ある「男の娘」カップルの愛の形 出会い、同棲、そして別れ

    これは黒歴史なんかじゃない。大島薫とミシェルの愛の記録

    愛には、いろんな形がある。元AV女優の「男の娘カップル」として話題になり、エッセイ漫画『男の娘どうし恋愛中。』(宝島社)でも熱愛ぶりを披露していた大島薫さんとミシェルさん。BuzzFeed Newsは1月下旬に2人を取材した。

    記事化を進めていた矢先、2人は別れてしまった。取材時点から状況は大きく変わったが、両者に改めて尋ねると、「インタビューで話した事実に変わりはない」と公開に同意してくれた。

    これは、2人の「男の娘」の愛の記録だ。

    馴れ初めは…

    ――2人の馴れ初めを教えてください。

    大島:ミシェルは同じ(AV)メーカーの後輩で、ボクが辞めた後に入ったんですね。「すごいかわいい子が入ったな」と思ってたんですけど。

    ボクがいた(出版社の)事務所へ撮影に来た時に初めて出会って、その数時間後には「1回遊びに行こう」とガンガンいってました。

    ミシェル:事務所でタバコを吸ってて、「あの大島薫だ!」ってすぐにわかった。

    3度目のデートで告白

    ――3度目のデートで大島さんから告白されて。

    大島:池袋のサンシャインに行った後、夜に料亭でバラの花束を渡して。「これから君が女の子になりたいっていっても、男の子に戻りたいっていっても、ボクは君のことが好きです」と告白しました。

    ――ミシェルさんは「私はラブじゃなくてライクだから」と答えたそうですが、どういう思いだったのでしょうか。

    ミシェル:何だろう…ずっと考えながらのセリフでしたね。そこに行きつくまでも、どうしようかな?とは考えていて。

    ――『男の娘どうし恋愛中。』によると、実は別の男性の存在があったと。少し気持ちが揺れていた?

    ミシェル:そうですね。

    大島:当時ボクは知りませんでしたが、ミシェルのなかではそういうことが進行中だったので、「OKしたものの…」という気持ちがあったんだと思います。

    彼氏・彼女のカンケイ

    ――そうした経緯はありつつも交際を開始されて。2人の関係性はどういったものなのでしょうか。

    大島:一応、自分が「彼氏」的な立場でやってます。でも最近は、お互いにさらけ出してしゃべれる、フラットな関係になりつつあるのかなと。

    ボクが弱みを見せることもあるし、ミシェルが弱っているときにボクが支える、ということもあるし。

    ――ミシェルさんは「彼女」というのがしっくりくる感じですか。

    ミシェル:そうですね、逆だと変な感じがするし。

    大島:でも、ボクがご飯つくったりすると、よく冗談で「おいしい。これはいい奥さんもらったわ」とか言うよね? ボクは「いやいや、旦那だから」って言うんですけど。

    ミシェル:冗談ってわかってるからね、お互い。

    時には逆転現象も

    ――書籍では性愛についても赤裸々に明かしています。性的な関係性も大島さんが「彼氏」、ミシェルさんが「彼女」なのですね。

    大島:ええ。でも逆になることもあって。ミシェルがいま(女性)ホルモンをやっていて、都合で病院に行けない時期は、男性と女性のバランスが変わるみたいなんです。

    そういう時は彼女の方が「攻め」をやりたがって、ボクは「どうしたの、どうしたの!?」って。恥ずかしいから「早くホルモン打って元に戻って」って言ってます(笑)

    ミシェル:でもさ、あんまり嫌そうじゃないよね? いつも思うけど。

    大島:最初はすごい恥ずかしくて、本当に嫌で。最近はボクもそんなに意固地にならないというか、フラットな感じです。いまでも恥ずかしいですけど。

    ――ホルモンバランスで如実に変わるんですね。

    ミシェル:ホルモンを打ってないと、わかりやすく下半身が元気になったりするから。この前病院で打ってきたんですけど、1ヶ月ぐらい間が空いちゃって。打ったら欲求が急になくなりましたもん。

