お笑いコンビ「ずん」の飯尾和樹が、初めてのエッセイ集『どのみちぺっこり』(PARCO出版)を出した。
同書のなかで力説するのが、ハンバーガーに挟まったピクルスの魅力。飯尾が「ピクルスってすごい実力の持ち主なんじゃないかと思うんです」とつづる理由とは?
最悪の第一印象

――2 ページ以上を割いて、ピクルスについて語っていますね。
5、6歳のころ、チェーン店のハンバーガーを初めて食べた時に、口から出した記憶があります。CMだとおいしそうだったのに、何だこれ?って。
母方のおばあちゃんから「それは外国の漬物みたいなもので、ピクルスっていうんだよ」と説明されて、マズイなと思って。
――第一印象はよくなかった。
はい。だけどいまは好きですね。
おひたしの良さを知る

――いつごろから好きになったのでしょう。
30歳過ぎてくらいからですかね。春菊とかピクルスとかの良さがわかるようになってきたのは。
自分は本当に味覚がガキで、刺身を食べられるようになったのも中学に入るか入らないかぐらい。洋食とかの方が好きで。
ひとり暮らし始めたのも大きかったですかね。料理もちょっとしていて、カレー、フライ、生姜焼き…と好きなものばっかりつくってたら、3ヶ月ぐらいで飽きまして。
そのころから、青野菜の良さとか、おひたしやゴマあえの良さとか、わかるようになってきました。
スターが結集したハンバーガー

――ハンバーグやパン、チーズなどスター集団に混じってピクルスが存在感を発揮している、という『どのみちぺっこり』での絶妙なたとえ話に思わず吹き出してしまいました。
《そう考えると、ピクルスってすごい実力の持ち主なんじゃないかと思うんです。あの『オーシャンズ11』みたいなメンバーに食い込むピクルス。いやぁ、素晴らしいですよね》
(『どのみちぺっこり』)
スターが集まってね。みんな主役を張れる人ばっかり。
グルメ本とかでも、ハンバーグ特集、チーズ特集、パン特集とかあるけど、ピクルス1本の特集ってなかなかないですよね。
普段クローズアップされることもないんですけど、映画がヒットしてマニアが増えた時にやっと(スピンオフが)できる感じ。
ハンバーグが主役で、チーズとかパンとか1番手、2番手のエピソードトークがあって…。
――ひな壇でいったら隅っこの方。
そう、隅っこですね。
ピクルスみたいな頑張りを

――そんなピクルスにあえて光を当てたのは、ご自身を投影された部分もあるのでしょうか。
《この年になってもハンバーガーを最後まで食べられるのは、ピクルスのおかげだと思っています。彼はいぶし銀のいい働きをしていますよね。よくぞ、その生き方を見つけたよなと感心さえします》
(『どのみちぺっこり』)
そうなんでしょうね。ピクルスみたいな頑張りをしていかなくちゃいけないんじゃないか、という思いがあるのかもしれないです。
――《ピクルスも若い頃は苦労したと思います》とも書かれていましたが(笑)
僕の場合、苦労でも何でもないですけどね。
ピクルスも多分、子ども番組に出られるほど市民権は得ていない。時間帯でいうと夜11時ぐらいなんですよ。
ピクルスが中心になってくるのは2軒目、3軒目ですもんね。ちょっと小皿に乗せてお通しとか。「もうお腹いっぱいだし、漬物ないならピクルスで!」みたいな。
――でも、ないと困るという。
やっぱりハンバーガー頼む時、ピクルスもう2枚ぐらい入っててほしいと思いますからね。
「冠」の責任

――「特別であれ」「オンリーワンであれ」という風潮がありますが、みんながみんなハンバーグやパンになれるわけではない。「ピクルスでもいいんだ」と思えたら、気が楽になるかもしれません。
そうですよね。
もしハンバーガーがマズかったら、まず「ハンバーグがマズイ」と連想される。背負ったら背負ったで、責任を負わなきゃいけません。
ハンバーグの次はパン、次はチーズと目立てば目立つだけ背負うものもある。
自分の冠番組を持つのと同じ。1回調子が悪かっただけで「あいつは終わった」って言われちゃうわけですよ。
ネガティブな時にいっぺんに集中砲火を食らうから、やっぱり大変だと思いますね。
楽屋は小さいけれど

――つらい。その点、「ピクルスのせいで番組が終わった」ということは、あまりなさそうですよね。
そのぶん楽屋も小さいですけど(笑)
ピクルスはすごいですよ。ないと飽きるし、物足りなくなる。漬物だから長持ちしますし。

〈飯尾和樹〉 東京都出身。1968年12月22日生まれ。1990年、浅井企画に所属。お笑いコンビ「チャマーず」「La.おかき」を経て、2000年に相方やすと「ずん」を結成、ボケを担当する。バラエティー番組からドラマ、映画まで幅広く活躍中。