Toshlが「龍玄とし」に改名した理由

    初のカバーアルバム「IM A SINGER」を出したToshlを直撃

    Toshlが初めてのカバーアルバム「IM A SINGER」を発表した。バラエティー番組で果敢に笑いをとり、スイーツ本を出したり、YouTuberとしてデビューしたり…。

    予測不能な活躍ぶりを見せるToshlに、本業のシンガーとしての覚悟や、未知の世界へ挑み続ける理由を聞いた。

    苗字があった方が

    ――最近、「龍玄とし」と改名されました。何かキッカケがあったのでしょうか。

    龍玄としっていう名前は、今年のお正月からですね。作家活動をする時とか、コンサートの時とかに使っています。

    今年に入って、テレビ番組とか音楽プロデュースとかいろんなことをやっていて。実はいまも小説を書いたり、絵を描き始めたりしてるんです。

    いままでの自分のカテゴリー以外のところに、どんどんチャレンジしていこうと。「Toshl」っていう名前でもいいんですけど、苗字があった方が単純にいいかなって。

    「トシ」って聞くと、世代によってはトシちゃん(田原俊彦さん)がまず先に浮かぶ人もいますから(笑)

    別にこだわっているわけではなくて、場合によって、今回のアルバムみたいにToshl名義にする時もありますよ。

    心機一転、強そうな名前に

    ――意味合いとしては、青龍の「龍」に玄武の「玄」で、龍玄?

    そうなんです。心機一転、強そうな名前がいいなと。「四神」が二つ入ってるので、縁起がいいですよね。

    ――全部漢字の中国バージョンもあって、それだと「龍弦虎憧」なんですね。

    中国版は「玄」を弓へんの「弦」にして、としは「虎憧」としました。虎は当然、「白虎」(四神の一つ)の意味もあります。

    それから、僕はファンの人たちのことを「Toshlove(トシラブ)」と呼んでるんですけど、「トシラブ」を略して虎。トシラブが憧れるToshlだから「虎憧」です。

    これから中国でも活動していくなかで、ちょっと名前を考えてみようかなと。そういうのも全部、遊びというか。みんなが楽しく盛り上がれる感じで、名前がつけられたらいいなって。

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    Toshl「糸」

    カラオケで尾崎豊

    ――初めてのカバーアルバムに挑戦されました。収録曲はどのように選んだのでしょう。

    自分が好きな曲、歌いたい曲、ファンの方々やスタッフさんのリクエストから決めました。

    まず歌おうと決めてたのはアンジェラ・アキさんの「手紙」。この曲が大好きで、PVを見て聴くたびに感動して涙しちゃう。

    自分自身救われましたし、力をいただいていますね。前に進む勇気をもらえる曲で、ぜひ歌ってみたいと思ってました。

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    Toshl「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」

    尾崎豊さんの「I LOVE YOU」も本当に名曲。デビューは尾崎さんの方が先輩ですが、年齢はほぼ同世代。同じソニーだったので、となりのスタジオでリハーサルしたりしてました。

    いろんな方がカバーしてますけど、僕も誰に聞かせるでもなく、カラオケで歌って楽しんでいました。ソロのコンサートでも何度か歌ってますよ。

    「聖子さんは僕のド世代」

    ――松田聖子さんの「赤いスイートピー」や、荒井由実さんの「ひこうき雲」、中島みゆきさんの「糸」と女性ボーカルの曲も多いです。

    聖子さんは僕のド世代。小学校で見よう見まねでピアノやギターを始め、中学時代からはよく歌も歌うようになって。聖子さんになりきって、原曲キーで歌ったりしてましたね。

    いくつか候補の曲がありましたけど、聖子さんのバラードならやっぱり「赤いスイートピー」だろうと。ファンからの人気も高かったので、即決でした。

    大御所アレンジャーから、いまをときめく新世代のアレンジャーまで、錚々たる方にお願いして。エンジニアも超一流の人をそろえていただきました。

    僕からしたら、最高の舞台で歌を乗っけるだけ。こんな贅沢な話があるのか、というぐらい楽しみました。歌いたい曲もまだまだありますし、あと10枚はつくりたいですね(笑)

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    Toshl「赤いスイートピー」

    スイーツのおじちゃん?

