免許返納は「全然ドラマチックじゃない」75歳の大物俳優が明かした裏側

    杉良太郎、伊東四朗、加山雄三、尾木直樹(尾木ママ)…。高齢ドライバーによる交通事故が社会問題となり、著名人の運転免許証返納が報じられる機会も増えた。返納に至った経緯を杉が明かした。

    俳優の杉良太郎(75)は6月、運転免許証を自主返納し、「さすが杉さん」「素晴らしい行動力」などと称賛を浴びた。

    高齢ドライバーによる悲惨な交通事故が社会問題化するなか、伊東四朗や加山雄三、尾木直樹(尾木ママ)ら、著名人の免許返納が報じられる機会も増えている。

    ところが杉は返納の経緯を「全然ドラマチックじゃない」と言う。一体どういうことなのか?

    ちょっと鈍くなってるな

    ――杉さんが運転免許を自主返納されたことは、大きな反響を呼びました。

    あれね、正直に言うと全然ドラマチックじゃないんだよね。

    4年前、70歳で免許を更新したんです。教習所でいろいろテストされたわけですよ。間違ってるか間違ってないか、右か左か、早押しでやらなきゃいけない。

    その時に、自分でちょっと鈍くなってるなと感じたんですよ。

    ――テスト自体は通ったんですよね?

    通りました。実技もペーパーもOK。もともと車好きでよく運転してましたから。

    でも70歳の免許更新に行った時に、次はもうやめようと思ったんですよ。もう免許いらないんじゃないのかなと。

    次の更新の前に返そうと思っていたところで、高齢者の事故がたくさん報じられた。このタイミングはちょっとやらしいなと思ったけど、放っておくと流れちゃうでしょ。

    大挙した報道陣にビックリ

    俳優の杉良太郎さんが運転免許証を返納 75歳の誕生日を前に https://t.co/xPNGRC3xMu #nhk_news #nhk_video

    ――返納じゃなくて、失効してしまう。

    そう。うちの伍代(夏子)さんなんか、忘れていて失効しちゃいましたから。

    「これ何とかならないの?」「なるわけないだろ」って。だから私、失効は嫌だなと。自分の意思をちゃんと示そうと思って、返納に行きました。

    そうしたら、めちゃくちゃメディアがいてちょっとビックリした。

    私、ほかにもっといいことしてるんだよ。社会に知らせたいこと、大声で叫びたいこともあるけど、普段こんなに人は来ない。

    なんでや!という気持ちがあったから、写真を見ても1枚もにっこりしてない。あれが私のバカ正直なところだと思う。

    キッカケをつくる気はない

    ――世論が高まっていたので、メディアも注目したんでしょうね。でも杉さんとしては、もともと考えていたことを実行に移しただけだったと。

    もともと考えていたし、今ごろ何だって感じよ、こっちは。だから、全然ドラマチックじゃないんだよ。

    ――とはいえ、杉さんが自主返納するのを見て、後に続く人も出てくるのでは。自分はまだまだ運転できると思っている高齢者の方々も「杉さんがやっているのなら」と。

    それは本当に全然考えてない。自分でよく考えて決めなさいと思ってるよ。

    道筋をつけてあげるとか、キッカケをつくってあげましょうとか、そういうのあんまり好きじゃない。

    返納するのだって自分の意志でやらないとダメよ。免許取るのも自分の責任で取ってるんだから。

    肝炎対策運動で感じた壁

    ――自分の意志でやらなければ意味がない。

    私は厚生労働省の肝炎総合対策推進国民運動の特別参与をしていて、早く肝炎の検査しなさいよって呼びかけてるの。

    検査・治療費と手術代で考えたら、どれだけ金額が違うか。検査して陽性でも薬飲んだら治る。ガンや肝硬変になった後だと、治すのも大変だよ。

    だけど、「行ってください、お願いします」って言っても、みんな行かない。自分の体なんだからちゃんと検査して、とっとと治しなさいって思うんだけど。

    アナウンスが気になる

    ところでさ、新幹線ってうるさくない?

    ――へ? 新幹線ですか?

    「この電車はのぞみ号です。途中はどこそこの駅で停まります。運転士はJRの誰々、車掌は誰々です。不審な物があったら、どうたらこうたら」って、ずっとしゃべってる。

    もうあれで腹立ってくるの。こっちはいい気持ちで寝てるのに。

    飛行機もそう。「機長は私、ただいま順調に飛んでおります。多少揺れても問題はございません。いま、1万何千フィートで、向かい風がどうたらこうたら」

    ずーっとしゃべってる! やかましいって。

    お客さんがアナウンスを覚えていたか、後でアンケートをとってみればいいよ。機長が何を言ったか、みんな覚えてないって。機長が誰だとか、パーサーが誰だとか。

    「安全に飛んでおります」って言うけど、安全に飛ばなきゃどうするんだよ。「もうそろそろ落ちます」って言うのか。

    「時速何キロで飛んでおりまして、外の気温はこうで…」。乗客は外出ないって!

    責任放棄と思考停止

    ――確かに、ずっとアナウンスが流れている印象はありますね。

    これ全部説明しておかないと、後で何か言われちゃ困るからだよ。自分たちの責任にならないように、とにかくしゃべることは全部しゃべらなきゃいけないの。

    全部しゃべるだけしゃべっておけば、「あとは責任持ちませんよ。私言ったでしょ」って言えるじゃない。

    事前に言っておかないと、「お前がどこどこの駅で停まるって言わないから、俺は乗り過ごしたじゃないか!」とかって言われちゃうわけ。

    日本人は、あまりにも自己責任を放棄してきちゃったんだよ。

    アジフライは見たらわかる

    ――なるほど。各自の責任、判断で動いていないと。

    タクシーもよくしゃべるし、料理もそうでしょ。

    日本料理食べに行ったら、「これは京都の何とかのお野菜で、これをこういう風につぶしてこうこうこうやって、できましたものでございます」

    もうね、早く食べたいと。話を聞いてる間に、お腹いっぱいになっちゃう。

    「これはアジでして、こういう風にしてフライに揚げて…」。フライは見たらわかるんだよ、誰だって。わからない? わかるよね。

    ――あはははは

    私はこういうの全部、日本人が責任放棄した結果だと思ってるんだよ。


    杉良太郎(すぎ・りょうたろう) 1944年、神戸市生まれ。1965年に歌手デビュー。ヒット曲に『すきま風』など。1967年、NHK『文五捕物絵図』の主演で脚光を浴び、以降『遠山の金さん』『右門捕物帖』など数多くの時代劇に出演。舞台の代表作に『清水次郎長』『拝領妻始末』など。デビュー前の15歳から福祉活動に尽力し、ユネスコ親善大使兼識字特使、外務省の日・ASEAN特別大使、日本・ベトナム両国の特別大使などを歴任。現在は法務省の特別矯正監、警察庁の特別防犯対策監、厚生労働省の肝炎総合対策推進国民運動の特別参与を務める。緑綬褒章、紫綬褒章を受章。2016年度文化功労者。