「この曲は自分がドロップアウトしていた時期、学校も辞めて閉鎖病棟にいた時の話を書いてるんです」
SEKAI NO OWARIのボーカル、Fukaseは新曲『Dropout』に込めた思いをこう語る。
今を時めく人気バンドにも、苦悩と葛藤に満ちた駆け出し時代があった。メンバー4人に転換点となった「人生を賭けた瞬間」を聞いた。
閉鎖病棟の日々

――6月24日に両A面シングル『umbrella / Dropout』が発売されます。『Dropout』はどのようにして生まれたのでしょうか。
Fukase:この曲は自分がドロップアウトしていた時期、学校も辞めて閉鎖病棟にいた時の話を書いてるんですけど。パニック障害だとか、いくつか併発してしまって地元の病院に入院していたんです。
それから十数年経って、たまたま病院の近くの道を通った時に、メロディーと歌詞が浮かんできて。ボイスメモに入れて、Nakajinにそのままバーンと投げてつくってもらいました。
ドロップアウトして、未来のこともまったく見えない。先行き不透明な時期に歩いていた場所。
その道を音楽家として生活していけるようになって再び歩いた時に、同じ街だけども、見え方が違うんだなって。そういう想いを曲に込めました。
想像もできなかった未来に

――成長してから再訪した時に、景色が変わって見えたわけですね。
Fukase:そこまでいい印象を持っている道ではなかったんですけど、自分のお金でご飯を食べて生活をできるということは、その時には全然想像できない未来だったので。
長い間その道を歩いてきたけれども、こういう未来につながっていたんだなっていう気持ちでしたね。
――全編英語詞で「Dropout Boulevard」というリフレインが印象的です。「Dropout」というと脇道へ外れていくようなイメージなので、大通りや並木道を意味する「Boulevard」との組み合わせに意外性があるなと。
Fukase:そこは英訳する時に結構迷いました。
直訳すると「中退並木道」みたいになっちゃって、日本語の表現としては変っちゃ変なんですけど、もう少し抽象的な意味で「ドロップアウトしたところからやってきた」という意味にしたくて。
一緒に歌詞をつくっているアメリカ在住のTASに「Dropout Streetだと変なの?」って聞いたら「それは変」って言われて。その感覚はさすがに僕はわからないんですけど。
「Boulevardの方がいい」と言うので、「じゃあ、そうしよう」と。
勝負を賭けたライブハウス

――「Bet on myself」という歌詞の通り、勝負を賭けた瞬間があったからこそ今がある?
Fukase:そうですね。「club EARTH」というライブハウスをつくった時が、勝負を賭けた瞬間だったというか。
自分は中卒で学歴もなくって。周りの人たちは大学にも行ったりしているなかで、ここで成果を出さなければ、みんな普通の日常に戻ってしまうと思ったので。
バンドを始めるより先にライブハウスをつくったのも、そういうところから来てるんじゃないかなと。
Fukase「メンバーをボロボロに」

――すごい賭けですよね。お金もかかるでしょうし。
Fukase:かかりました。だけど僕、社会的信用がないから全然お金を借りられなくて。僕は割と無傷だったんですけど、メンバーをボロボロにしたっていう(笑)
Nakajin:首が回らなかったです(笑)
貯金を全部ひっくり返して。そこまでずっと貯めてきたお年玉やら何やら全部、ここぞ!という感じで。僕自身にとっても、すごい「Bet」の瞬間でしたね。
僕は普通に大学入って、大学院まで行って就職――みたいな道を行くところだったんです。
だけど、やっぱり「音楽の道を志す」という夢が頭の片隅にずっとあって。Fukaseが提案してくれたことで、「ああ、今だな」って。
Nakajin「駅前の消費者金融で…」

――まさに運命の分かれ道。駆け出し時代に消費者金融でお金借りたという話は本当ですか?
Nakajin:本当です。club EARTHにソファを置きたかったんですよ。お客さんがくつろげるような。ソファを買わなきゃいけないけど、お金がない、と。
リサイクルショップの人に「このソファ、ほかの人からも言い寄られてるんだよね」ってカマをかけられまして。「ヤバイ、速攻で金がいる!」と思って、駅前の消費者金融でお金を借りました。
「すげー! ゼロから金が出てきたよ」って感動して。
――別にタダじゃないですから!
Saori:私も一緒に行きました。消費者金融のボックスの前で待ってましたね。
Saori「Nakajin、どうする?」