    大島:自分でもビックリしてたもんね。女の子的な部分はありつつ、イタズラ好きなところもたまに顔をのぞかせるんです。

    ノンホル・ノンオペ

    ――大島さんは手術をせず、ホルモンも打たない「ノンホル・ノンオペ」を貫いていて、ミシェルさんとはスタンスが違いますね。

    大島:自分のなかで、ホルモンをしないのが「理想の男の娘」みたいな考えがあって。「ホルモンや手術をして、本当の女性になりたいか」と自分の心に問いかけた時に、「それは違うな」というのが確固としてありました。

    ミシェルの考えって、女装とか女の子の格好で過ごしたいっていう風に思った人は、たぶん皆が通る道で。より一般的なのはミシェルの方だと思うんです。

    男性が女性らしくなろうと考えた時に、「髪の毛伸ばして、メークしただけで女っぽくなるわけないじゃん」と思うのが普通ですから。

    でも、なかにはボクみたいに「何か違うんだよな」と思う人もいる。ミシェルとボクでどちらのパターンを選ぶかという時に、ボクに近い人も参考にできる人物がいた方がいいな、と。

    ホルモンをせずに女性の見た目を維持していったら、ボクはどうなっていくのか。そういうことも含めて見せていきたいんです。

    立場は違っても

    ――互いに考え方は違っても、それを押し付けるということはまったくなくて。

    大島:ボクが「ホルモンなんかやめた方がいいよ」と言うわけでもないし、逆に「しなよ」というわけでもないし。

    ミシェル:薫ちゃんがノンホル・ノンオペということは知っていて、「ああ、こういう子もいるんだ。かわいいな」と思ってました。私もAVをしていたころはまだホルモンをする気もなくて、揺れ動いていた感じです。

    「女性に近づきたい」という思いは前からあったのですが、副作用が怖かったのと、続けられるかもわからないので手を出していなかったんです。

    「薫ちゃんに嫌われちゃう」

    ――そんなミシェルさんがホルモンを始めたことを大島さんに明かし、「薫ちゃんに嫌われちゃう」と泣くシーンが本にありますね。

    ミシェル:薫ちゃんは私がホルモンをしていないと思ってたから、「ボクのつらさがわかる」「気持ちをわかってくれる」という話をしていて。

    嘘をついてるなかで「実は違うんだよね」と。それで泣いちゃった感じです。

    大島:ミシェルはニューハーフさんへの憧れがあって、「胸がほしい」という思いもあるみたいです。

    一方で「下は取りたくない」というのは変わっていなくて、そういうフラットなところは自分的にも好きですね。

    ミシェル:下、好きなんですよね。人のも好きだし、自分のも好き。異性の性器で、かわいいなと思うんです。

    自分に最初からついてるものを、わざわざ取る気もないというか。たまに別の生き物みたいな感じしません?

    すべて言葉にする

    ――どういうことでケンカするんですか。

    大島:だいたいボクが理詰めでいって、ミシェルが「もういい、帰る!」みたいな。

    前はそういう激しいケンカも多かったですけど、今は軽い考えの相違とかはあっても、お互いに「わー!」となることはあまりないです。

    ミシェル:そこまでいかないよね?

    大島:自分もこの見た目になって、女性と「女同士の話し合い」みたいな経験を積んでいるので、男性だけの人生を歩んでいた時より敏感になってるというか。

    女の子の立場になると、男性の声色の変化だったり、強い口調って、たぶん男性が思っているより何倍も怖いものに聞こえていたりするんですよね。

    だから「自分がちょっと微妙な表情していたな」とかも気づいてたりするんです。ミシェルがその時どう思ったかまではわからないけど、覚えてはいて。

    「あの時、ちょっと微妙な顔したじゃん? でもそれはこういう意味で、悪い意味で言ったんじゃないよ」って数日後に自分の言ったことを解説したりとか。

    ミシェル:そういうことが2回ぐらいあって、すごいと思ったんです。薫ちゃんならでは、という感じ。「あ、わかってたんだ。さすが」みたいな。

    大島:男性からすると「そんなこと、いちいち言わなくてもわかるでしょ」と思うようなことでも、言わなきゃわからない。だからちゃんと説明することにしたんです。彼女的にもその方がよかったみたいで。

