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ダイナマイト心中した母が教えてくれたこと 末井昭が語る波乱の人生

「芸術は爆発だったりすることもあるのだが、僕の場合、お母さんが爆発だった」

母親が愛人とダイナマイト心中する――。幼少期の衝撃的な体験が、男の人生を変えた。

名編集者として数々の雑誌を創刊するも、心の穴を埋めるようにギャンブルや投機に狂い、借金総額は3億7千万円に。ダブル不倫の果てに、長年連れ添った妻とも離婚した。

数々の修羅場をくぐり抜けてきたエッセイストの末井昭さん(69)が、波乱に満ちた体験からつかみ取った人生哲学を、新刊『生きる』(太田出版)にまとめた。

3月17日には、自伝的映画「素敵なダイナマイトスキャンダル」も公開される。「母親のお陰でいまがある。派手好きな人だったから、映画になってあの世で喜んでるかもしれません」。BuzzFeed Newsの取材に、末井さんはそう語る。

「お母さんが爆発だった」

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芸術は爆発だったりすることもあるのだが、僕の場合、お母さんが爆発だった。

映画の原作となった同名の半生記は、そんな一節から始まる。

末井さんは岡山の山奥で生まれ育った。母親は肺結核を患って離れた町の病院に入院していたが、病状が悪化し、医師に見放されて家に戻ってきた。

「しょっちゅう家に男を連れ込んでましたね。僕と弟は『外で遊んでなさい』と言われて。浮気を知った父親との間でケンカが絶えませんでした」

夢枕に立った母

大ゲンカの末、母親は家を飛び出してしまう。小学校1年生の12月、先生から「末井君、すぐ帰りなさい」と言われて帰宅すると、警察や新聞記者が集まって大騒ぎになっていた。

近くに住んでいた20代の男性と、山中でダイナマイト心中を遂げたのだ。

「その人の家に遊びに行ったこともあって、可愛がってもらってました。2人の死体がゴチャゴチャになって見分けがつかないので、お墓にお骨を入れることもできない。お袋の着物の切れ端だけ、お墓に入れたそうです」

「ちょうどその前後に、お袋の姿を見た記憶があって。ふと目を覚ましたら、目の前に立っていた。おっかないという感じはなかったですね。夢か現実か、幽霊なのかわからないですけど」

「ダイナマイトは舐めると甘い」

ダイナマイトというと突拍子もない印象を受けるが、クレー鉱山のある集落ではごく身近な存在だった。

鉱山で働く父親は発破作業にダイナマイトを使い、家の床下に保管していた。川に放り込んで爆発させ、魚を捕ることもあったという。

「僕もダイナマイトを舐めたりしてました。ペロンと舐めてみると、ちょっと甘いんですよ。当時は甘いものに飢えてましたからね。歯磨き粉とかもペロペロ舐めてましたし」

生梅だろうがカワニナだろうが、拾ったものは何でも食べる。そんな食生活がたたったのか、小学校3年生の時には疫痢にかかって死線をさまよった。

医師から高額なペニシリン注射を勧められた父親はしばらく迷っていたが、注射を打つことを決めた。

「『ワシがお前の命を救ったんだ』って恩着せがましく言ってましたけど、子どもの命が掛かってたら普通は無条件で打つでしょ。しかも、注射の代金だって結局ウヤムヤにして払ってないんですから」

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いじめで「透明人間」扱い

疫痢で3ヶ月ほど休んで登校すると、級友たちに無視されるようになった。

父親と折り合いの悪かった家の子どもが、末井さんが「結核にかかった」とウソを言いふらしていたのだ。当時、結核は不治の病として恐れられ、結核患者は「肺病たれ」と差別されていた。

