2019年でデビュー30周年を迎える、東京スカパラダイスオーケストラ。エレファントカシマシの宮本浩次をフィーチャリングした「明日以外すべて燃やせ」は大きな話題を呼んだ。
実はこの曲には、レコーディング当日に差し替えた「幻の2行」があったという。作詞でバリトンサックスの谷中敦に創作秘話を聞いた。
10年物のメロディー
――作曲はキーボードの沖祐市さんですが、宮本さんとのコラボが決まってからつくられたのでしょうか。
歌詞はそうですが、曲の方は10年ぐらいストックとして温めてきた曲なんです。しっかり取っておいて、しかるべき時に、しかるべき人とやろうと。
ものすごく派手なメロディーというわけではないんですけど、とっても大事なメロディーだなってスカパラのメンバー全員が思えたので。
――10年物のメロディー。ワインみたいですね。
本当ですね。今回やっと封を開けることができた。聴いた感じはシンプルですが、歌うとなると実はとても難しいんです。
音域は広いし、サビのところで音程が少し下がるようなつくりになっていて、音程を取るのも容易ではありません。
宮本くんも「しっかり覚えます」と言ってくれて、本当に匍匐前進のように一行一行、一語一語、発音の仕方や発声の仕方も含めて、細かいところまで練り上げてくれました。
やっぱり普段、自分でつくったメロディーを歌ってる人なんで。カバーと違って、誰かが歌ったものを頭に入れて慣らすこともできないですから。
寝ても覚めても「宮本くんの顔」
――作詞はいつごろ、どのように取り組まれたのですか。
8月に中南米ツアーをしたのですが、みんなが食事に行く時も僕は「ちょっと歌詞が書けないので、部屋でやります」と断って。
書けないまま、夜寝る前に宮本くんの顔を思い出して、起きても宮本くんの顔が浮かんで…。夢のなかでもずっと悩んでいるような状態でした。
中南米ツアー中だったので、熱い歌詞になってる部分もありますね。
人生は美しいアルバムじゃない
――熱いですね。冒頭の《人生は美しいアルバムじゃない 撮れなかった写真さ》っていうところから持っていかれました。
最高のライブをやって、お客さんも僕らも「生まれて初めて」みたいな感動を味わって。終わった後、「今日って録音も撮影もしてなかったよね?」みたいな。
こういう時ほど録ってない。記録に残らないけど、記憶に残るってのは大事だねって、メンバーで言っていて。そんなことを思いながら考えた言葉です。
これは昔、「世界は言葉でできている」(フジテレビ系、2011〜2012年)という番組に出た時に、解答として考えた文章でもあるんですよ。
ちなみに、この曲のレコーディング前は違う2行を当てていて…。
――えっ! 歌詞を書き換えたんですか。
ええ。レコーディングの当日に。最初は、いまのと違うバージョンで練習してもらっていたんですけど。
レコーディングの何日か前に「こういうパターンもあります」と言って、《人生は美しいアルバムじゃない 撮れなかった写真さ》と僕が歌った音声を、宮本くんの携帯に送ってたんですね。
ただ1回テレビで話したことでもあるし、使い回しに思われちゃったら嫌だというのもあって、メンバーとしてはやめておこうという話になった。
「歌わせてください!」
――それがなぜ復活を?
