岡崎京子の漫画を原作とする映画「チワワちゃん」が、1月18日から公開されている。
人気モデルの「チワワちゃん」が殺され、遊び仲間の一人だったミキは、生前のチワワの痕跡を追い求めて、周囲に彼女の思い出を聞き歩く。
自由で、奔放で、キラキラしたチワワへの憧れと嫉妬――。主演の門脇麦は、ミキの屈折した心情を巧みに演じている。
そんな門脇自身が憧れ、思わず嫉妬してしまう人物とは? 人生の転機となった出来事や女優業への思いも語った。
チワワちゃんへの複雑な思い
――ミキたちの前に颯爽と現れたチワワは、あっという間にモデルとしてブレイクしていきます。間近で成功を目にするミキの心の動きを、どのように演じましたか。
映画のなかでは詳しく描いていませんが、チワワが来るまではミキがグループの中心的な女の子だったという裏設定があるんです。
気がついたら自分の立ち位置にチワワがいる。そういう複雑な思いが見えるように、チワワへの色んな感情が立ち込めているミキを表現できたらと思っていました。
あるシーンではチワワのことを本当に友達として好きだったんだろうな、という側面をストレートに出していますし、また別のシーンでは嫉妬心を露わにしている。
「実はこの先チワワに起こることを知っているんじゃないか?」と見えたらいいな、と思いながら撮影した場面もあります。
クルミを10キロ採ってくる父
――門脇さん自身は誰かに嫉妬することってあるのでしょうか。
あまりないのですが、強いて言えば父と弟ですかね。2人はすごくよく似ていて。
弟は自分がやりたいことを追求していて、それを仕事にしようと頑張っています。父は山登りが好きなんですけど、毎週のように出かけて、本当に楽しそうなんです。
この時期はクルミが河原にたくさん落ちているので、それをリュックサックいっぱいに採ってきて。去年は10キロぐらい採ってきたんですよ(笑)
それでひたすらクルミを割って、クルミのパンを焼いたりとか。とにかく楽しそうだし、強いなって思いますね。
熱さへの憧れ
――門脇さんはあまり夢中になる、熱中するタイプではないのですね。
最近はあまりないですね。夢中になってやっている父や弟を見て、かなわないなあと思います。
私はミキに近いところがあって、友達といても俯瞰してしまいがちで。常にバランサーに回ろうとしちゃう。
俯瞰している人間は熱くなりきれない。だからこそ、熱くなれる人たちに憧れるんでしょうね。
一緒に写さないで(笑)
――ほかの女優さんに対して「負けたくない!」とか、嫉妬のような気持ちを抱くことはないのでしょうか。
基本的にどの女優さん、俳優さんにも嫉妬という感情はないです。
映画を見るのが好きなので「画面の向こうの人」というか、ただのファンという感覚が強いですね。だから、うわあ素敵だな、一緒に仕事したいなって思うことはありますけど…。
うーん、あっ! 小松菜奈ちゃんと一緒に「さよならくちびる」(5月公開)という映画に出ているのですが、あまりにも美しすぎて一緒にいて悲しい気分になりました(笑)
――青空が美しすぎて悲しい的な(笑)
一緒に写さないでって(笑)
「役を引きずる」ことはない
――俯瞰するタイプということですが、役に関してはいかがですか。役が憑依するような感じなのか、常に引いた目で見ているのか。
完全に自分ですね。いつも、どんな役をやっていても。「役になりきる」と感じたことは、まだ一度もないんですよね。
――てっきり憑依型かと。
いやいやいや、全然ですね。
――では逆に「役が抜けなくて…」ということもないわけですね。
役を引きずる、みたいなことは多分ないんじゃないかな。
現場に入るとアドレナリンが出て集中力が増すんですけど、そのぶん夜に寝られなくなったり、しょっちゅう金縛りにあったりして。
そういう「ハイ」みたいな感じが抜けない、ということはありますね。「いつもより声大きくない?」って言われたりとか(笑)
消費されるチワワ
――チワワは芸能界で多くの人たちの視線にさらされ、消費され、消耗していきます。
あまりにも心にゆとりがなくなって、ものすごい早さで毎日稼働していると、いろんな感情だったり、自分のなかの何かがマヒしてくる。
多分そういう感覚って、芸能界に限らず、どんな仕事にもあるんじゃないかなと思います。
「やめたい」思いが消えた時
――女優をやめたいと思ったことはありますか。
やめたいと思ったことがない、と言ったらウソになります。
以前は自分に何ができて何ができないか、自分の能力もわかっていませんでした。何をあきらめて、何を妥協したらいいのかという線引きも曖昧で。
先ほどの「消耗」の話にも通じますけど、固定観念にとらわれて視野が狭くなると、それしか見えなくなってしんどくなってしまうんですよね。
2015年に病気(急性喉頭蓋炎)をして、そのことに気づいて。できないものはできないで、仕方がないんだと。
そういう割り切りができるようになって、せっかく好きで始めた仕事なのに「つらい」「苦しい」ばかり言ってるのは、アホらしいなと思えるようになりました。
視点を変えれば、いくらでも楽しめる。それから「やめたい」という思いは消えましたね。
私、貪欲なので
――いま現在はいかがですか。「生涯女優」という心持ちなのか、そのほかの選択肢も視野にあるのか。
「いまはやめられないな」っていうのが、一番正直な気持ちかもしれないですね。「生涯続けたい!」とも「別の道に進みたい」とも思わないですけど、いまはやめられない。
やっぱり、これまでの現場での出会いが大きいですね。一緒に作品をつくるって、人と深くかかわることだと思っていて。それに対して、何かお返ししたいという気持ちがすごく強くあるんです。
「恩返し」と言ったらおこがましいですが、デビューの時からお世話になってきた事務所の方々や監督さんたちに、まだ全然何も返せていないので。
あと私、貪欲なので。「この役とこの作品をやったら、もう何もしなくていい」と思える作品にまだ出会えていない、という思いがあって。
いい作品に出会いたい、という気持ちは一番強いですね。
〈かどわき・むぎ〉 1992年、東京都出身。2011年にテレビドラマで女優デビュー。NHK大河ドラマ「八重の桜」(2013年)、NHK連続テレビ小説 「まれ」(2015年)日曜ドラマ「トドメの接吻(キス)」(2018年)などに出演。映画「愛の渦」「闇金ウシジマくん Part2」「シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸」(2014年)で、キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞。2018年にはエランドール賞新人賞を受賞。