「このバカ親が!」「流産してでも出席しろ」女性議員たちの“永田町残酷物語”を終わらせるために【2022年回顧】

    政治における男女格差の解消が「急務」とされる中、地方議会では性差別やハラスメントが女性の政治参画を阻む障壁となっている。「政治は男性のもの」であるかのような文化が残っているのは、国政も例外ではない。

    2022年にBuzzFeed Newsで反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:1月22日)


    国民民主党の伊藤孝恵参院議員(愛知選挙区)には「myデスノート」と呼ぶものがある。

    そこには、日本で初めて、育休取得中の会社員として国政選挙へ出馬した際に、伊藤議員が経験した「選挙残酷物語」の数々が記録されている。

    幼い子どもがいるのに選挙に出たことを「あなたは絶対に後悔する」「子どもは思春期にあなたに反旗を翻すだろう」と、地元で有名な教育関係者に言われて泣く

    演説会の壇上で握手しようとしたら、手を思いっきり弾かれた

    「あんたなんて誰も応援していないから」と、身内からすれ違いざまに耳元で言われた

    子どもを抱いて走っていたら、足を引っ掛けられて転ばされ、地べたに転がる私と子どもに向かって「このバカ親が!」と罵声を浴びせられた

    「足を引っ掛けられた時は、片手で1歳の次女を抱いて、もう一方で長女の手を引きながら走っていたんですが、子どもを守らなきゃいけないので、咄嗟にズサーッと横向きに倒れ込んで」

    「その時の傷の跡は、まだ残っていますよ」と伊藤議員は言う。

    政治における男女格差の解消が「急務」とされる中、地方議会では性差別やハラスメントが女性の政治参画を阻む障壁となっている。「政治は男性のもの」であるかのような文化が残っているのは、国政も例外ではない。

    女性に立ちはだかる「5つの壁」

    伊藤議員は自身の経験から、女性が国会議員として働くには「5つの壁」があるという。「志を立てる壁」「候補者になる壁」「選挙の壁」「両立の壁」、そして「継続の壁」だ。

    中でも、育児と仕事の「両立の壁」は高い。伊藤議員は、次女が初めて立った日のことや、初めて自転車に乗れた日のことを知らない。

    新型コロナウイルスの感染拡大によって、地元・愛知へ帰って活動することが難しくなるまでは、週末を子どもたちと一緒に過ごしたこともなかったほどだ。

    2018年の春までは次女が待機児童だったため、どうしても子連れ出勤しなければならない時のために、議員会館の部屋にキッズスペースを設けた。

    「やむを得ず、自分の日常を生きる上で必要だったから」作ったものだったが、それでも「子どもを連れてくるなんて非常識だ」「子育てしながら政治家の仕事なんてできるのか」などの批判が、メールや電話、SNSなどで1500件以上寄せられた。

    中には子どもに対する誹謗中傷や脅迫もあったという。

    「でも、ここで怯んでキッズスペースをなくしてしまったら、次の人もまたここから始めないといけないじゃないですか。後に続く後輩たちがここからさらにジャンプをしていけるようにと思って、このままにしてるんです」

    伊藤議員が党内で提案した制度案には、女性政治家が増えるために必要なこととして、次のようなことが挙げられている。

    もうそろそろ「永田町残酷物語」を笑い話にして、過去のものとしなければいけない

    24時間戦えなくてもできる仕事にしなければならない

    最年少当選で期数を重ねるより、社会で働き「普通の」暮らし、普通の働く者の感覚を知る者が政治家になるべきだと(怖くても)訴えなければいけない

    批判を浴びても前例を作って、永田町ジャングルをブルドーザーで開拓し、後輩たちが少しは歩きやすいように道を作っておかなければならない

    「この国の未来の常識を作っているのが国会だから。ここで働く価値をどのように伝えて、仲間を作っていくかを考えています。それでも、今の私と同じ生活をしろっていうのでは、ちょっと誘えないのよ」

    当事者が不在の意思決定層

    無所属の寺田静参院議員(秋田選挙区)も2019年の初当選以降、女性に対する様々な言動を国会で見聞きしてきた。

    ある女性議員について語る際に「あの人は〇〇さんの“お嬢さん”。ほら、息子さんがいなかったから」とウワサする声。

    痴漢対策について議論していて、「私、痴漢に遭ったことないんですよね」と話す女性議員に「それなら俺がいつでも」と笑った男性議員。

    妊娠中の女性議員が、支援者から「流産してでもこの会に出席しなければ、もう応援してやらない」と迫られたエピソードなども耳にした。

    「こういうことが続くと『割に合わない』と思う人がいても仕方がないというか、自分の人生を考えたときに『それでもここでやってく?』と諦めてしまうパターンもあるのかなと思います」