「それまで僕は割と人気者だったんですけど、誰も声を掛けてくれないし、目はそらすし。透明人間になったような感じでした」

数ヶ月で誤解は解けたが、屈折した思いは消えない。得意だったスポーツが嫌いになり、ノートに友達への呪いの言葉を書きつづるようになった。

「いじめられた経験があると、いじめというものがよくわかる。誰かをいじめようとは思わなくなります。そういう意味で、僕の場合はいじめられてよかった面もある」

「とはいえ、いまいじめられている子はそんな風に思えないでしょう。死にたくなったら、学校に行くのをやめた方がいい。死ぬよりマシです。引きこもって、本でも読んで。1、2年休めば環境も変わりますから」

上野ー御徒町を真っ裸で疾走

高校卒業後、大阪と川崎の工場で働き、デザイン専門学校、デザイン会社などを経て、キャバレーの宣伝課でチラシづくりなどの仕事を始めた。

「『今宵あなたと何とか』みたいなチラシをつくればいいのに、自分の母親が爆発してるものだから、ついついおどろおどろしい表現をしてしまう。上司にも『何だこれは!』と怒られてました」

自らの表現欲求と仕事とのはざまで煩悶する日々。モヤモヤを振り払うように、明け方の街を裸で疾走したこともあった。

「上野の駅で真っ裸になって、御徒町までダーッと走った。酔っ払ったホステスに『カッコイイわよ!』なんて声を掛けられて」

「松坂屋の前で赤いペンキをかぶって、道路をゴロゴロ転げ回りました。モダニズムに毒されたデザイナーが寝静まっている夜に、俺はこの肉体で道路にイラストレーションを描くぞ!みたいな意識で」

守衛に勘付かれそうになり、カメラマンと一緒にタクシーで逃走。カメラマンのアパートで休んで目を覚ますと、三島由紀夫が割腹自殺したニュースが流れていた。

「カメラマンは三島由紀夫のファンだったから、そっちの方ばかり関心が行っちゃって。僕のストリーキングなんて、全然話題になりませんでした(笑)」

ストリーキングの後、抜け殻のようになってキャバレーは辞めてしまった。

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伝説の雑誌を創刊

その後、看板描きやイラストレーターなど様々な職を転々とし、27歳で雑誌編集の世界に飛び込んだ。

『ウイークエンド・スーパー』『写真時代』など、話題の雑誌を次々に創刊。荒木経惟や森山大道、赤瀬川原平、南伸坊ら錚々たる連載陣を擁した『写真時代』は35万部を発行し、いまなお「伝説の雑誌」と呼ばれる。

順風満帆に思えた編集者生活だったが、少しずつ歯車が狂い始める。新創刊した雑誌の売り上げが低迷し、退職を考えるほど思い悩むようになっていた。

心の隙間を埋めるように、のめり込んだのが先物取引だ。1987年のブラックマンデーの後に貴金属が大暴落し、600万円の損害を出した。

「それまでギャンブルをやったこともなかったので、600万円と言われて魂が抜けた。人と話していても、口がパクパク動くだけで声になりませんでした」

「1本5万円」のタバコ

懲りてやめるどころか、損失分を取り返そうと躍起になって、ますます先物やギャンブルに溺れていった。

「チンチロリンで1750万円勝ち、そこに250万円足して、合計2千万円で粗糖の先物取引をしました。これで一発逆転だと思って」

ところが取引は失敗。2千万円がフイになり、若い営業マンが謝罪に来た。

「お詫びの印にってピース・ライトを2カートン渡されて。計算したら、1本5万円。高いタバコだなあと思いましたね」

借金総額3億7千万円

不動産投機にもハマり、ローンを組んでマンションや土地を買い漁った。借金は総額3億7千万円にまで膨らんだ。

バブルが弾け、不動産の価値は半額以下に。逆転を夢見て、今度は競馬に入れあげるようになった。

「ギャンブルって、一度死んだ人間が生き返るような快感がある。負けて、どうしよう、どうしようという時に挽回できると、結果的にトントンだとしても、ものすごく嬉しいわけですよ」

