トラックはなぜ、ノロノロ走るのか? 元ドライバーが明かす「やむを得ない」事情

    『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)の著者で、元ドライバーの橋本愛喜さんに、トラックが低速で走らざるを得ない事情を解説してもらった。

    高速道路をノロノロ走るトラックに、いらだった経験のあるドライバーも多いのでは?

    だけどもし、トラックの側にも事情があるとしたら…。

    トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)の著者で、元トラック運転手の橋本愛喜さんに、低速運転の理由を解説してもらった。

    法定速度とリミッター

    ――高速で目の前をトラックがゆっくり走っていると、ついイライラしてしまいます…。

    ノロノロ運転を見ると「もう!」って思いますよね。だけど大型トラックは、法律で制限速度が時速80キロと決まっているんです。

    リミッター(速度抑制装置)をつけることが義務付けられていて、車の性能としても90キロ以上出ないようになっている。

    さらに「社速」といって、法律と別に各運送会社さんが「これ以上スピードを出しちゃいけないよ」と定めた速度があって。

    法律と同じ80キロというところが多いですが、積んでいる荷物によっては、社速75キロの会社もあります。

    一般車から見ると…

    ――それほどまでに低いスピードに抑えられているのですね。

    たとえば精密機械を積んでるとか、馬を積んでるとかですね。馬は骨折でもしようものなら安楽死させないといけないし、億単位の損害になる。

    ドライバーさんから「馬は大変だ」という話を聞いたことがあります。

    ――なるほど。そうした事情を知らない一般のドライバーからすると、ノロノロ運転を迷惑に感じてしまうという。

    はい。90キロは決してノロノロではないんですけど、一般車の高速の実勢速度って100〜120キロなんですよ。みなさん大体、120キロぐらいで走るじゃないですか。

    120キロと90キロだと30キロの差。そうするとやっぱり、ノロノロに感じてしまうんでしょうね。

    ずっと左車線じゃダメなの?

    ――トラックにリミッターがついていて、90キロ以上出せないのはわかりました。でもそれなら、ずっと左車線を走っていれば良いのでは?

    皆さんそう言いますけど、難しいことだと思います。先ほども言ったように、社速75キロのトラックもあるからです。

    75キロの人もいれば、出口に行きたい人たちもいる。それぞれの事情を抱えて荷物を運んでいます。

    「海外ではできている」という意見もありますが、6車線ある海外の高速と車線数の少ない日本の高速は全然違う。一緒にすることはできません。

    時間の問題もあります。日本では本当に1〜2分でも遅刻した、しないという話になる。

    しかも4時間走ったら30分休まないといけないルールがあって、守らないと給料を引かれたりもします。トラックドライバーさんは「前に、前に」という焦りがあるんです。

    ――トラックドライバーを守るためのルールなんだけれども、時間でがんじがらめになっている部分もあると。

    そうなんですよ。早く行かないと車を停める場所もなくなっちゃうので。

    「壁」は嫌だという心理

    ――事情はよくわかったのですが、目の前でトラックが左右に並ばれてしまうと…。両方ノロノロだから、なかなか前に進めないんですよね。

    追い越し車線を走るトラックが左車線に戻ろうとしても、左車線を走っている乗用車のドライバーさんには「前にトラックを走らせたくない」っていう心理があるんですよ。

    「こっちに来たら目の前が壁になって走りづらい。どうせ遅いんだろ」っていうことで、乗用車が加速する。

    隣の車が加速してきて前に入れないから、トラックは後続車に道を譲りたくても、すぐに車線変更できない、という現象が起きるんです。

    ブレーキの特性も

    ――高速の渋滞時や一般道でも、トラックは車間距離をかなりあけてノロノロ走っている印象があります。これは速度制限と関係ないですよね?

    大型トラックのブレーキは「エアブレーキ」といって、無闇に踏み込んだり、頻繁に踏み続けると利かなくなってしまうことがあります。

    だから、トラックドライバーはとにかく速度を変えたくない。ブレーキを踏まずに済むように、なるべくゆっくり走っているんです。燃費も悪くなりますからね。

    〈橋本愛喜〉 フリーライター。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。20代で父親の工場を継いで大型一種免許を取得。トラックで日本中を走り回った経験を生かし、『トラックドライバーにも言わせて』を上梓。ブルーカラーの労働問題や災害対策、ジェンダーをめぐる社会問題などを中心に執筆している。