日本の政治家の言葉に飽きちゃったあなたへ ヒラリー演説は人々を熱狂させる

    彼女は「敵」にすら連帯を呼びかける

    米民主党の大統領候補ヒラリー・クリントン(68)が7月28日、民主党全国大会で指名受諾演説をした。日本の政治家からはあまり聞くことがない、感動的な演説と内容だ。そのポイントは。

    対トランプ、団結を強調

    恐怖心をあおり、排外的政策を並べるドナルド・トランプを意識して、団結を強調したのが第一の特徴だ。「ともに(together)」を多用した。

    わたしたちの一人ひとりが、エネルギー、才能、熱意を持って、アメリカをよりよく、より強い国にする必要がある。心からそう信じています。

    だからこそ「ともに強く」はただの歴史の教訓でも選挙戦のスローガンでもありません。これまでも、これからも、この国の基本理念です。

    共和党の指名受諾演説でトランプがアメリカを「一人で立て直す」と胸をはったことには、自らの理念ゆえに、こう反論した。

    アメリカ人は「私だけが解決することができる」とは言いません。わたしたちは「ともに解決しよう」と言うのです。

    敵愾心をあおって、分断しようとはしない。

    民主党員、共和党員、無党派の人たち、苦労している人たち、頑張っている人たち、成功している人たち、わたしに投票してくれる人、そうではない人、すべてのアメリカ国民のために働く、大統領になります。

    わたしたちは、誰のものであろうとも、悪意を持って人々を分断するようなレトリックに立ち向かいます。

    貧しかった母からの教え

    親から巨万の富を引き継いで、不動産王として名を馳せるトランプに対し、自らの半生も振り返った。ヒラリーは典型的な労働者家庭の出身だ。父親は生地を扱う自営業者、母親は専業主婦だった。

    母ドロシーは幼いころ両親に捨てられました。14歳から家政婦として働き始めたんです。他人の好意に救われました。小学1年生のとき、ランチに食べるものを持っていなかったのを見た先生は、1年間ずっと食べ物を分けてくれました。

    後年、母から学んだ教訓は私を貫いています。一人で生きて生きていける人なんていません。助け合い、励まし合わなければなりません。

    断固としたテロとの戦い、同盟国との協調、TPPの否定ーー。こうした実務に触れ、国務長官としての実績をPRすることも忘れなかった。そして、トランプが場当たり的な発言を繰り返すことをこう批判した。

    ドナルド・トランプに最高司令官となる性分があると思いますか?(中略)彼が大統領執務室で本当の危機に直面しているところを想像してみてください。ツイートで釣られるような男に、核兵器を委ねることはできません。

    女性初の大統領

    当選すれば初の女性大統領となることもテーマの一つだった。地位や処遇などで女性差別が続くアメリカでは、平等な社会に向けた象徴的な出来事になる。

    娘として、母として、ここに立ち、この日が来たことを非常に喜ばしく思います。祖母たち、小さな女の子たち、その間にいるすべての女性たちのためにも。

    男の子たちや男性たちのためにも。アメリカでどんな障壁が崩れるときも、それはすべての人に道が開けることを意味するからです。

    なにしろ、天井がなくなれば、空が限界になるのです。

    「天井」は女性が社会で直面する「ガラスの天井」を指した表現。どんなに努力しても、差別から男性のような地位が得られない限界を意味している。

    ですから、前進し続けましょう。アメリカ中にいる1億6100万人の女性や女の子たちすべてが自らにふさわしいチャンスを持てるようになるまで。

    女性であることを政治利用していると批判され、これに反撃した経緯にもウィットを絡めて触れた。

    家族と仕事のバランスをとる支援をします。手ごろな料金の保育や家族のための有給休暇制度を勝ち取るために戦うことが「女性カード」を利用しているというなら「受けて立つ」。

    クリントン陣営は4月、女性であることを利用する「女性カード」を切ったとトランプから揶揄されたため、逆手にとって「女性カード」の実物を作り、献金と引き換えに配布した。そこに印刷されていた言葉が「受けて立つ」。

    Just got my Woman Card. Forgot the Hillary campaign did these.