    ――「IM A SINGER」というタイトルからも、歌手としての矜持を感じました。

    最近バラエティー番組にもたくさん出ているものですから、もしかしたら子どもたちからは「スイーツのおじちゃん」と思われているかもしれない。

    でもやっぱり、自分の生きている幹、根っこはシンガーなんだと。僕のなかの王道はシンガーです、というある種の覚悟。プライドを持ってみなさんにお渡ししたい、と考えてこのタイトルに決めました。

    ――Toshlさん=ロックというイメージを持っている人も多いと思いますが、歌謡曲にも大きく影響を受けてきたのですね。

    僕らの世代だと、ロックのシンガーでも、幼少期に聴く音楽は歌謡曲だったという人が多いです。ボーカリストで洋楽から入ったという人は、あまり聞かないですね。

    童謡やテレビから流れてくる歌謡曲で歌が好きになり、その後にロックと出会っていく。ロックからの影響もあるにせよ、実は歌謡曲も聴いてましたっていう人は、結構いらっしゃるんじゃないですか。

    一方でギタリストとかの楽器チームは、逆に洋楽から始めたぜっていう人が多いですね。

    父と歌った「酒と泪と男と女」

    ――亡くなられたお父さんと、「酒と泪と男と女」をデュエットしたこともあったとか。

    ありましたね。

    僕がまだ高校生ぐらいのころ、父はよくスナックみたいなところに連れて行ってくれて。そこでカラオケして、僕に歌わせていたんです。だから割と、父とは歌でコミュニケーションをとる、遊ぶということをやっていました。

    「長崎の鐘」とか「上海帰りのリル」とか、父親が歌っているのを聴いて、ああこんな曲があるのかと。原曲も知らないまま、父を真似して歌ったりしていました。

    今回のアルバムには入ってませんが、ソロコンサートで「酒と泪と男と女」を歌ったこともありますよ。

    この間もコンサートで「岸壁の母」を歌いました。実は小学校の時、全校朝会で大勢の人の前で初めて歌った、思い出の曲なんですけど。

    大阪のおじさんの十八番

    ――渋い! 聴けた人はラッキーですね。

    あとは、美空ひばりさんの「悲しい酒」とかね。

    僕のおじさんが、ものすごく歌が上手で。張りのある美声で歌う父とは違うタイプで、裏声がすごくきれいなんです。ひばりさんの本物を聴く前に、そのおじさんの歌で「悲しい酒」を知って。

    この人、よくこんな高い声が女の人みたいに出るなと。「悲しい酒」が十八番だったんでしょうね。大阪のおじさんだったんですけど、僕がちっちゃいころ、会うたびに歌ってくれました。

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    Toshl「ひこうき雲」

    バラエティーの現場で衝撃

    ――最近、バラエティー番組でToshlさんを見る機会が増えました。

    2015年に始まった「スウィーツKURENAI」というスマホ向けアプリの番組がキッカケでした。

    スイーツを食べながらお悩み相談する番組。僕がインスタにスイーツの投稿をしているのを番組制作の方がかぎつけて、面白がって声をかけてくれて。

    最初はすごく嫌だったんです。気が重くて、なんならその場でお断りしようかと思っていたぐらい。

    でも現場で若いスタッフの人たちが一生懸命やってる姿を見て、衝撃を受けました。女性の方が重い機材を汗だくになりながら動かしていて。みんな、いい番組をつくろうと必死でした。

    芸人さんはじめ様々な方とお会いしましたが、みなさん礼儀正しくて、きちんと笑いをとる。プロの仕事だなと。

    自分の知らない世界で、いろんな人たちが頑張って、ひとつの番組ができあがっている。自分もその一員なんだから、一生懸命やらなくちゃ、という思いが芽生えました。

    くだらないプライドを捨てた

    ――バラエティーへの印象が一変したわけですね。

    はい。それまでは、ちょっと斜に構えてカッコつけてた部分もあるし、半分照れもあっただろうし。くだらないプライドもあったかもしれません。人目を過剰に気にしていたんです。

    だけど、スタッフさんや共演者さんとお仕事をさせていただくなかで、自分のそういう態度がとても恥ずかしいものに思えてきて。

    自分の殻を破って、ちょっとずつオープンにしていったら、段々に楽しくなってきたんです。

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    キャッToshlテレビ / Via youtu.be

    YouTuberとしても活動するToshI

    オファーには100倍返し

    ――最近は抵抗もないですか。

    ないですね。もう、面白い。やっぱり、出るって決めたからには楽しまないと。

    「めちゃ×2イケてるッ!」に最初に出た時も、自分がドッキリを仕掛けられるとは思ってもみなかったので、すごく楽しかったです。濱口(優)さんや岡村(隆)さんにも、バラエティー出演のキッカケをいただいて、ありがたく思っています。