レコーディング当日に宮本くんから逆プレゼンが入ったんです。「この2行の歌詞がいいんで、もう1回、思い出でもいいんで録らせてもらえませんか」って。
かなり気に入ってくれたみたいで、「谷中さんから送られてきた仮歌を聞いて、本当にいいと思ったんで、歌わせてください!」って力いっぱいのプレゼンをしてくれて。
最初のバージョンで1回歌って、《人生は美しいアルバムじゃない》でもう1回歌って。幻の2行の良さもあるし、どうしようかと。メンバー9人、シーンと黙っちゃって。
その時、宮本くんが「もう1回やらせてください!」と言ったんです。
――いまの歌詞で2回歌ったということでしょうか。
そうです。2回歌って「これでいこう」と。結局、使われなかった幻の2行というのが「撮れなかった写真」だったとも言えますね。
1966年世代
――宮本さんは同世代ですよね。
宮本くんと僕、同い年で活動してきて、エレファントカシマシが2018年で30周年、スカパラは2019年で30周年を迎えます。
吉井和哉、トータス松本、スガシカオ、斉藤和義、田島貴男…みんな同世代です。KEMURIの(伊藤)ふみおもそう。渡辺美里さんも斉藤由貴さんもそうです。
1966年生まれで集まって、「ROOTS 66」(2006年と2016年に開催)というイベントをやったですけど、その時にみんな出演して。
僕らの世代は、情熱的な、時には情熱的すぎて失敗してしまうような上の世代を見ながら、そこに憧れたり、熱量の足りなさを恥じたりしながら、自分自身を奮い立たせて活動してきました。
共通してるのは、みんな過剰なほど凝り性っていうこと。結果、いまも生き残って、第一線でやれているんだと思う。
そういう僕ら世代の熱を、若い世代にしっかり伝えたい、というのも今回の歌詞の大きな要素です。
周回軌道の外へ飛び出せ
――《死ぬまでずっと生きていく 周回軌道の小さな世界 その外側もあるんだ》という歌詞は勇気づけられるし、救われる人も多いと思います。
丁寧に、きめ細かく、失敗のないように、失礼のないように人と接しようとして、結果ほんの小さなことでものすごく傷ついてしまったりする。優秀な人ほどそうなりがちです。
自分の世界はもちろん大事なんだけど、時には外へ外へと出ていく気持ちも大事なんじゃないかな。
身のまわりのヤツらに俺の価値がわからないなら、外に出てってやろう。僕もそうやって、自分自身を救ってきたところがあるので。
《この街では見えない地平線に 遥かな夢が眠る》という歌詞は、そんな気持ちで書きました。
ベスト病
――タイトル含め、いまこの瞬間を生きるんだ、という強いメッセージを感じます。
一歩前に進んだなっていう感覚がないと、しっかり眠れないんです。
本も読まず、詩も書かず、楽器にも触れず、人と大して話もしない。もしそんな1日があったとしたら、自分にとっては死に等しい。
僕は「ベスト病」って呼んでるんですけど、ベストを尽くさずにいられないんです。
きょう一日で死ぬとしても、悔いのない人生だったと言えるか。死を意識することによって生が輝く。死と隣り合わせだからこそ、生きることを真剣に考える。そういう感覚は必要だな、と思いますね。
限られた人生のなかで、計画を前もって立てすぎちゃうのはつまらない。だいたい先が見えたな、なんて思うと自分自身を見くびっちゃうんで。
夢見心地の方がいい
――「悟り世代」なんて言葉もありますが。
自分の人生こんなもんかって、もしかしたら若い子ほど見えちゃってるのかもしれない。でも、考えていたのと違う方向にいくこともあるんじゃない?とも思うし。
何年か前のお正月に「自分を信用しない」という抱負を立てたんですよ。自分で自分の限界を設定していることに気づいてしまって。凝り固まった自分を全部捨てて、新しいやり方に身を投じようと。
悟ったらいくらでも悟れるんでね。いつでも正気に戻れるんだから、夢見心地の方がいいだろうって。昔から口癖のように言ってますけど。
燃え尽き症候群とか言われますけど、どんなに燃やし尽くしても、結局自分は残る。だから歌詞にも《明日以外すべて燃やせ! 燃やした後にオマエだけ残る》と書きました。
真っ白な灰が残って、そこからまた始められる。人間、そういう強さもあるよって。
楽園の領土を広げたい
――スカパラ30周年に向けたメッセージをお願いします。
音楽=楽園だとすると、音楽を鳴らせば鳴らすほど楽園は広がっていく。いろんな場所で音楽をやったり、新しい音楽をつくったり、いろんな人とコラボレーションしたり…。
そうやって、楽園の領土を広げていきたい。30周年の目標ですね。