東京オリンピックを控え、多数の外国人観光客や選手の来日が予想されるなか、「タトゥー禁止」が常識だった入浴施設のあり方も少しずつ変わろうとしている。
シールを貼るなど条件付きで受け入れる施設。身分証明書を提示すればシールなしでも入浴可能な施設…。様々な試行錯誤の最前線を探った。
「受け入れOKは寛容倶楽部」

横浜市の「横浜みなとみらい 万葉倶楽部」は2月1日から、指定のカバーシールでタトゥーを隠した場合に限り、試験的にタトゥー客を受け入れている。11cm×11cmのシール2枚分におさまる範囲であれば入館できるという。
《若い世代を中心としたファッションタトゥーの容認や 外国人観光客のアイデンティティとしてのワンポイントタトゥーへの理解が 日本の社会で広く求められるようになってきました》
《多様な文化や宗教をお持ちの方も、日本の温泉を楽しんでいただけますよう 相互理解が進むことを切に期待しております》
館内で予告メッセージを見つけた利用者が、1月にTwitterに投稿。2万7千回以上リツイートされ、9万4千の「いいね」がつくなど大きく拡散された。
「勇気ある素晴らしい心意気」「大きな一歩ですね!!」「受け入れOKは寛容倶楽部」など歓迎する投稿の一方、「ルール違反多発して『やっぱダメにします』って未来が見えそう」「マナー悪い人多いと思うから、すぐに取り消しにならないか不安」といった懸念の声も出ている。
ゴネる客にも毅然と対応

全国で10施設を運営する万葉倶楽部グループは、1997年の1号店オープン以来「タトゥーお断り」のスタンスを貫いてきた。
「横浜みなとみらい 万葉倶楽部」の担当者は言う。
「オープン当初はタトゥーをめぐるトラブルもありました。反社の人たちは『この施設はどう対応するのか』を見ています。そこで『緩いぞ』と思われたら、ナアナアになってしまう。小さなものでもキチッと対応して、ご退館いただくことで3、4年目からは『入れろ』とゴネる人もいなくなりました」
「反社お断り」は変わらない

それでは今回、条件付きとはいえ、受け入れに踏み切ったのはなぜなのか。
「『反社お断り』であることは変わりません。外国の方のアイデンティティであったり、オシャレのためにワンポイントで入れたりしているものに関しては、受け入れていくべきだろうと判断しました」
もともと海外からの利用者が増加傾向にあり、オリンピックイヤーでさらなる需要が見込まれることも理由のひとつだ。
「11cm×11cm」2枚分というシールの大きさについては、すでにシール対応をしている他施設の動向も踏まえて決めた。既存客の安心感に配慮し巡回を強化しているが、いまのところ大きなトラブルはないという。
あくまでもテスト運用のため問題が起きれば中止もあり得るが、利用客の反応を見ながらシール対応を他店舗に広げていく可能性も視野に入れている。
「全面解禁」試行の施設も

さらに踏み込んで、シールなしの「タトゥー全面解禁」を模索する施設もある。さいたま市の「おふろcafé utatane」だ。
おふろcafé utataneでは2015年8月から、B6サイズのコミック本と同じ12.8センチ×18.2センチのシールをフロントで販売。このシールで隠れる範囲の大きさのタトゥー客であれば、利用を認めていた。
今年1月1日からは、試験的にシールなしでタトゥー客を受け入れている。
日本在住の場合は顔写真付きの身分証明書を提示・コピーし、会員カードの登録をすること。海外から短期滞在中の場合は、パスポートの提示・コピーをすることが条件だ。
厳格な身元確認には、反社会的勢力を排除する狙いもある。加えて、タトゥー客には、専用のリストバンドを着用するよう求めている。
支配人の新谷竹朗さんは「受け入れ緩和を求める観光庁の方針もあり、毅然と対応しました」とテスト解禁の理由を明かす。
観光庁、摩擦回避に指針

2015年の観光庁の調査によると、全国のホテル・旅館のうち、タトゥー客の入浴を断っている施設は55.9%。断っていない施設が30.6%、シールで隠すなど条件付き許可している店が12.9%だった。
タトゥー拒否の経緯は「風紀衛生面で自主的に」(58.6%)、「業界・地元事業者で申し合わせ」(13.0%)、「警察・自治体などより要請または指導」が9.3%を占めた(※アンケート対象3768施設、うち581施設が回答)。
観光庁は「外国人旅行者が急増する中、入れ墨がある外国人旅行者と入浴施設の相互の摩擦を避けられるよう促していく必要がある」として、2016年に次のような対応策をまとめている。
- シール等で入れ墨部分を覆うなど、一定の対応を求める
- 入浴する時間帯を工夫する
- 貸切風呂等を案内する
あえてシール選ぶ人も

ただ、おふろcafé utataneの場合、外国人の利用者はさほど多くない。もともとシールを貼って入館する人は月に30〜50人ほどいたが、大半が日本人客だったという。
「シールの規定サイズをオーバーしていて受け入れられない方もいらっしゃり、残念な思いをされていました。(シール対応を始めて)4年間トラブルもなかったため、段階的に受け入れる構想を立てており、タイミングをうかがっていました」
テスト最初の1ヶ月で、タトゥー客87人が入館登録した。積極的な告知はしていなかったものの、SNSなどでじわじわと口コミが広がっている。
「タトゥーの友人と一緒にサウナに入れるようになって嬉しい、という声もありました。常連のお客様の反応が心配でしたが、受け入れ1ヶ月前から掲示物で告知した際には、特にネガティブな反応はみられませんでした」
一方で、解禁後もあえてシール対応を選択した利用者が14人にのぼった。「タトゥーを隠した方が落ち着いて利用できる」という意見もあり、今後も従来のシール対応を併存させる考えだ。