    話はそれるが、女性初の大統領誕生には、ミシェル・オバマ大統領夫人もこの大会で期待を寄せた。ミシェルは演説で、ホワイトハウスの建設に奴隷が駆り出されたことに触れ、こう続けた。

    私の娘たち、二人の美しく、聡明な、若い黒人女性がホワイトハウスの芝生で犬たちと遊ぶのを見ます。ヒラリー・クリントンのおかげで、私の娘たち、わたしたち皆の子どもたちは、女性もアメリカ大統領になれるのが当たり前だと思えるのです。

    アメリカは「地球上で最も素晴らしい国」と言って、こう続けた。

    娘たちが社会に巣立つ準備をするにあたり、リーダーにはこの真実にふさわしい人であってほしいと思います。私の娘たちの将来、わたしたちみなの子どもたちの将来にふさわしいリーダーです。日々、愛情、希望、子どもたちにかけるとても大きな夢によって突き動かされるリーダーです。

    格差の是正

    話をヒラリーに戻す。

    指名を争ったバーニー・サンダース上院議員の主張に配慮した姿勢も際立った。バーニーは格差是正・社会的正義の実現を訴え、若者を中心に「政治革命」旋風を巻き起こした。そこで、ヒラリーはこう訴えた。

    バーニー、あなたの選挙戦は数百万のアメリカ国民に元気を与えました。特に、若者は予備選に心血を注いでくれました。あなたは経済、社会正義の課題を前面に中心に据えました。それはふさわしいことです。

    そして、ここや全国にいるあなたの支持者の方に知っていだたきたい。あなたたちの声を聞きました。あなたたちの大義はわたしたちの大義です。

    この国にはみなさんのアイデア、エネルギー、情熱が必要です。それがあって初めて、私たちは革新的な綱領をアメリカの真の変革へと変えられます。わたしたちは一緒にそれを書きました。さあ外へ出て、それを一緒に実現しましょう。

    トップ1%層が富の過半を独占するゆがんだ配分構造。金持ちを優遇する税制。バーニーが訴えてきたこれらの是正も取り上げた。

    ウォール街、企業、大金持ちたちには、相応の税金を払ってもらいます。(中略)お金の流れをつかみます。

    大学の学費無償化でも踏み込んだ。

    バーニー・サンダースとわたしは協力して、中流家庭の大学学費を無料化し、借金を背負わなくていいように取り組みます。

    最後は団結を強調

    ヒラリーは演説の最終部分で、再び団結を訴え、思いやりの大切さや物事をやり遂げる自らの強い意志を強調した。

    銃だけなく、人種、移民、他の問題でも、国内の分断を癒さねばなりません。それは互いに耳を傾け合うことから始まります。できる限り、お互いの立場に立って考えてみるのです。

    構造的な人種差別にさらされ、自分の命は使い捨てにされると感じさせられている黒人やヒスパニック系の若者の立場に立ってみましょう。

    選択肢は明らかです。みなさん。これまでアメリカ人は、国をより自由に、公平に、強くするために結束してきました。たった一人では、できたことでも、できることでもありません。

    あまりにも多くのことが私たちを分裂させているように見えるいま、どう団結できるか想像するのは難しいかもしれません。でも今夜みなさんに、前に進むことは可能だとお伝えします。

    そう言えるのは、アメリカ中で打ちのめされても立ち上がる人々の人生のなかにそれを見てきたからです。私自身の人生もそうです。何度も、自分を奮い立たせ、戦いに戻ってきました。

    ヒラリーは8年前、オバマ大統領と争って指名獲得選挙に敗れた過去がある。こうしたヒラリーの根性にはオバマ大統領も演説で敬意を示していた。

    大統領に必要な資質は、準備できるようなものではありません。読むことも、学ぶこともできるでしょうが、あのデスクにつくまで、グローバル危機を乗り越え、若者を戦地に送ることがどういうものなのかはわからないのです。

    しかしヒラリーは大統領執務室にいました。意思決定の一員だったのです。政府の決定でなにが重要かわかっています。労働者家庭や高齢者、中小企業主、兵士、退役軍人にとって重要なことも何かわかっています。そして危機のど真ん中でさえも、人々の声に耳を傾けるのです。冷静に、敬意をもって接するのです。どんなに大変な難題でも、どんなに人々が打ちのめそうとしても、彼女は絶対にいつも投げ出しません。

    約1時間に及んだヒラリーの演説。最後はやはり、国民と「ともに」というメッセージだった。

    ともに強くなりましょう、アメリカ国民のみなさん! 勇気と自信を持って未来に目を向けましょう。 わたしたちの愛する子どもや愛する国のために、よりよい明日を築きましょう。

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