    寺田議員が立候補したのは子どもが5歳の頃。日本で子育てをすることの難しさは、身に染みて実感してきた。

    「ケアワークの多くを女性が担っている中で、健康で、家事も介護も育児も家族の誰かに預けて、24時間働ける男性だけが政治をしてきたわけですよね」

    「その結果が、今の日本の社会や制度を作ってきた。意思決定層に女性が少ないということは、社会制度の根本にある哲学みたいなところに女性や、当事者の視点が生きていないということだと思います」

    「一番課題があるのは自民党」

    自民党女性局長の自見はなこ参院議員(比例)は、2016年の参院選で初当選。それまで小児科医として働いてきた中で、「女性だから」と性別で判断されたことはないと感じていたが、永田町では違った。

    「会議で発言する時の順番は後にした方がいいとアドバイスされたり、花束を渡すなら女性議員の方がいいと言われたり」

    「小さい話ですけど、私は女性男性関係なく、国民から負託をいただいた議員の1人という立場で、国会に参画していたつもりだったので、女性として求められる役割があることに、とても驚きました。なんか、どっか変だなと」

    2019年の厚生労働委員会で、政治における男女共同参画が進んでいない現状ついて質問した際には、「一番課題が多いのは自民党であるということも、承知しております」と述べた。

    「もう、それは当たり前ですよ。女性議員の数や候補者の女性比率など、数字を並べれば明らかですから」

    「女性は家庭に」と言われると…

    昨年2月には、森喜朗元首相が「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」などと発言し、女性蔑視だと批判を浴びた。

    問題を受けて、自民党は党の幹部会議に女性議員を「オブザーバー参加」させる方針を示したが、当初は女性議員に正式な発言権が与えられず、さらに批判を広げる形となった。

    2018年に成立し、昨年6月に改正法案が可決された「政治における男女共同参画推進法」をめぐっては、与野党の女性議員が立法に向けて奔走した。

    しかし自民党内では、「家庭に女性がいることに重きを置かれている先生方から、『女性の国会議員が多いことは、必ずしも先進国として望ましいあり方ではない』と公に発言する人が割といた」と自見議員は言う。

    女性は家庭に。そんな時に頭に浮かぶのは、医師時代に外来を訪ねてきた多くの女性たちだ。

    「今の時代、女性の自己実現はもちろんですが、世帯の所得も落ちているので、共働き世帯が圧倒的に多いですよね」

    「そんな中で、旦那の稼ぎだけでは生活できない家族や、働きながら1人で子どもを育てているシングルマザーの女性など、様々な境遇にあるお母さんたちの悩みを直接聞き、その苦しみを見てきました」

    「だから、『女性は家にいるべきだ』と言われると、『それをあのお母さんたちにも言えますか?』と思う。相手の立場になって考えた時に、その発言がどれほど人を傷つけるか。やっぱりちょっと考えた方がいいんじゃないかと思います」

    「私も専業主婦が夢だった時期があるくらいで、理想論は理想論でいいと思うんですよ。素敵なご主人と結婚して、収入も安定していて、お母さんは働かなくても良くて、子どもたちはみんなかわいくて、みたいな」

    「それはもう、おめでとうという世界なんだけど、そんな家庭は日本全体で見たら、本当に一握りです」

    「子育て世帯が『専業主婦型モデル』だったときの観念で話している人たちが未だにたくさんいますが、政治は多くの方の代弁者なので、僕1人のことがすべてだと思って考えてしまうのは違います。まずは現実を見ることが必要なんです」

    国民の声を「無視してきた」

    男性に有利になっている候補者探しのプロセスの見直しや、女性が妊娠出産・育児をしながら議員活動を続けられるような環境整備。

    課題は山積みだが、国会議員が「フルタイム専業主婦が支えている、フルタイム旦那にしかできない仕事」であっては、「必ずどこかで間違えてしまう」と自見議員は語る。

    「新型コロナウイルスの感染が広がってからのこの1年くらい、社会のマグマみたいなものが動いているのをすごく感じています。この社会の閉塞感をどうにか打破してほしいという、国民のエネルギーを」

    「その状況でファクトだけを見れば、シンプルに自民党の高齢男性には厳しい風が吹いています」

    「私は当事者としてもっと女性議員が増えてほしいと思っていますが、当事者だけではなく、世の中がそれを求め始めていることに気付かないと、自民党は政権運営において困難を感じる場面が来る」

    「これまでも、自民党は国民の声を『聞く力』は持っていましたが、長いこと無視してきたんですよね。ないことのように扱ってきた。本当に今、この問題にどの程度本気で取り組むのかが問われていると思います」