大統領選の結果を左右するテレビ討論。10月19日夜(日本時間20日朝)に最終討論会があった。主要メディアが電子版トップにこぞって掲げた見出しはトランプ氏のこの発言だった。選挙結果を受け入れるかは「お楽しみにということだ」。
主要メディアの見出しは図ったかのように一様だった。
ニューヨークタイムズ「トランプ 選挙結果を受け入れるか言わず」
ワシントンポスト「トランプ、選挙結果を受け入れるかどうか明言を拒絶」
ウォールストリートジャーナル「トランプ、負けたときに結果を受け入れると約束せず」
NPR「最終討論会、トランプ、選挙結果を受け入れると約束せず」
CNN「お楽しみにということだ」
NBC「トランプ、選挙結果を受け入れると言わず 『お楽しみに』と断言」
何を言ったのか
この発言が飛び出したのは、討論会の後半だった。
世論調査ではクリントン氏の優勢が伝えられており、トランプ氏は自身の集会で「この選挙は不正が行われている」と訴え始めている。
これを受けて、司会者はトランプ氏に尋ねた。
「選挙結果を受け入れると誓うか?」
トランプ氏の答えは「その時に考える」。開票されるまで回答を留保するという意味だ。そして、こう続けた。
「メディアは不誠実で汚職にまみれている。有権者の判断力を毒そうとしている。だが、有権者はそれを見抜いていると思う」
「数百万人が不当に有権者登録をしている」
「クリントン氏は犯罪者だ。クリントン氏が出馬を許されるべきではないという点で、不正選挙だと言える」
クリントン氏が出馬していることこそが、不正の証拠だとぶち上げたのだ。
司会者は詰め寄った。
民主主義国家では、平和な政権移行が基本。どんなに激しい選挙戦を繰り広げたとしても、敗者は負けを認め、一丸となって国に尽くすのがアメリカの原則だと諭した。「この原則を守れないと言っているのか?」と尋ねると、トランプ氏はこう答えた。
「その時になってから言う。お楽しみにということだ。オーケー?」
民主主義の前提を崩す発言。NPRは「際立った発言で、呆然とした瞬間だ」と書いた。
討論では、ここでクリントン氏が割って入った。
「一言いわせてほしい。何しろ恐ろしいので。トランプ氏はいつでも思い通りにいかなくなると、不正が行われていると批判する。米連邦捜査局(FBI)が私の電子メールを調査して、立件しないと結論づけたときは、FBIが不正をしていると言った。(共和党の大統領候補を決める)アイオワ州やウィスコンシン州の予備選で負けると、共和党が不正だと言った。裁判所や連邦判事が不正をしているとも主張した。テレビのエミー賞を3回連続で逃したときはエミー賞を不正扱いした」
「これがトランプ氏の考え方だ。極めて問題だ。これは民主主義ではない。過去250年、自由で公正な選挙をしてきた。選挙結果が気に入らなくても、受け入れてきた。選挙期間中、討論の舞台に上がる者はみな、そうしなければならない」
「トランプ氏は中傷している。民主主義を見下している。主要政党の大統領候補がこのような考え方をすることにはゾッとする」
劣勢が伝えられるトランプ氏。支持者を掘り起こすことが必至の時期に、アメリカの原則を否定する発言は大きな驚きを持って受け止められた。
火消しに躍起
討論後、陣営はこの発言の火消しに回った。CNNによると、選対責任者のコンウェイ氏は「トランプ氏は選挙結果を受け入れる。勝利するからだ」と断言。
NBCによると、プリーバス共和党全国委員長も、「トランプ氏は結果を受け入れるだろう」と述べ、トランプ氏が勝つからだと続けた。
Twitterではこんな画像ツイートが話題に。大統領職を引き継ぐ際に、共和党のジョージHWブッシュ氏が民主党のビル・クリントン氏へ宛てた手紙だ。
ビルへ
いまこの執務室に歩を進めるとき、4年前に感じたのと同じ躍動感と尊敬の気持ちを感じる。君もそうだと思う。
ここでの君の大いなる幸福を祈る。私はかつて何人かの大統領が述べたような孤独を感じることはなかった。
困難なときもあろう。フェアだとは思えないような批判によって、困難は増すかもしれない。私は助言するのに適した人物ではないが、批判する者たちによって打ちひしがれたり、進む道を外れたりしないでほしい。
君がこの手紙を読むとき、君はわたしたちの大統領になるのだ。無事を祈る。家族の無事を祈る。
君の成功はわれわれの国の成功だ。君を大いに応援している。
幸運を
ジョージより
1993年1月20日