スカパラ新曲、エレカシ宮本の熱意と「幻の2行」

    「もう1回、思い出でもいいんで録らせてもらえませんか」

    2019年でデビュー30周年を迎える、東京スカパラダイスオーケストラ。エレファントカシマシの宮本浩次をフィーチャリングした「明日以外すべて燃やせ」は大きな話題を呼んだ。

    実はこの曲には、レコーディング当日に差し替えた「幻の2行」があったという。作詞でバリトンサックスの谷中敦に創作秘話を聞いた。

    10年物のメロディー

    ――作曲はキーボードの沖祐市さんですが、宮本さんとのコラボが決まってからつくられたのでしょうか。

    歌詞はそうですが、曲の方は10年ぐらいストックとして温めてきた曲なんです。しっかり取っておいて、しかるべき時に、しかるべき人とやろうと。

    ものすごく派手なメロディーというわけではないんですけど、とっても大事なメロディーだなってスカパラのメンバー全員が思えたので。

    YouTubeでこの動画を見る

    TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA OFFICIAL / Via youtu.be

    「明日以外すべて燃やせ feat.宮本浩次」Music Video+インタビュー/ TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA

    ――10年物のメロディー。ワインみたいですね。

    本当ですね。今回やっと封を開けることができた。聴いた感じはシンプルですが、歌うとなると実はとても難しいんです。

    音域は広いし、サビのところで音程が少し下がるようなつくりになっていて、音程を取るのも容易ではありません。

    宮本くんも「しっかり覚えます」と言ってくれて、本当に匍匐前進のように一行一行、一語一語、発音の仕方や発声の仕方も含めて、細かいところまで練り上げてくれました。

    やっぱり普段、自分でつくったメロディーを歌ってる人なんで。カバーと違って、誰かが歌ったものを頭に入れて慣らすこともできないですから。

    寝ても覚めても「宮本くんの顔」

    ――作詞はいつごろ、どのように取り組まれたのですか。

    8月に中南米ツアーをしたのですが、みんなが食事に行く時も僕は「ちょっと歌詞が書けないので、部屋でやります」と断って。

    書けないまま、夜寝る前に宮本くんの顔を思い出して、起きても宮本くんの顔が浮かんで…。夢のなかでもずっと悩んでいるような状態でした。

    中南米ツアー中だったので、熱い歌詞になってる部分もありますね。

    人生は美しいアルバムじゃない

    ――熱いですね。冒頭の《人生は美しいアルバムじゃない 撮れなかった写真さ》っていうところから持っていかれました。

    最高のライブをやって、お客さんも僕らも「生まれて初めて」みたいな感動を味わって。終わった後、「今日って録音も撮影もしてなかったよね?」みたいな。

    こういう時ほど録ってない。記録に残らないけど、記憶に残るってのは大事だねって、メンバーで言っていて。そんなことを思いながら考えた言葉です。

    これは昔、「世界は言葉でできている」(フジテレビ系、2011〜2012年)という番組に出た時に、解答として考えた文章でもあるんですよ。

    ちなみに、この曲のレコーディング前は違う2行を当てていて…。

    ――えっ! 歌詞を書き換えたんですか。

    ええ。レコーディングの当日に。最初は、いまのと違うバージョンで練習してもらっていたんですけど。

    レコーディングの何日か前に「こういうパターンもあります」と言って、《人生は美しいアルバムじゃない 撮れなかった写真さ》と僕が歌った音声を、宮本くんの携帯に送ってたんですね。

    ただ1回テレビで話したことでもあるし、使い回しに思われちゃったら嫌だというのもあって、メンバーとしてはやめておこうという話になった。

    「歌わせてください!」

    ――それがなぜ復活を?