    恋愛のあれこれのトラブルって全部、言葉足らずだと思っていて。今回の恋愛に関しては失敗したくないので、すべて言葉にしようと。それって大した手間じゃないと思うんですよね。

    片付けられない男の娘

    ――昨年の11月から同居されて。ラブラブでも一緒に住み始めると、相手のダメな部分が見えてきたりしないですか。

    大島:片付けのこととかね。

    ミシェル:一応するんですけど、追いつかない。

    ――大島さん、片付けられない男の娘なんですか。

    大島:そういうタイプですね(笑)

    ミシェル:「ただいまー」って言いながら上着バーン、みたいな。

    大島:料理したら食器とかはその場で洗うんですけどね。

    ミシェル:でも何かの拍子に洗ってない食器がたまったりすると、もう料理すらしなくなっちゃう。

    大島:ゼロ100かもしれない。

    脱・立ちション宣言

    大島:あと最近、トイレでの立ちションをやめようと頑張ってます。頑なに拒否してきたんですけど…。

    ミシェル:跳ねまくって、もうヤバイ。

    大島:昨日の夜から座るようにして。さすがにもうダメだなと。

    ミシェル:「立ってしてもいいけど、跳ねないようにしてね」って何度も言って。

    大島:自分的には気をつけてるつもりが、気がつくと付いていて。これ、便器から漏れ出してるんじゃないかって思うぐらい。

    ――そんなわけないでしょ(笑)

    大島:なんか隙間でもあるのかな?とか。いくらやってもそうなるから、逆に完全に座ってやって、検証しようと。それでも付いたら「違ったよ」と言おうと思って。

    今までいろんな彼女と半同棲とかもあったんですけど、「座ってして」は絶対に受け入れて来なかったんです。だって20数年立ってしてきたんですよ…。

    でも、今回からは頑張ろうと思ってます。

    陰と陽

    ――『男の娘どうし恋愛中。』は大島さんの文章を、『ぼくらのへんたい』(徳間書店)などで知られるふみふみこ先生が漫画化しています。ミシェルさんは読んでみていかがでしたか。

    ミシェル:漫画になってうれしかった。自分で泣いちゃうシーンもたくさんありました。漫画の最後の方で、私が「恋人がいい」という場面とか。

    ――別れの危機を迎えた2人が、愛を確かめ合うシーンですね。

    大島:「一緒に生きていこう」「恋人でも友達でもなんでもいいよ!」とボクが言って、ミシェルが「恋人がいい」と答える。実際にこういうやりとりがありました。

    コミックエッセイって、だいたいギャグ調が多いじゃないですか。「陰と陽」でいうと、ボクは「陽」でミシェルは「陰」。

    よくあるギャグ調のコミックエッセイにするなら、ボクのおバカなエピソードを集めて、「陽」の部分だけでまとめることもできました。でも、ふみふみこさんが受けてくださるんだったら、ミシェルとのことをメインにしようと。

    ふみさんは陰のある作品をよく描かれていて、思春期独特の性に悩む少年少女を描くのもお得意。ご両親の離婚を経験して、恋愛に不信感を抱いているミシェルのことも、作品として昇華してくれると思ったんです。

    おかげで「変わった人の人生をのぞき見しておもしろかったね」で終わらずに、何かを感じられる作品になったんじゃないかと思います。

    突然の入院

    ――出版後、昨年末にミシェルさんが体調を崩して入院されたそうですが。

    ミシェル:急性肺炎で2週間ほど入院してましたが、もう大丈夫です。

    大島:もともと膵炎があって、飲みすぎると定期的にくるんです。今回もそうなのかなと思ったら、いつもよりしんどそうで。

    病院嫌いのミシェルが「病院行こうかな」と言い出した時に、これは本当におかしいなと。それで救急車を呼びました。

    入院してすぐは毎日お見舞いに来られたんですけど、たまたま仕事が忙しくなった時に1日、2日空いちゃって。久しぶりに会ったら「私のこと嫌いになった?」と泣かれてしまいました。

