タトゥーへの偏見を打破する第一歩 「無罪確定」経済学者はこう見た

    医師免許なく客にタトゥーを入れたとして、大阪の彫り師・増田太輝さんが医師法違反の罪に問われた裁判。最高裁は検察側の上告を棄却し、増田さんの逆転無罪判決が確定することになった。裁判を支えた小倉利丸名誉教授、宇都木伸名誉教授、小山剛教授の談話を紹介する。

    医師免許なく客にタトゥーを入れたとして、大阪の彫り師・増田太輝さんが医師法違反の罪に問われた裁判で、最高裁は検察側の上告を棄却。

    控訴審・大阪高裁の逆転無罪判決が確定することになった。弁護側の証人となった識者3人の談話を掲載する。

    バックラッシュへの重要な歯止め

    小倉利丸名誉教授(富山大学・現代社会論)

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    大阪高裁の判決を受け、「無罪」と書かれた紙を掲げる増田太輝さん=2018年11月

    判決勝訴おめでとうございます。無罪判決確定とのこと、増田さんにとっては長い闘いだったと思います。本当にお疲れさまでした。弁護団の皆さんのご尽力にも大変感謝します。

    裁判所の判断は、彫り師の行為を、医行為ではないこと、アーティストとしての行為として認めたと解釈しました。判決はまっとうな内容だと感じました。

    この裁判の判決が、未だにこの国に根強いタトゥーへの偏見を正す第一歩になって欲しいと思っています。

    たとえば、日本で開催されるスポーツの国際試合で、ラグビーのワールドカップのように、タトゥーを隠すような指導をしたり、タトゥーをした人が就業で差別されたりといったことが今でも根強く残っています。

    来年予定されているオリンピックを前にして、スポーツでのタトゥー規制が強化されかねないのでは、と危惧していましたから、今回の判決はとても嬉しいし、文化や表現へのバックラッシュへの重要な歯止めになると感じています。

    そもそも、タトゥーは日本でも世界でも、伝統の技法というだけでなく、コンテンポラリーなボディアートとしても確立した表現となって久しいのに、日本のアートの世界では、タトゥーを芸術表現としてとりあげることを忌避する傾向が顕著です。

    マスメディアでも気楽な雑談からアートの番組に至るまで、タトゥーをおおっぴらに、また肯定的に話題にすることはまずありません。これが偏見を放置し、あるいは偏見を助長させてきたともいえます。

    語ることがはばかられる雰囲気を変えてゆかなければ、偏見はなくなりません。今回の勝訴の判決は、こうした日本のタトゥーへの偏見を打破する非常に重要な第一歩になったと思います。

    大阪では、橋下(徹)元市長による入れ墨した職員への偏見に基く「入れ墨調査」を不当とする裁判が現在も継続していますが、この裁判にもよい影響があるのではと期待しています。

    応用範囲は広い

    宇都木伸名誉教授(東海大学)

    The Washington Post / The Washington Post via Getty Images

    司法が、行政規定を、文字面でなく、その規定の本来の趣旨に則って解釈することは、とても大切なことと思います。このことは、この一事だけでなく、応用範囲の広い事柄であろう、と思っています。

    常識にかなう結論

    小山剛教授(慶應義塾大学・憲法)

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    増田太輝さんと弁護団=2018年11月

    地裁判決に強い違和感を覚え、タトゥー裁判に関心を持ったが、常識にもかなう結論が示されたと思う。

    一枚の通知で長年営まれてきた職業が突然に禁止に等しい制約を受けるのは、憲法で保障された職業の自由の観点からも、法治主義の観点からも問題が大きい。

    新型コロナ対策で風営法を使った店舗立ち入りが行われるなど、日本では、よく言えば法令を駆使した、悪く言えば恣意的な行政が行われることも少なくない。

    本件はその典型であり、その意味で、最高裁の結論に加え、理由付けに注目した。

    簡潔な決定理由だが、医師法の制度趣旨から医師法17条の適用範囲を解釈していること、また、草野裁判長補足意見の中で医療関連性を要件としない解釈がもたらす問題に触れ、さらに、必要があれば新たな立法(資格制度)で対処すべきことを説いていることの意義は大きい。