望まない妊娠をした女性が中絶手術を受けることを、ほぼ全面的に禁止した法律が5月15日、アメリカ南部のアラバマ州で成立した。
妊娠期間を問わず、レイプ被害や近親相姦による妊娠であっても例外は認めないとする内容で、多くの女性や著名人から反発の声が上がっている。
レイプされても中絶できない
法案はアラバマ州議会上院で、賛成25、反対6で可決され、15日にケイ・アイビー知事が署名して成立。
中絶した女性は罪に問われないものの、手術をした医師には10~最大99年間の禁固刑を科すと定めた。
議会では、民主党議員らが、レイプ被害や近親相姦で妊娠した場合は中絶を認めるべきだと主張し、激しい議論が交わされたが、「生死に関わる深刻な健康リスク」にさらされている場合を除いて、例外は認めないとした。
議会で賛成票を投じた25人は全員、保守派とされる共和党に所属する男性議員だった。
民主党のリンダ・コールマン-マディソン議員は、賛成票を投じた男性議員に向かってこう議会で怒りをあらわにした。
「この法律は、胎児の命を守ろうというものではありません。この法律は(女性を)支配するためのものです。私の子宮はあなたたちのものではありません」
「あなたたちは妊娠したことがないでしょう。あなたたちは、妊娠している女性がどんな経験をするか知りもしないでしょう」
「(出産は)二人の選択であるはずなのに、この法律では片方だけが犠牲になっているのはどうしてでしょう」
署名をしたアイビー知事は「この法律は、全ての命は尊く、神からの聖なる贈り物であるというアラバマ市民の強い信念を象徴する、強い証となった」という声明を発表した。
法案は6カ月後に施行される予定。中絶擁護派の団体などが、近日中にアラバマ州に対して訴訟を起こし、阻止すると表明している。
多くの著名人が反発
アメリカでは、キリスト教保守派を中心に「胎児の命を守るべきだ」と主張し、人工妊娠中絶に反対する「Pro-Life派(生命派)」と、女性が中絶を受ける権利を尊重するべきだと主張する「Pro-Choice派(選択派)」の間で、長年議論が続いている。
アメリカのほとんどの州では、「妊娠24~28週までは中絶することを認める」と判断した1973年の最高裁判決に沿った制度を設けている。
一方、2019年に入ってから、アラバマを含む7つの州で中絶手術を受けられる期間を狭める法律が成立しており、議論が加熱している。
全米でも最も厳しいとされる「中絶禁止法」の成立に、ヒラリー・クリントンや歌手のレディ・ガガ、映画「アベンジャーズ」シリーズでキャプテン・アメリカとして活躍するクリス・エヴァンズなど、多くの著名人が反発する声を上げた。
レディ・ガガ「これは悲劇に他ならない。この制度の犠牲となる全ての女性や若い女の子たちのために、祈ります」
ヒラリー・クリントン「娘や孫たちの権利が、私たちよりも狭められる未来など決して受け入れてはいけません」
クリス・エヴァンズ「本当に信じられない。…だから投票することが大事なんだ!!」
モデルでタレントのジャミーラ・ジャミルは、自身が中絶を受けた経験を明らかにした。
「私は若い頃に中絶しましたが、人生で一番いい選択だったと思います。私自身のためにも、私がまだ精神的にも金銭的にも育てる準備ができていなかった赤ちゃんのためにも」
【UPDATE】表現を一部修正しました。