【米大統領選】やっぱり政治家は嘘つき? 討論会で非難の応酬、実は根拠なし

    日本の政治家は大丈夫?

    10月4日夜(現地時間)に開かれた米大統領選の副大統領候補2人による討論会。舌戦が過熱して、嘘をついたり、成果を誇張したり……。政治家が質問を煙に巻くのは、万国共通?

    赤いネクタイをしているのが民主党のティム・ケーン氏。青いネクタイが共和党のマイク・ペンス氏だ。初の直接対決は1時間半。だが相手を攻撃するがために、事実と異なる発言も相次いだ。米報道などから発言を検証する。

    貧困問題

    共和党のペンス氏「貧困状態にある人は、オバマがクリントンとともに就任した日より、今日のほうが、数百万人多い」

    New York Timesによると、貧困に関するデータは年1回しか発表されないので、この主張は立証できない。

    オバマ大統領が就任した2009年と2015年を比べると、貧困状態にある人たちの数は42万6千人減った。一方、オバマ大統領が選出された2008年と2015年を比べると、330万人増えている。サブプライムローン問題に苦しんだ時期だ。いつの統計数字を引っ張るかで、変わる。

    雇用の創出

    民主党のケーン氏「(現政権下で)1500万人の雇用が増えたけど?」

    「現政権の政策は経済をめちゃくちゃにした」という共和党のペンス氏に対する答え。

    だが、統計によると、オバマ大統領が就任した2009年1月と比べると、増えたのは1054万人にとどまる。ただ、在任中の底だった2010年2月と今年8月を比べると、たしかに1486万人増えた。どう統計を見るかで変わる。

    みんなに減税?

    共和党のペンス氏「経済を再び前進させるプランを持っている」「勤労世帯、中小企業、家族経営農場、すべての税金を下げる」

    ニューヨーク大学のリリー・バチェルダー教授の分析によると、共和党の大統領候補ドナルド・トランプ氏のプランでは、子どもがいる家庭の2割にのぼる780万世帯は、増税となる。

    税金逃れ問題

    民主党のケーン氏「(トランプ氏が)払った税金はわずかだし、毎年数十億ドルの損失を出している」

    たしかに、New York Timesはトランプ氏の税金逃れ疑惑を報じた。1995年の納税記録によると、9億1600万ドルの損失を申告し、18年間にわたって納税を逃れた可能性があるという。

    だが、トランプ氏は納税記録を公開していないため、詳細は分からない。

    プーチン大統領

    民主党のケーン氏「ロシアには強気に出なければだめだ。だから、プーチンを偉大なリーダーとは褒めないことから始めましょう。トランプとペンスは彼を偉大なリーダーだと言った」

    共和党のペンス氏「いいえ、私たちは言っていません」

    一言一句正確ではないが、トランプ、ペンス両氏はこの趣旨の発言をしている。

    トランプ氏はこう話している。「あの男は国にとても強い支配権を持っている。システムは全然違うし、あのシステムは好きじゃないが、あのシステムでは確かに彼はリーダーだ。我々の大統領よりもはるかにリーダーらしい。プーチンとはとてもいい関係を築けると思いますよ」

    ペンス氏はこう話している。「この国でのオバマに比べ、プーチンが彼の国で、より強いリーダーなのは議論の余地はないと思いますよ」

    NATO離脱?

    民主党のケーン氏「同盟関係は非常に重要だ。だからこそトランプがNATOは時代遅れで、NATOとおさらばする必要があると主張するのはとても危険なんです」

    たしかに、トランプ氏は「時代遅れだ」と話している。だが、離脱については言及していない。

    イラク問題

    共和党のペンス氏「クリントンが再交渉に失敗したから、イラクはISIS(イスラム国)に侵略された」

    New York Timesは、民主党の大統領候補となったヒラリー・クリントン氏だけを非難するのは誤りだ、と主張している。

    2009年1月、オバマ大統領は就任時、ブッシュ前大統領がイラクのマリキ首相(当時)と交渉した地位協定を引き継いだ。2011年末までに米軍を撤退させる内容だった。

    再交渉に臨んだ両国だが、イラク議会の反対にあったマリキ首相は更新に反対。米軍を保護する協定がなくなり、アメリカ軍は撤退した。

    オバマ大統領と当時国務長官だったクリントン氏が粘り強く交渉していれば米軍は駐留し続け、イスラム国の侵略を食い止められたと主張する専門家もいる。だが、イラク自体の失敗だという専門家もいる。

    イラン核兵器

    民主党のケーン氏「(クリントンは)世界中の国々と困難な交渉を重ねて、銃弾1発を撃つこともなく、イランの核兵器プログラムを根絶した」

    たしかに、欧米など6カ国に対し、イランはウランを濃縮する遠心分離機などを大幅に削減することに合意した。だが、核開発施設を根絶はしてはいない。合意の期限が切れる15年後、核兵器開発を再開することは可能だ。

    ブッシュ政権の減税で景気後退?

    民主党のケーン氏「(トランプ陣営は)高所得者層の巨額減税をする計画だ」「これこそが10年前やったことで、1930年代以降、最悪の景気後退に陥った」

    ブッシュ前大統領の施策を非難した発言。だが、景気後退は住宅バブルの崩壊から始まった。

    開かれた国境

    共和党のペンス氏「クリントンとケーンはオープン・ボーダー(通行自由な国境)政策を続けたがっている」

    クリントン氏は「オープン・ボーダー」を主張していない。

    New York Timesによると、昨年、違法な国境侵入の件数は1970年代以降で最低水準に落ちた。国境警備隊の数はオバマ大統領の就任以来、約3千人増え、過去最多に近い2万人超となった。

    クリントン氏は国境警備の強化を支持している。2013年、国境警備のために少なくとも460億ドルを増額する法案が上院を通過した。クリントン氏はこれに賛成している。

    大量の強制送還

    民主党のケーン氏「(トランプは不法滞在の移民に関して)『壁を立てるんだ。全員を送還するんだ』と言った。『みんないなくなる』と述べた」

    たしかに、トランプ氏は「南部の(メキシコとの)国境に『万里の長城』を築く」と発言した。だがNPRによると、全員ではなく「200万人の犯罪を犯した外国人」を送還すると話している。


    論戦によって、与野党の候補者を吟味するというのは日本には馴染みの薄い文化。でも、自分をよくみせようという政治家の習性は世界共通かもしれない。

    経済でも安全保障でも日本に大きな影響を与える米大統領選。次回ヒラリー氏対トランプ氏の論戦は日本時間の10月10日午前10時からだ。


    サムネイル写真はMANDEL NGAN, SAUL LOEB, PAUL J. RICHARDS/AFP/Getty Images