トランプ大統領が就任へ 正義と平等を求めるデモ、世界150万人が参加か

    東京・大阪でも

    それは弁護士を引退した、ひとりの60代の女性のヒラメキから始まった。

    「大統領就任式の前後に、ワシントンDCで女性たちがデモ行進をしてはどうかしら」

    昨年11月9日。ドナルド・トランプ氏が大統領に当選した翌日だった。

    ハワイ州に住むテレサ・シュックさん。友人にFacebookの使い方を教えてもらい、イベントページを作ってみた、とワシントンポスト紙は伝える。女性たち40人が参加を表明してくれたのを見て、眠りについた。

    朝起きると、その数は1万人になっていた。

    いま、21万人を超える。

    それだけではない。連携したデモ行進が57カ国の616カ所で計画され、136万人が参加を表明した。

    インターネットでつながった草の根運動が、歴史上かつてない連帯を見せている。

    女性をおとしめる

    シュックさんを突き動かしたのは、女性を貶めて恥じ入らないドナルド・トランプ氏の大統領の当選と、より大統領職に相応しいと思っていたヒラリー・クリントン氏の落選だった。

    民主党の大統領候補、ヒラリー・クリントン氏は得票数では286万票差をつけて勝ったものの、選挙制度の壁に阻まれ、敗れた

    出口調査では、女性の過半数(54%)はクリントン氏を支持。トランプ氏支持は41%だった。これが男性では逆転する。過半数(52%)がトランプ氏支持。クリントン支持は41%だった。

    トランプ氏は、女性を容姿で罵倒し、ランク付けした。妻は食事を用意する存在だし、中絶する女性は罰せられるべきだと言い放った。「有名人なら女性器をつかんでも構わない」と自慢する会話も報道された

    「選挙期間中の発言は、私たちの多くをおとしめ、悪者扱いし、脅すものだった」。運動の声明文は指摘する。

    デモ行進の目的はトランプ氏への個人攻撃ではない。むしろ、女性の権利の擁護やエンパワーメントといったポジティブな意義を掲げる。

    「社会の指導的役割のすべての階層で、女性が平等な価値を持つまで休むことはない。平和的な運動をする。だが、全ての人に正義と平等がもたらされることなく、本当の平和はない」

    振り出しには論争も

    ただ、運動は、順調な滑り出しだったわけではない。

    当初、参加者は白人女性ばかりだった。これに、フェミニズム運動からマイノリティーの女性たちを排除しようとする動きだと、噛みついた人たちがいた。

    デモは当初「百万人の女性大行進(Million Woman March)」と名付けられていた。1997年にフィラデルフィアで、人種差別に抗議して主に黒人女性が起こしたデモ行進と同名だったため、この怒りに油を注いだ。

    差別の意図はなかったというシュックさん。予想外に参加者が拡大して、手に負えなくなり、デモの経験豊富な人たちに運営を預けた。

    「女性のワシントン大行進(Women's March on Washington=WMW)」という名前に落ち着いた。

    1963年の再来

    これは1963年の「ワシントン大行進(March on Washington)」に由来する。キング牧師が「 私には夢がある(I Have A Dream)」の歴史的演説をしたデモで、翌年の人種差別を禁止する公民権法につながった。

    キング牧師の娘からも応援メッセージが届いた。デモの許可を取り、簡易トイレや音響設備など準備は着々と進んだ。

    広がる連帯

    参加を表明する人たちが増え、賛同する団体が多くなっていくと、その理念も「女性の権利」を超えて広がっていった。

    環境保護、障がい者福祉、司法における正義、銃規制、反人種差別、格差是正、報道の自由、反原発——。パートナー団体の数は450を超える。不平等や不正義に声をあげてきた団体が次々に共鳴している。

    主催者もこうした意義を主旨に加えていった。「女性の権利は人権」「人権を擁護する全ての人たちに参加を呼びかけます

    芸能人も

    芸能人も次々と参加を表明した。

    女優スカーレット・ヨハンソンやアメリカ・フェレーラ、歌手ケイティー・ペリー、シェール、 ゼンデイヤ——。うちヨハンソンとフェレーラは登壇する

    「わたしが参加する理由」

    人々はなぜデモに参加するのか? ハッシュタグ「#WhyIMarch(行進するワケ)」でこんな風に意思表明している。

    女性の権利を後戻りさせないため。女性や少女たちに対して、声を上げて、その声を届けるように、力づけるため

    性的暴力を振るって、それを認めている人間を大統領として迎え、数百万人がそれでもOKだと思っているから

    女性がどんな格好をし、どう振舞うべきかを決める烙印や偏見をなくすため

    「(娘に)身体の自己決定権を持っていると知ってほしいから。できること、できないことについて政府が干渉するようになったら、おしまいだから」

    これまで政治的な運動はしてこなかった人たちが参加を表明しているのも特徴だ。広報を担当するヨーダノス・イヨエルさんはこう話す。「だからこそ、この運動はより特別なんです」

    ワシントンを超えて

    ワシントンDCだけでなく、各地域なりのデモが予定されている。

    マウイ島では、ハワイの伝統的な黙祷で始まる。アラバマ州バーミンガムでは歴史的な教会に集まる。黒人の多く通う教会で、公民権運動の中で爆弾が投げ込まれて少女4人が亡くなった。ドイツ・ベルリンは、東西ドイツ分離と統合の象徴・ブランデンブルク門まで歩く。

    トランプの勝利は、特にヨーロッパで極右団体のレトリックを煽った。これに抗議する人々を恐怖に陥れた。WMWは抵抗運動のグローバルな象徴になっていった

    運動の広がりをつぶさに見てきたヴィヴィエン・メイヤー記者が書く。

    アジアでも、韓国、シンガポール、インドなどでデモが予定されている。主旨に賛同する人は誰でも参加でき、ホームページで意思を表明できる。

    東京・大阪でも

    日本は東京大阪である。

    東京は1月20日(金)午後5時半から米国大使館の外で集会、午後6時半に日比谷公園の西幸門近くから六本木の三河台公園まで行進する(日本語)。

    主催は、日本の米民主党員らの集まり「Democrats Abroad Japan」で、行進の意義をこう説明する。「『反トランプの抗議』ではありませんが、新政権によって、(オバマ大統領が)懸命に働いて実現してきた社会的、経済的、国際的な実績が後戻りしてしまう可能性を懸念し、行進します。多くの日本の友人のみなさんにも、平和のうちに連帯し、ともに行進していただけたらと思います」

    大阪は1月20日(金)午後7時に中之島公園に集まる。午後7時半すぎに出発し、米国総領事館前まで歩いて公園に戻る。

    「このデモ行進は日本で人々をつなぐものです。人種差別、性差別、同性愛差別、トランスジェンダー差別、白人優越主義、障がい者差別、国内外の政治空間でのあらゆる抑圧によって、多様なコミュニティが脅かされるとき、黙ってはいないことを意見表明するものです」と主催者はBuzzFeed Newsに答えた。

    声をあげる女性たち。その応援者たち。WMWの主催者はこんな声明を出している。

    女性のワシントン大行進は最初のステップです。その後どうするか、それは私たち自身にかかっているのです