24時間保育のベビーホテルで乳児が死亡 検証委「ある意味、善意で預かっていた」

    信頼して娘を預けた保育施設には、保育士が一人もいなかった。

    「24時間保育」をしていた東京都大田区の認可外保育施設で、生後6カ月の山本心菜さんが亡くなった2016年の事故で、都の検証委員会は3月28日、再発防止に向けた調査報告書をまとめた。

    報告書では、ネットの保育情報サイトには保育士が3人勤務していると記載していながら、保育士資格を持つ人が一人もいなかったことなど、「悪条件が重なった」と指摘。

    事故を繰り返さないためには何が必要なのか。都庁で会見を開いた心菜さんの両親は、提言を「ただのスローガンで終わらせてほしくない」と訴えた。

    どのような事故だったのか

    心菜さんが通っていたのは、1978年に開所した東京都大田区の認可外保育施設「蒲田子供の家」(2017年に閉園)。都内で50カ所ほどしかない、夜間の宿泊を含む「24時間保育」を受け付けていたベビーホテルだ。

    心菜さんの両親はもともと神奈川県に住んでいたが、県内に空きのある保育施設が見つからなかったため、大田区に越してきた。施設に支払う月約6万円の保育料を賄うために、母親も夜勤の仕事を始めた。

    事故が起きたのは、2016年3月16日の夜。報告書によると、当時施設には0〜3歳児5人が預けられていたが、職員が1人で保育に当たっていたという。

    施設が都に提出した事故報告書には、事故発生までの経緯がこう綴られている。

    • 19:30 母親に連れられ登園
    • 19:35 オムツ替え
    • 20:00 ベビーベッドに仰向けに寝かせる
    • 21:00 仰向けで目を開けて手遊びをしていたのを確認
    • 22:00 体が仰向け、顔は右向け、顔が温かいのを確認
    • 23:00 体が仰向け、顔は右向け、顔が温かいのを確認
    • 23:30 ベビーベッドから出し、抱える(ただし、事故から5カ月後に検証委員会が園長に確認した際は「よく思い出せない」と回答)
    • 23:40 ミルク作り
    • 23:50 異変発見、人工呼吸
    • 0:00 119番通報
    • 0:15 救急車到着


    心菜さんは病院に搬送されたが、17日午前2時ごろに死亡が確認された。警察の調べでは、死因は「気管支炎の可能性が高い」とされているという。

    なぜ、事故は起きたのか

    報告書では、事故に至った要因と再発防止を防ぐための課題として、いくつかのことが指摘されている。

    第一に、事故当時、施設には保育士資格を持っている職員が一人も在籍していなかったこと。

    第二は、施設に様々な問題があることを都は事前に把握していたにも関わらず、事故防止につなげられなかったことだ。

    事故当時、施設には保育士資格を持っている職員が一人もおらず、長年施設を運営してきた園長個人の経験をもとに、保育が提供されていた。

    そのため、各施設の理念や保育方針を定める「保育課程」や指導計画はなく、オムツ交換や授乳の時間、睡眠中の見回り結果なども園長の記憶で管理し、保護者には口頭で伝えていた。

    冬季はフード付きの上着を着たまま寝かせていたり、睡眠中は部屋が真っ暗で顔色を確認するのが難しかったりと、「保育に関する知識や配慮、緊急時の対応の仕方について訓練を受けていたとは言い難い」状況だったという。 

    一方、施設の概要を掲載したインターネットの保育情報サイトには、保育士が3人勤務していると記載され、主任保育士の欄には園長の名前が書かれていた。

    心菜さんの母親はこの情報を見て、入所を決意していた。また、事故後には、保育士数と主任保育士の欄が「ー」に書き換えられていた。

    さらに、都は施設にこうした問題があることを事前に把握していたが、監査で得た情報を事故防止に活用することができなかった。

    都は2002年度から、2008年を除いて毎年立ち入り調査を実施し、保育士資格を持つ職員がいないことや、職員1人が保育に当たっている時間帯があることなどを文書で指導していた。

    だが、一部改善の努力が認められたことなどを理由に、長期間改善されないままにされている項目もあった。

    監査の際にどのような指導がなされたかという情報は、都のホームページに一覧表で掲載されてはいるものの、初めての子育てに臨む親にもわかりやすく、アクセスしやすいものとは言い難い。

    都へ12の提言

    こうした課題を踏まえて、検証委員会からは都だけでなく国や市区町村にも向けて、12の提言を挙げた。大きな3つのポイントはこうだ。

    • これまで認可外保育施設の監査を担ってきた都に加えて、市区町村による巡回指導が必要。都からはこうした自治体に対する財政支援政策などを進めるべき
    • 都は保護者が保育施設を選ぶ際に、安心して預けられる場所か判断するための情報をもっと発信するべき
    • 国はこれまで待機児童問題解消のために、保育施設が受け入れられる「量」の拡大に注力してきたが、「質」の改善・向上のために、自治体に任せずに対処するべき


    検証委員会の委員長を務めた汐見稔幸・白梅学園大学学長は、多くの人が認可外保育施設に頼らざるを得ない状況があることを強調して、こう述べた。

    「こうした認可外保育施設は都内に1000カ所以上あり、1万6千人以上の人が利用しています。夜中にも子どもを預けざるを得ない人も東京にはたくさんいます」

    「今回の事故が起きた施設も、夜間に預けられる人がいない中で、ある意味、個人の善意で子どもたちを預かっていたような状況でした」

    「こうした施設をなくしてしまえばいい!で済む問題ではなく、一挙に解決できる抜本的な方法もあまりない。まずはここからやるしかないという意味で提言をさせていただきました」

    「スローガンのよう」

    一方、心菜さんの母親は報告書の提言について、「他人事みたいに書かれているスローガンのよう」と声を震わせた。

    「毎年調査に入っていたにもかかわらず、(保育士資格をもつ人が)いないことを知っていたにもかかわらず、指導の紙一枚でそのまま運営させて、また調査に入るのは1年後というのが、すごく疑問に思いました」

    「ネット上の情報を信用して預けたけど、調べたら(保育士資格を持った職員は)一人もいませんでした。もう娘は帰ってこないのに、気をつけよう、注意しよう、指導しようばかりで、(問題の多い施設は)閉園すべきという言葉がないのがすごく辛いです」

    両親の代理人・寺町東子弁護士も、監査の際に指導が重なった施設には厳しい改善勧告を出すなど、より踏み込んだ内容の提言がなされても良かったのではないかと指摘。

    具体的には、保育士資格がある職員がいない施設は閉園させるなどの規定ができれば、園にとっても保育士を雇用するモチベーションとなり、結果的に保育士の待遇改善に繋がるのではないか、と話した。