宇多田ヒカルがデビュー20周年記念日の12月9日、千葉・幕張メッセでコンサートツアー「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」の千秋楽を迎えた。
時折、感極まって涙ぐみながらも、「Automatic」「First Love」「初恋」など、アンコール含め全20曲を歌い切った。
「メイクが崩れちゃう」
「デビュー20周年記念日なんですけど、そんな日をこんな風に過ごせて…本当は誕生日とか祝ってもらったり、会の主役みたいになるのすごい苦手なんだけど、これは素直に喜んでおきます! 本当にありがとう」
冒頭、「あなた」「traveling」など4曲を歌った宇多田があいさつすると、観客席から30秒以上にわたって大きな拍手が巻き起こった。
「冒頭からそんなに泣かしにこないで。メイクが崩れちゃう」と目を潤ませる宇多田。「私からは手をあげているのとかもちゃんと見えてるし、みんなの声も聞こえてるから、一緒に楽しもうね」と呼びかけた。
「しっかり顔見せてね」
国内ツアーは実に12年ぶり。6都市、12公演で総計14万人を動員した。
「Prisoner Of Love」や「SAKURAドロップス」など3曲を挟み、2度目のMCでは貴重なライブの機会についてこう語った。
「私、ライブがあまり回数ないじゃない? 今回ツアーやってて、大事だなって思ったんだけど、こういう機会が。こういうことしないと、みんなの顔見る機会ないんだ、と思って」
「だから、できるだけ顔焼き付けて帰ろうと思う。しっかり顔見せてね」
今回のライブは一眼レフカメラなど専用機材でなければ、スマホでの撮影はOKというルール。ごく少数ではあるが、終始スマホを構え続けている人もいた。
「昨日今日と、ずっと顔の前でスマホ持ってる人がすごく少ないなと思ったんだ。だからすごく嬉しくて…。撮っちゃダメっていうわけじゃないんだけど、顔が見えると嬉しい」
宇多田らしい言い回しで、やんわりと伝える一幕もあった。
又吉直樹との対談映像も
「ともだち」「Too Proud」の2曲では、「Forevermore」のMVで、宇多田のコンテンポラリーダンスの振り付けをした高瀬譜希子が共演。官能的な舞で観客を引きつけた。
中盤には、芸人・作家の又吉直樹と宇多田が対談するショートムービーを上映するサプライズも。映像が終わると、観客席中央のステージに宇多田が現れ、2度驚かされた。
センターステージでは「誓い」「真夏の通り雨」「花束を君に」を語りかけるようにしっとりと歌い上げ、再びメインステージへ舞い戻った。
「すごい幸せです」
「すごいね。丸々20年なんだね。20年が不思議な節目の時間だとすごく感じてて。ここまで来れたっていうことで、ホッとしちゃダメだけど、すごいなって思っていいよね?」
宇多田からの問いかけに、万雷の拍手が起こる。20年の間には、約6年にわたる活動休止期間もあった。
「その間、待っててくれた人にありがとうっていう気持ちと、新しく最近聴くようになったよっていう人は、それもすごく嬉しいし。休みの間サポートしてOKしてくれた、スタッフにもすごく感謝してて」
「休みの間に色々あって、もうライブとかできないかもなって思ってた時期もあったんだけど、こうして今日20周年の特別な日をこんな風に過ごせて、すごい…こんな風に思うと思わなかったんだけど、すごい幸せです」
そう語り、再び涙ぐんだ。
「First Love」から「初恋」へ
ここで、「First Love」(1999年)と「初恋」(2018年)を続けて披露。ふくよかで柔らかな歌声で、会場を包み込んだ。
初期の代表曲から、最新アルバムの表題曲へ。宇多田が駆け抜けてきた20年を凝縮したような選曲だった。
「Play A Love Song」で本編を締めくくり、アンコールでステージへ舞い戻った宇多田。バンドメンバーを紹介し、最後に「お唄は宇多田ヒカルです!」とおどけると、「あの曲」のイントロが流れ出した。
「Automatic」で最高潮に
まさに20年前のこの日に発売されたデビュー曲「Automatic」だ。会場は最高潮。手拍子で盛り上がる。
歌い終えると、この日一番の大きな拍手。「おめでとう!」と沸き上がる歓声に、宇多田が「ありがとう」と返す。
「Automatic」はデビュー曲にして200万枚を超える売上を記録したが、実はオリコン1位は獲得していない。8cm盤と12cm盤の2形態があり、別々に集計されたためとも言われる。
「2種類で出ててバラけちゃったのもあるんだけど、『だんご3兄弟』が強くてずっと1位だったの! すごい悔しかった(笑)まあでも、社会現象みたいな感じだったからね。母親の30何週1位とか聞くとすごいんだなって」
言おうか迷ってたんだけど…
「今日言おうかどうか迷ってたんだけど…。せっかくこんな場だし、20周年というくくりだし、こんなことなかなかないから」
長い前置きの後、宇多田がこんな風に切り出した。
「私がありがとうって言いたい人たちが2人いるんだけど。私を生んで育ててくれた母親と父親にありがとうと言いたくて」
母の故・藤圭子さんと、父の宇多田照實さんへの感謝の言葉を口にした。
両親への感謝
「人としてはもちろん、歌手、ミュージシャンとしても。母親の音楽に対する情熱と、私が小さいころから才能を信じてくれた気持ちがなかったら…。私あんまり人前に出たがるタイプじゃなかったから、音楽が好きでもこういう仕事につこうと思わなかったと思うし」
「それと、すごい組み合わせで父親がマネージメントをしてくれたから。15歳の女の子としてデビューして、『学校を休みたくないからプロモはほとんでできません』みたいな態度だったら、『なんだそれ?』って言われて真に受けてくれる人いなかったかもしれないし」
「家族と仕事すると、いいことも悪いこともいろいろある。父親とはよく会うんだけど、なかなか照れくさくて言えないから。ちょっと贅沢だけど、この場を借りて、20年間ありがとうと言わせてください」
涙の投げキス
会場へ駆けつけたファンへたちへの感謝の言葉も忘れず、アンコール最後には「Goodbye Happiness」を熱唱。
終わり際、客席へ深々と頭を下げ、投げキスを贈る宇多田の目には涙がにじんでいた。稀代の歌姫は、名残惜しそうにステージを後にした。
《セットリスト》
M1 あなた
M2 道
M3 traveling
M4 COLORS
M5 Prisoner Of Love
M6 Kiss & Cry
M7 SAKURAドロップス
M8 光
M9 ともだち
M10 Too Proud
M11 誓い
M12 真夏の通り雨
M13 花束を君に
M14 Forevermore
M15 First Love
M16 初恋
M17 Play A Love Song
EN1 俺の彼女
EN2 Automatic
EN3 Goodbye Happiness