    「出演・評価と引き換えに交際を要求され、ホテルに連れ込まれそうになりました。その場からは逃げられましたが、以降しばらくストーカー化しました」(30代女性・女優)

    「妊娠の報告と同時に仕事を切られ、レッスン代行者を用意するよう言われた」(20代女性・スポーツインストラクター)

    「基本的にギャランティはゼロ、休みもゼロ、出演すればするほどマイナスが嵩み『出演させてやってる』というスタンスの劇団が多い。以前出演した劇団は2 ヶ月超の拘束で休みなし・ギャラなし、期間中は演出家・脚本家・舞台監督からの罵詈雑言の日々だった」(20代男性・俳優)

    様々な被害経験が寄せられた一方、回答者の41.1%が誰にも被害を相談しなかったと答えている。

    日本俳優連合の森崎めぐみさんは「特に芸能関係者は、一生この業界でしか働かない人も多く、学歴や技能の面からも他の職種に転職しづらい職業。業界内も『外の世界』の常識や法制度について理解が浸透していない部分もあり、業界自体がハラスメントの温床になりつつある」と話す。

    「団体を超えた横との繋がりができたおかげで、これだけ多くの声が集まり始めたこと自体が、歴史的だと感じています。この機会を大切にして、法整備へ繋げていきたい」と、調査への期待を語った。

    最終的な調査結果は、9月10日に発表される。アンケートへの回答は、こちらから。