――Saoriさんもそこは止めなかったんですね(笑)
Saori:ソファを見に行ったのも、Nakajinと一緒だったんです。
「Nakajin、どうする? せっかくいいソファ見つかったのに。お金ないしどうしよう」って2人で話していて。
そこで「俺が借りるから大丈夫」って、Nakajinが借りてくれたんですけど。
Fukase:ちょっとおかしいよね。ライブハウスって別にソファないし。俺たちもそこで生活してたから?
Nakajin:いやでも、普通のライブハウスとはひと味違うというかさ。そういうことを目指そうとしてたっていう。
DJ LOVE「貯金が溶けました」
――DJ LOVEさんも「Bet」したのでしょうか。
DJ LOVE:僕も貯金が溶けましたね。ライブハウスのスピーカー買ったりとかで。
Nakajin:CDとかDVD、めちゃんこ売ってたじゃん。
DJ LOVE:ため込んでたCD、DVDを一気に売って、20万ぐらいになって。買い取りのレシートの長さが2、3メートルぐらいあった(笑)
Nakajin:もっとあったと思う。
DJ LOVE:もっとあったか。それを持って帰って、ゲラゲラ笑ったりしてましたね。
――明るい貧しさ。
DJ LOVE:明るかったですね。
Nakajin:でもLOVEさん、コレクター癖があるじゃない?
DJ LOVE:あったけどね。もう本当に好きなやつ以外、「これは売りたくない」ってもの以外はその時に全部売りましたね。
「ご両親に顔向けできない」
――ライブハウスをつくる話、言い出しっぺはFukaseさんだったんですよね?
僕ですよ、はい。
――でも、お金はないっていう。
Fukase:全然すってんてんです、もう。
Nakajin:後で親にすげー怒られて。親とちょっとね、ギスギスしました(笑)
Fukase:本当にここまでこられなかったら、Nakajinのご両親に顔向けできない。
――あはは。
Saori:「Fukase君のせいで」って思うよね。Nakajinのご両親は。
Fukase:絶対思う。絶対思うし、結構長い間、思われてた気がします(笑)
Nakajin:紅白出るぐらいまで。結構かかった気がしますね。
過去の事例にとらわれるな

――今まさにドロップアウトしてしまっている人、なかなかうまくいかずにくすぶっていたり、打ちひしがれていたりする人たちにメッセージをお願いします。
Fukase:たくさんあり過ぎるな。
自分が思ったのは、世の中の人ってだいたい過去の事例で物事を話してくるんです。
大体のアーティストが20代前半までにデビューするなかで、僕らがデビューしたの20代中盤。当時「すごく遅い」と言われました。
いろんなアーティストさんのインタビューとかを読んでも、同じような体験がほとんどない。自分が音楽を始めた年には、皆さんメジャーデビューして、全国ツアーを回られたりしていたので。
そういうのを見る度に「自分はもう遅いんじゃないか」って、悲しい気持ちになってたんですけど。
でも、それぐらいの年齢でデビューしたり、ブレイクしたりする方も段々に増えてきていて。あんなことを気にしてたのって何だったんだろうと、今になってすごく思うんです。
過去の事例って、変えてしまうと結構どうでもよかったんだなと考えるようになりました。
だから今、頑張ろうとしているんだけどドロップアウトしてしまって、「ダメかもしれない。もう遅いかもしれない」と思ってる人がいたとして。
俺はさらに1周2周回って遅かったけども、間に合ってミュージシャンになれてるから、あまり過去の事例にとらわれない方がいいのかなって。
やっぱり時代もどんどん変化していくんだから、「遅い」ってことは意外とないんだなと。
「焦った方がいい」理由

――勇気づけられる人も多そうです。
Fukase:ただ一方で、焦った方がいいとも思ってます。
俺はいろんな人に「Fukaseは焦り過ぎなんだよ」ってめちゃくちゃ言われましたけど、「焦って何が悪い! ゆったりする方がクソだろう」と思ってたので。
自分が達成したい目標って、どれだけちゃんと考えたとしても、自分が思ってるより2年は遅れてやってくる。焦ったって焦り過ぎってことはないんですよね、やっぱり。
――むしろ生き急いだ方がいい?
Fukase:生き急いだ方がいいです。焦った方がいいし、ゆったりしていて良かったことなんかない。
周りの人が「焦るな」っていうのは、焦ってる人を見るとなんか鬱陶しいから言うだけ。本人は至って焦った方がいい。
自分の夢のために毎日毎日焦って、「ああ、これじゃ足りない」と思ってるのが一番いい状況かなと、僕は思います。
〈SEKAI NO OWARI〉 Nakajin、Fukase、Saori、DJ LOVEの4人組。2010年、『幻の命』でインディーズデビュー。翌年『INORI』でメジャーデビューした。代表曲に『スターライトパレード』『RPG』『Dragon Night』など。2014年から5年連続でNHK紅白歌合戦に出場。6月24日にシングル『umbrella / Dropout』をリリースする。