    ミシェル:来ても冷たいし、結構不安でしたね。

    大島:「いや、違うんだよ」と言ったんですけど。

    急に入院ということになったので、お金の面とか大丈夫かなって。自分のなかで責任感がドーンときて、ボク自身もノイローゼ気味になっちゃって。その間も仕事の連絡はバンバン来るし、頭がパンクしそうでした。

    いままで「1人で生きていければいいや」と思ってたのが2人になって。本当に2人で生きていくっていうのはこういうことなんだな、と実感させられましたね。

    いま一番不安なのはミシェルなのに、こちらが不安になっているなんて言えないし、見せたくなかったんです。

    結婚も「アリかな」

    ――病気を乗り越えて、さらに絆は深まりましたか。

    大島:だいぶ。「離れる」という選択肢はボクのなかにはないので、何かトラブルや揉めごとが起きたとしても、離れない前提でスタートするしかない。もう離れない前提だから、何も怖くはないかな、という気持ちではいますね。

    ――大島さんからこれだけ愛されて、ミシェルさんも恋愛への不信感が払拭されてきましたか。

    ミシェル:払拭されつつある感じですかね。そんなにきれいにはパッとはいかないかもしれないですが。

    結婚なんて自分のなかになかったんだけど、いまはできなくても「アリなのかな」とは思います。

    大島:たまにそれが顔を覗かせるときはまだあって。この前ホルモンを打てていなかった時、気持ちが不安定になったのか「ちゃんと好き?」って聞かれたんです。

    「うん、もちろん好きだよ」と答えたんですけど、「薫ちゃんが私のこと好きじゃなかったら、私はもう消えちゃうから」って。だから、まだ残っているんだな、とは思うんですけど。

    最近、ボクのなかで愛情が緩やかになってるんですね。悪い意味じゃないですよ。波風がバーッと立つのではなく、水面が静かな状態になってる。その状態で「愛してる」ということなんです。

    だからいまは、一時期のような激しさは感じられてないのかもしれません。

    最期の瞬間に一緒にいたい

    ――ミシェルさんからは「結婚もアリかな」という話がありましたが、大島さんの方はいかがでしょうか。

    彼女1人のために人生を捧げてもいい。出会ったころにそう思ったので、覚悟はできています。

    こういうと語弊があるかもしれないけど、どんな形であれ、「ずっとひとりの人に愛され続けるんだ」ということを彼女に証明したいんです。

    仮に愛情が恋愛感情でなくなることがあったとしても、「ずっとこの人は一緒にいるだろうな」と。でもそれって結局、死ぬまでわからないことですよね。

    彼女の最期の瞬間に「やっぱりこの人は最期まで一緒にいてくれたんだ」と思わせないといけない。彼女がこと切れるその瞬間に「誰も自分のそばにいなかったわ」と思わせたくないんです。

    そのために、ボクが彼女と離れないでいるにはどうすればいいか。頭と体を使って考え続けていかないといけないな、と思っています。


    このインタビューの2週間後、大島さんは「彼女と別れることになりました…。今回はもう戻ることはありません」「何度も復縁してまたかと呆れられてるかと思うんですが、今回は本当にないです」とツイートした。

    ケンカの末、ミシェルさんがインタビュー中でも言及していた別の男性のもとへ戻ったという。

    一方のミシェルさんも、「@kaoru_kainushi(薫_飼い主)」としていたTwitterのアカウントやユーザー名を変更し、別れの経緯をつづった(現在は削除)。

    あれだけ仲睦まじい様子だった2人に何があったのか、詳しいことはわからない。いまはただ、新たな道を選んだ2人の幸せを祈りたい。

    BuzzFeed JapanNews