6月23日(現地時間)の国民投票でEU離脱派が残留派を上回ったイギリス。離脱派が使ったカードの一つが移民問題だった。
離脱派の主張
EU離脱派は、移民をコントロールする、と主張した。
国家統計局(ONS)によると、移民の流入数は増えている。黄色の折れ線グラフが移民の流入数だ。水色の棒グラフが純流入数(流入ー流出)を示している。2015年の純流入数は33.3万人だったと見積もる。
移民問題が焦点に
なぜか。
移民問題は「国民的、文化的アイデンティティーにつながる論点で、特に低所得者を引きつけた」とBBCは分析する。いま起きているヨーロッパの難民危機も影響したとみる。
離脱派は「EUを離れたほうが、移民の数をコントロールしやすい」というロジックを展開した。BBCの解説。
「自分の国のことは自分で決める、国家主権を行使する一世一代のチャンスだという離脱派の根本的な主張は、さまざまに形を変えながらも、広く共感を呼び、途切れることなく響き渡った」
外国人嫌悪は根強かった。投票の翌日、チャンネル4ニュースがイングランド中部バーンズリーでインタビューすると、ある男性はこう答えた。
「移民問題が一番重要なんだ。イスラム教徒がこの国に来るのを止めるんだ。ヨーロッパ内の人の移動はいい。だが、アフリカやシリア、イラク、その他の国は、みんなダメだ」
移民の数↑ 離脱↓のパラドックス
では、移民が多い地域ほど、EU離脱派が多かったのだろうか。
ガーディアンは、国民投票の詳細を見るとパラドックスが浮かび上がる、と指摘する。
例外はあるとしながらも「移民が多い地域は、移民問題を不安に思っていない。残留に投票した人たちが多かったのは、移民の純流入数が多い地域で、離脱派が強かったいくつかの地域は近年の移民が非常に少なかった」。
例えば、ロンドン市内のランベス。全国最多の78%が残留を支持した。移民の純流入数は4598人だった。一方、エセックスのキャッスルポイントは72%が離脱を支持。だが、流入は81人だった。
どういうことか。
調査会社Ipsos MORIのボビー・ダフィー氏の言葉をこう伝える。
「地元地域や生活への実際の直接なインパクトよりも、全体的な不安感が広がっていた」
「不安感は事実ではないという意味ではない。移民が私たちの国を変え、社会や国民健康保険のようなサービスに圧力をかけているのを心配するのは正当だ。だがそれにしても、驚くべきことに、離脱の投票に駆り立てた一つの最も重要な理由は全人口の5分の1にしか直接のネガティブな影響がないのだ」
ガーディアンは記事をこう締めくくった。
「移民を減らす唯一確実な方法は経済をクラッシュさせることだが、プロジェクト『恐怖(Fear)』がプロジェクト『事実(Fact)』になるのかはまだ分からない」
統一市場 理想と現実
国民投票で離脱が選ばれたことは、移民を排斥したい人たちを勢いづかせた。外国人差別を報告するツイートは後を絶たない。「帰れ」と叫ばれたり、軽蔑の言葉が落書きされたりしている。子どもも標的だ。
「今晩、バーミンガムで娘が仕事を終えたとき、数人の若者がムスリムの女の子を取り囲んで『出て行け。離脱に決まったんだ』と叫ぶのを見たそうです。ひどい時代」
「隣の席の男女の客がポーランド人のウエイトレスに『なんでそんなに楽しそうなんだ?故郷に帰るんだぞ』と言って、笑い始めた。なんてひどい」
自由な経済圏が促進するヒト、モノ、カネの活発な移動。EUは域内の経済を活性化し、平和と安定の礎とする壮大な試みだった。
だが、この自由なヒトの流れが、自由経済圏を否定する皮肉な結果をもたらした。ブッシュ前米大統領のスピーチライターはアトランティックへの寄稿でこう書いた。
英米や欧州の政策当事者は「オープンなグローバル経済は大量の人の移動を意味する(必要ともする)ことは当たり前だと思っていた。だが、この大量の移民こそが、大衆主義的で移民排斥主義的な反応を引き起こし、このオープンな経済を脅かしている」
フィナンシャル・タイムズは6月25日、イギリスで数万人の雇用を抱える主要な米系銀行が一部機能をダブリンやパリ、フランクフルトなどの都市へ移す用意をしている、と伝えた。
訂正
YouGov調査のグラフの説明を直しました。