最初の3ヶ月で750万円ほど儲けたものの、最終的には1千万円以上のマイナスに転落し、後には巨額の借金だけが残った。

「『不景気で給料が減ってるし、離婚して慰謝料も払わないといけない』と銀行と交渉し、8500万円あった残債を300万円にまけてもらいました」

「別の銀行からは6千万円借りていたのですが、毎月5万円の支払いにしてもらって。月5万円だから全然減らないんですよね。計算したら、135歳まで払わないといけない(笑)。いまもまだ払ってます」

とにかく逃げればなんとかなる

厚生労働省のデータによると、2016年の自殺者の総数は2万1897人。原因・動機は「健康問題」が最多の1万1014人を占める。次いで多いのが「経済・生活問題」の3522人だ。

「お金を借りたことによる重圧で自殺したり、生命保険を掛けて死んだりする人がいるわけですよね」

「でも、自己破産することもできるし、僕みたいに交渉して返せる範囲で返すやり方もある。お金であれ、人間関係であれ、とにかく逃げればなんとかなる。どこかでそう思ってるところはあります」

講談社エッセイ賞を受賞した『自殺』(朝日出版社)には、こんな風につづった。

自殺する人は真面目で優しい人です。真面目だから考え込んでしまって、深い悩みはまり込んでしまうのです。感性が鋭くて、それゆえに生きづらい人です。生きづらいから世の中から身を引くという謙虚な人です。そういう人が少なくなっていくと、厚かましい人ばかりが残ってしまいます。

ウソは自分を弱くする

私生活では、30年近く連れ添った妻との離婚も経験。『たまゆら』『たまもの』などで知られる写真家の神蔵美子さんと、ダブル不倫の末に再婚した。

前妻と結婚していたころは、複数の女性と交際し、「仕事が忙しい」とウソを重ねては朝帰りを繰り返した。スリルを求める気持ちの一方で、罪悪感に苦しめられていたという。

「前の奥さんにはウソばかりついて、悪いことをしました。女の子と会ってる時も気持ちはすごく憂鬱で。ウソをついていると、自分が弱くなるんです」

神蔵さんには「ウソをつかないこと」を約束した。「ほかにやることがあるでしょう」と叱られ、ギャンブル漬けの生活からも足を洗った。

「いまは本当のことしか言ってないんで、すごく元気なんですよ。神蔵さんと一緒になってからは一切、不倫はないですね」

「何度か誘われたことはありますよ。でもきっぱり断ってます。みんなビックリしてるの。『あの末井さんが断ってる』って(笑)」

日本一有名な母親に

浮き沈みの激しい来し方を振り返り、思い浮かぶのはダイナマイトで散った母の面影だ。

「ダイナマイトで自殺するっていうのは、『ええい、やっちゃえ!』みたいなところがあると思うんです。そういう感覚、踏ん切りは僕のなかにもある。いまはかなり薄らいできましたが、当時は毎日が退屈だったんでしょうね」

「置いていかれた」という思いで、母親を恨んだこともあった。ダイナマイト心中の話は、長い間、友人や同僚にも話すことができなかった。

信頼できる人だと思って打ち明けたのに、「それが末井くんの売り物なんだね」と言われて傷ついたこともある。

ゲージツ家の篠原勝之さんが同情なしに笑ってくれたことで、ようやく開き直って「売り物にしてなぜ悪い」と思えるようになった。

「お袋はあの世で『昭ちゃん、まだ書くの? もうやめて』って言ってるかも。でも尾野真千子さんが演じてくれるんだから、喜んでるんじゃないかな」

「これまで随分、母親を売り物にしてきました。こうなったら、日本で一番有名なダイナマイトの母親にしてやりたいな、と思ってます」


新刊『生きる』の刊行を記念した、末井さんのトークイベント「修羅場を笑顔で切り抜ける方法」が3月10日午後7時半から、ジュンク堂書店池袋本店で開かれる。1000円。要電話予約(03-5956-6111)。

映画「素敵なダイナマイトスキャンダル」は17日から、テアトル新宿、池袋シネマ・ロサなど全国の劇場で公開される。

BuzzFeed JapanNews


Ryosuke Kambaに連絡する メールアドレス:ryosuke.kamba@buzzfeed.com.

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