新型コロナ後「テレワークを始めた夫に暴力を振るわれた」 世界でDVが深刻化、日本の対応は?

    新型コロナウイルスの感染拡大で、世界中でドメスティック・バイオレンス(DV)被害の深刻化が懸念されている。

    世界各地で猛威を振るっている新型コロナウイルス。多くの人が経済的打撃を受け、外出自粛によるストレスも高まる中、家庭内暴力(DV)被害の深刻化が世界中で懸念されている。

    日本でも、全国の支援団体や自治体の窓口にはすでに、新型コロナに関連した相談が多く寄せられている。内閣府は補正予算案に1億5千万円を計上し、相談体制の拡充に充てていきたいとしている。

    「在宅勤務になった夫が暴力を振るうように」

    全国65団体が加盟している「全国女性シェルターネット」は3月30日、新型コロナによる影響が拡大する間、DVや児童虐待を防ぐために、国に対して求める対応をまとめた要望書を提出した。

    宛先は安倍首相のほか、橋本聖子・男女共同参画担当相、加藤勝信・厚生労働相になっている。

    要望書では「すでに起きている状況」として、3月下旬ごろから全国のDVシェルターや自治体の窓口に寄せられた相談の声が記されている。

    「夫が在宅ワーク、子どもも休校となったため、ストレスがたまり、夫が家族に身体的な暴力を振るうようになった」

    「夫がテレワークで自宅にいるようになり、これまで長時間労働ですれ違っていた夫が妻に家事一切を押し付け、ことごとく文句を言い、モラハラが起こってきた」

    新型コロナの影響でこうした被害が起きている一方で、窓口や支援団体に相談することも、より一層難しくなっている。

    「自治体の相談センターが面談を中止するところも少なくないため、DVが悪化していても相談支援につながりにくくなっている」

    「電話だけでなく面接で相談したいが、新型コロナの影響をとても気にして、電車に乗るのも怖く面談にも来られない。もっと手軽なSNSで相談ができるようにして欲しい」

    「DVを受け、かねてから母子で家を出ようと準備していたが、自営業の夫が仕事がなくずっと在宅し、家族を監視するようになったので、避難が難しくなり、絶望している」

    政府は緊急経済対策として、収入が減った世帯に現金30万円を支給する方針などを打ち出している。

    しかし、こうした「世帯ごと」の支援策では、DV被害を受けて避難している当事者などがこぼれて落ちてしまう可能性もあるという。

    新型コロナで「被害は悪化、増加する」

    全国女性シェルターネットは、今後起こりうる懸念事項として、次のような項目を挙げている。

    • 経済的困窮に陥る家庭での暴力、虐待の増加
    • 外出自粛に伴い、暴力の深刻化や加害者の監視など、行動の制限が強まる
    • 暴力被害を受けても、コロナ不安のため通院・治療を差し控える当事者が増える
    • 自宅勤務の配偶者や子どもたちが在宅しているため、相談電話をかける機会が奪われる
    • 行政の窓口や男女共同参画センターが閉鎖されているところもあり、緊急の場合でも必要な相談対応ができない
    • 飲食業や風俗産業で働かざるを得ないシングルマザーなどは、直ちに生活困窮に陥る


    その上で、国には、①緊急事態でも相談窓口を閉じないこと、②被害者が民間シェルターや市町村窓口に逃げ込んできたら、自動的に一時保護を開始すること、③現金給付をする際は、DVを理由に避難し、住民票を移せない被害者に特別に給付する措置をとること…などを求めている。

    全国女性シェルターネットの北仲千里共同代表は、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。

    「新型コロナが広がる中、支援者や支援機関も守られる必要があり、支援活動がある程度制限されることになるとは思います。しかしその一方で、経済的な苦境やストレス、家族の在宅が多くなるなど、むしろDVや虐待の被害は悪化、増加することが懸念されます」

    「そのため、状況に応じて柔軟に方法を変えながら、『相談支援は停止しない』という考え方が大切だと思います。被害を受けている方も、相談窓口にアクセスしにくくくなっているかもしれませんが、耐えがたいDVや虐待が起きている場合は、ためらわずに窓口にコンタクトしていただきたいと思います」

    世界中で警告

    新型コロナによる外出規制や経済的困窮がDVの悪化につながる危険性は、すでに世界中で警告がなされている。

    国連機関の「UN Women」は4月6日、新型コロナが世界中に広がったのちに発生した「女性に対する暴力」の状況や、各国の対策についてまとめた報告書を発表した。

    報告書によると、全国一斉のロックダウンが発令されたフランスでは、発令が出た3月17日からの1週間で、警察に報告されたDV被害件数が全国で32%、パリでは36%増加した。

    南アフリカでもロックダウン後の1週間で、女性に対する暴力の報告件数が9万件近くにのぼったと報じられている。

    シンガポールでも支援団体の電話相談窓口に寄せられた相談件数が33%増加。アルゼンチンでも、専用の緊急番号への通報件数が25%増えたという。

    カナダ、ドイツ、スペイン、イギリス、アメリカなどでも、同様の兆候が報告されている。

    DV対策を「新型コロナ対策」の重要施策に

    こうした状況を受け、世界では多くの国々や自治体が対策に乗り出している。

    カナダでは、新型コロナ対策中もDVシェルターは通常通り運営を続け、政府が4000万カナダドル(約31億円)を投じて支援すると発表した。

    フランスでは、政府が支援団体への資金援助に100万ユーロ(約1億円)上乗せすると発表し、自宅からの避難が必要な被害者にはホテルの滞在費用を支援する。

    さらに、スーパーなど全国20の店舗内に支援センターを設け、被害者が食料品の買い出しのついでに相談することのできる体制を整えている。

    国連のアントニオ・グテーレス事務総長も4月6日に声明を発表し、「暴力は戦場だけに存在するものではない。多くの女性や子どもたちにとっては、最も安全な場所であるべきはずの自宅に最大の危険が潜んでいる場合がある」と強調。

    「全ての政府に対して女性に対する暴力の防止と、被害者の救済を、国家の新型コロナ対策の重要な一部として取り組むよう、要請します」と呼びかけた

    内閣府「相談体制の拡充」へ

    では、日本ではどのような対策が予定されているのか。

    内閣府は今年度の補正予算案に「配偶者暴力の深刻化に対する相談体制の拡充」として、1億5千万円を計上した。

    内閣府男女共同参画局・暴力対策推進室の担当者は、BuzzFeed Newsの取材に、予算は電話相談窓口の運営や、平日だけでなく深夜や休日もメールで相談できる窓口の設置などに充てていきたいと語った。

    また、今週から同局サイトのトップページに「新型コロナウイルスに伴う外出自粛や休業が行われる中、生活不安・ストレスからDV被害の深刻化が懸念されています」と書かれたバナーを掲示。

    相談窓口などに関する情報をまとめた特設ページを設置し、今後情報を充実させていく予定だという。

    各地の配偶者暴力支援センターの運営は、各自治体の実情に合わせて判断を任せているとしつつ、センターが入っている施設などが感染予防のために休業しても、電話相談などは受け続けるよう通知を出したという。

    「内閣府としても、今回の新型コロナの影響でお家にいる時間が増え、DVが深刻化すると考えている」といい、「被害に遭われた際には、躊躇せずにご相談いただくことが大切だと考えています」と改めて強調した。

    安倍晋三首相は4月7日の記者会見で、「海外ではDVが増加していることを承知をしているが、国内では、まだそういう兆候が出ているという報告は受けてない」としたうえで、「十分に注意深く対応していきたい。そういう状況があれば直ちに相談窓口に電話してほしい」と語った。


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