    その後に最終回にも出させていただいて。自分も見ていた歴史的な番組の最終回に呼んでいただけるなんて、とても光栄なことでした。

    まさか、遺体役だとは思ってなかったですけど(笑)でも、やるならこれぐらいぶっ飛ばないと。お笑いですからね。

    お笑いに限らず、何かオファーをいただいたら、その方の期待を100倍返しするぐらいでやっていきたいな、といつも思ってますね。

    おはようゼ!お待たせしたゼ!「キャッToshlテレビ 」第二弾動画アップしたゼ!動画の最後に最新コメントもあるので、ぜひ遊びに来てねゼ! By YOUTUBER Toshl だゼ!! https://t.co/cyJOcswLvv

    たけしに憧れ続けて

    ――「平成教育委員会」では、尊敬するビートたけしさんとも共演されて。

    番組の演出とはいえ、「としくん」と言っていただけて、めちゃめちゃ嬉しかったです。

    本当に中学生のころから、たけしさんに憧れてきたんです。「オールナイトニッポン」を聴いて、たけしさんの本もたくさん読んで。いまも読み返してますから。

    やっぱり、たけしさんの生き様、インテリジェンス、芸術性ですよね。漫才ブームにあぐらをかくことなく、次を予見されて司会をやったり、本を書いたり。その後も映画監督になられて、絵や小説まで書かれて。

    自分の才能を見出して、次、次と新たな挑戦をしていく。そんな姿を子どものころから見ていて、すごいな、なんでこんなに才能があるんだろうと思っていました。

    たけしや鶴太郎のように

    ――たけしさんの生き方から影響を受けてきたのですね。

    たけしさんの絵が大好きで、自分もやってみようと思って絵を描き始めて。たけしさんの小説が好きで小説を書いてみたり。

    片岡鶴太郎さんにもご縁があってお話を伺いました。たけしさんや鶴太郎さんのように、お笑いというジャンルのみならず、新たな才能を見出して転身していく先輩たちがたくさんいらっしゃる。

    自分の本業ではない、次の段階へ行って自分を表現されている。本当に尊敬します。

    僕も、もちろんシンガーが本筋ではありますけど、次を見据えて、可能性だけでもいろいろ試してみたいなと。

    いつか声が枯れるかもしれないし、いつまで歌えるのかもわからない。声が出なくなったら、シンガーとして終わってしまいます。

    その時に、自分も何かできないか。どんな結果になるか、やってみなきゃわからない。「ダメで元々」の気持ちです。

    やることが多くて忙しいですけど、チャレンジできるいまが一番、楽しいですね。

    保育園で子どもたちに

    ――普通は年齢を重ねるとフットワークが重くなりがちですが、Toshlさんはガンガン攻めますね。

    「IM A SINGER」のリリースイベントでも、全国のショッピングセンターなどをまわっています。

    それからこの間は、山形の保育園に行って歌うご縁をいただきました。

    3〜4歳の子どもたちは普通、1曲でさえなかなか聴いていられないそうなんです。でも僕の歌をちゃんと静かに、興味深げに聴いてくれて。園長先生が涙を流して感動していらっしゃいました。

    食育の一環で、三國清三シェフにもご一緒いただき、子どもたちとスイーツづくりもして。音楽でいろんな経験を重ね、ステージを踏んで世界を見てきた人間が、その経験をもとに子どもたちに何を伝えられるか。

    ある種の「教育」というか、自分の経験を次の世代に伝えていけたら楽しい。少しでも何かの、誰かの役に立てたら、自分の気持ちもさらに盛り上がるんじゃないかなって。

    使命感より「楽しいじゃん」

    ――「使命感に駆られて」というのではなく、「楽しいから」という自然体で臨まれているのがいいですね。

    使命感だと重たくなっちゃうし、「楽しいじゃん、嬉しいじゃん、笑顔じゃん」の方がいいかなって。

    僕もかつて使命感に燃えて、「こんなんじゃダメだ」「こうあるべきなんだ」とやってるうちに、道を外してしまったことがあったので(笑)

    大事なのは自分が楽しみ、みんなも楽しめること。僕の歌や経験を通して得た何かで、みんなの人生に少しでも寄り添い、一緒に喜び合いたい。

    そうやって挑戦していくことに、学びと喜びを感じています。