    レコーディング当日に宮本くんから逆プレゼンが入ったんです。「この2行の歌詞がいいんで、もう1回、思い出でもいいんで録らせてもらえませんか」って。

    かなり気に入ってくれたみたいで、「谷中さんから送られてきた仮歌を聞いて、本当にいいと思ったんで、歌わせてください!」って力いっぱいのプレゼンをしてくれて。

    最初のバージョンで1回歌って、《人生は美しいアルバムじゃない》でもう1回歌って。幻の2行の良さもあるし、どうしようかと。メンバー9人、シーンと黙っちゃって。

    その時、宮本くんが「もう1回やらせてください!」と言ったんです。

    ――いまの歌詞で2回歌ったということでしょうか。

    そうです。2回歌って「これでいこう」と。結局、使われなかった幻の2行というのが「撮れなかった写真」だったとも言えますね。

    1966年世代

    ――宮本さんは同世代ですよね。

    宮本くんと僕、同い年で活動してきて、エレファントカシマシが2018年で30周年、スカパラは2019年で30周年を迎えます。

    吉井和哉、トータス松本、スガシカオ、斉藤和義、田島貴男…みんな同世代です。KEMURIの(伊藤)ふみおもそう。渡辺美里さんも斉藤由貴さんもそうです。

    1966年生まれで集まって、「ROOTS 66」(2006年と2016年に開催)というイベントをやったですけど、その時にみんな出演して。

    僕らの世代は、情熱的な、時には情熱的すぎて失敗してしまうような上の世代を見ながら、そこに憧れたり、熱量の足りなさを恥じたりしながら、自分自身を奮い立たせて活動してきました。

    共通してるのは、みんな過剰なほど凝り性っていうこと。結果、いまも生き残って、第一線でやれているんだと思う。

    そういう僕ら世代の熱を、若い世代にしっかり伝えたい、というのも今回の歌詞の大きな要素です。

    周回軌道の外へ飛び出せ

    この町では見えない地平線に、 遥かな夢が眠る。 #明日以外すべて燃やせ #宮本浩次 #エレファントカシマシ #東京スカパラダイスオーケストラ

    ――《死ぬまでずっと生きていく 周回軌道の小さな世界 その外側もあるんだ》という歌詞は勇気づけられるし、救われる人も多いと思います。

    丁寧に、きめ細かく、失敗のないように、失礼のないように人と接しようとして、結果ほんの小さなことでものすごく傷ついてしまったりする。優秀な人ほどそうなりがちです。

    自分の世界はもちろん大事なんだけど、時には外へ外へと出ていく気持ちも大事なんじゃないかな。

    身のまわりのヤツらに俺の価値がわからないなら、外に出てってやろう。僕もそうやって、自分自身を救ってきたところがあるので。

    《この街では見えない地平線に 遥かな夢が眠る》という歌詞は、そんな気持ちで書きました。

    ベスト病

    ――タイトル含め、いまこの瞬間を生きるんだ、という強いメッセージを感じます。

    一歩前に進んだなっていう感覚がないと、しっかり眠れないんです。

    本も読まず、詩も書かず、楽器にも触れず、人と大して話もしない。もしそんな1日があったとしたら、自分にとっては死に等しい。

    僕は「ベスト病」って呼んでるんですけど、ベストを尽くさずにいられないんです。

    きょう一日で死ぬとしても、悔いのない人生だったと言えるか。死を意識することによって生が輝く。死と隣り合わせだからこそ、生きることを真剣に考える。そういう感覚は必要だな、と思いますね。

    限られた人生のなかで、計画を前もって立てすぎちゃうのはつまらない。だいたい先が見えたな、なんて思うと自分自身を見くびっちゃうんで。

    夢見心地の方がいい

    『明日以外すべて燃やせfeat.宮本浩次』 東京スカパラダイスオーケストラ。Mステを見て貰った方々本当にありがとうございました。#宮本浩次 #エレファントカシマシ #Mステ

    ――「悟り世代」なんて言葉もありますが。

    自分の人生こんなもんかって、もしかしたら若い子ほど見えちゃってるのかもしれない。でも、考えていたのと違う方向にいくこともあるんじゃない?とも思うし。

    何年か前のお正月に「自分を信用しない」という抱負を立てたんですよ。自分で自分の限界を設定していることに気づいてしまって。凝り固まった自分を全部捨てて、新しいやり方に身を投じようと。

    悟ったらいくらでも悟れるんでね。いつでも正気に戻れるんだから、夢見心地の方がいいだろうって。昔から口癖のように言ってますけど。

    燃え尽き症候群とか言われますけど、どんなに燃やし尽くしても、結局自分は残る。だから歌詞にも《明日以外すべて燃やせ! 燃やした後にオマエだけ残る》と書きました。

    真っ白な灰が残って、そこからまた始められる。人間、そういう強さもあるよって。

    楽園の領土を広げたい

    ――スカパラ30周年に向けたメッセージをお願いします。

    音楽=楽園だとすると、音楽を鳴らせば鳴らすほど楽園は広がっていく。いろんな場所で音楽をやったり、新しい音楽をつくったり、いろんな人とコラボレーションしたり…。

    そうやって、楽園の領土を広げていきたい。30周年の目標ですね。