話題の「ゾンビ村」動画、仕掛け人が明かす意外な狙い

    村長以下、村人総出でつくりあげたPR動画の誕生秘話

    山深い村にソンビがうじゃうじゃ…。山梨県小菅村が移住促進のために村人総出でつくったPR動画「小菅村オブザデッド」が、「面白い」「クオリティーが高い」と話題です。BuzzFeed Newsは、仕掛け人の地主恵亮さんや村役場に狙いを聞きました。

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    小菅村オブザデッド

    ゲーム実況風、村長もノリノリ

    動画は5分あまり。「村に移住した主人公がゾンビと戦いながら村を発展させていく」という設定のゲームをプレイヤーが実況する、「ゲーム実況」風に仕立てられています。

    主人公のビジュアル選択画面では、村民たちがセーラー服や海水パンツ姿を披露。ゲームがバグって舩木直美村長が壁に向かって歩き続ける場面も出てくるなど、コミカルな仕上がりです。

    村役場によれば、村長は「バグって何だ?」といぶかりつつも、ノリノリで撮影。「どんどんやれ!」と現場にハッパをかけていたそうです。

    10月に公開された動画は反響を呼び、これまでに6万回以上再生。テレビや新聞、海外メディアでも取り上げられました。

    意外にマジメな理由

    なぜ、こんなにぶっ飛んだ動画を制作したのでしょうか。

    架空の彼女とのデートをひとりで再現した『妄想彼女』などの著書があり、ネット上でおもしろ記事を多数発表している地主さんですが、今回の企画趣旨はいたってマジメなものでした。

    「PRの狙いは移住・定住人口を増やすこと。村の存在自体を知らないと、選択肢にも入ってきません。まずその入り口を広げようと考えました」

    村の総務課職員の青柳慶一さんも「まずは村を知ってもらうことが第一。好きになってもらった先に移住がある」と口をそろえます。

    地主さんが非常勤講師を務める東京農業大学が、小菅村で人材教育プラグラムを展開している縁もあり、村から依頼を受けたのだそうです。

    中学生もゾンビに

    1週間ほど現地ロケを行い、村民たちの全面協力で完成した動画。当初は「なんでゾンビなのか」「もっと小菅らしさを出した方がいい」といった異論もありましたが、丁寧に説明して理解を得たそうです。

    地主さんは、「ゾンビの理由」をこんな風に解説します。

    「移住・定住にあたって大事なのは何よりコミュニティー。そのなかでも特に重視されるのが教育です。中学生がiPadを使って、和気あいあいと授業をしている様子を伝えたかった」

    「ただ、生徒たちの顔を映すことはできない。そこで、ゾンビメイクをすることを思いついたんです」

    制約から逆算

    企画や撮影、編集に加え、ゲーム実況のナレーションも地主さん自ら務めています。

    ゲーム実況風にしたのは、既存のフォーマットを活用して『あるある』ネタにした方がはやると思ったから。実況のしゃべり口調を研究して、家でひたすら練習しました

    「村の人たちは役者ではないので、セリフを上手に話すのは難しい。一人称視点のゲームということにすればセリフの問題を解決できるし、スタッフを減らせて制作費も抑えられます」

    「ゾンビ動画をゲーム実況風に」というアイディアありきで進んだわけではなく、「移住の促進」という目的や予算などの制約から逆算して生まれた名企画だったのですね。

    動画は好評で、11月に村で開催された「大地の恵みまつり」でも、ゾンビが大量出現するお化け屋敷を開催。まつりには例年の2倍近い約3千人が集まりました。

    「つくってよかったです」と手応えを語る地主さん。「今度は川のせせらぎとか小鳥のさえずりとか、ただただ綺麗なだけの映像を撮りたい」とうそぶいていますが、きっとまた何か、ビックリするような動画を仕掛けてくれることでしょう。

    (じぬし・けいすけ) 1985年生まれ。北九州市出身。武蔵野美術大学映像学科卒業。東京農業大学の非常勤講師。著書に『妄想彼女』(鉄人社)、『インスタント リア充』(扶桑社)など。『妄想彼女』はフジテレビ系でドラマ化もされた。12月18日に『ひとりぼっちを全力で楽しむリア充に負けない22の人生戦略』(すばる舎)を刊行予定。

    BuzzFeed JapanNews