
東京オリンピック中止という「予言」が的中したことで話題を呼んだ、SF漫画の名作『AKIRA』。
アルバム『ねえみんな大好きだよ』を出した銀杏BOYZの峯田和伸さんは10年以上前、全6巻のコミックスをデリヘル店で働く女性に借りパクされてしまったという逸話で知られています。
分厚い漫画を貸したのに

――あの『AKIRA』って返ってきたんですか?
返ってこない。もう戻ってこないだろうな。引っ越しちゃったし、俺。
――確か、全巻セットで貸してあげたんですよね。
そうだよ。あんな分厚いの。
――よく持って帰りましたね、あんなの重いのに。
重い。でも、「読みたい」って言うから。
――大友克洋の話題で盛り上がったとか?
いや、『攻殻機動隊』が好きだって言ってたの。でも『AKIRA』は知らないって言うから、「これ、面白いよ」って渡して。
「今度また呼ぶから。その時返してくれればいいよ」って。3回くらい指名してて、話が合う人だったんだよね。
「いいんですか!」

――その後、『AKIRA』は買い戻したりしましたか。
まだ買ってない。
――じゃあ、かわいそうだからこれあげますよ(撮影用に持参した1巻と5 巻を渡す)。
本当ですか! これ、いいんですか!?
――どうぞ、どうぞ。
マジで!? 久しぶりに見たわ〜。
(5巻を手に取りながら)ここ、特色グリーンですよ。めっちゃいい色だ。
でも、なんで1巻と5 巻なんだよ! ワケわかんねえわ(笑)
――写真を撮るのに持ってきたんですけど、全巻だとちょっと重いかなって。
これもらったら、2巻とか3巻とかも買わなくちゃいけなくなるよ。
――ひょっとして、返してもらっている可能性もゼロではないかなと、思いまして。
ないんですよ。『AKIRA』展も行ってるんだけど、まだ持ってなかったの。
元気かな

――借りパクしていった女性にメッセージとかあります?
元気かな、あの子。
――「返してよ」って言う気持ちはもうないんですか。
もう売ってるかもしれないしね。
でもさ、マンガ貸してくる客なんて俺ぐらいだよね。その子も覚えてるかもしれないね。
――たぶん、覚えてるでしょう(笑)
俺、バンドやってるって言わなかったのね。もしかしたらさ、俺の出てるドラマ見て「あれ? この人…えー!!」って思ってるかも。
家庭も持ってるかもしれないよね。旦那と一緒にテレビ見ながら、「あれ?」「うわあ…」って思い出してるんじゃない?
「あんなバカなヤツいたな」「マンガ貸してくれたな」って。それでいいよ、俺は。
言っとくけどこれ、2007年の話だからね。そのぐらい前だから。
永遠に残っちゃう

――ラジオでネタにされて広まって。
俺の感覚だとラジオって、その場だからこそ言えることを言ってるからさ。でもさ、ネットって怖くて、書き起こしちゃう人がいるんだよね。
永遠に残っちゃうんだよ! YouTubeとかに上げちゃう人もいるし。
――確かに。おかげで後から知ることができたりもするわけですが。
そういう気持ちもわかるんだけど。でも、ラジオって「あの時間帯にあの番組をやってる」特権っていうかさ。
――行きずりの言葉で語る魅力はありますね。
そう。永遠性のないところがいいじゃん、ラジオって。
黒歴史?

――じゃあ、このエピソードは書くのやめときます?
いいよ、別に。
――黒歴史として封印しなくていいんですか。
別に黒歴史でもないよ。随分前のことだし。
それにほら、ウソかもしれないよ? 俺のネタかもしれないじゃん。目立ちたくて言ってるだけでさ。
――めっちゃフィクションだったってことにしようとしてるじゃないですか(笑)
全部、ウソかもしれないよ、俺の言ってること。俺しかわからないんだから、本当のことは(笑)

〈峯田和伸〉 ミュージシャン・俳優。1977年、山形生まれ。1999年、ロックバンド「GOING STEADY」としてデビュー。2003年に解散し、「銀杏BOYZ」を結成。代表作に『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』『DOOR』など。最新作『ねえみんな大好きだよ』は、前作『光のなかに立っていてね』以来、約6年半ぶりのオリジナルアルバム。音楽活動のかたわら映画『アイデン&ティティ』『ボーイズ・オン・ザ・ラン』や、ドラマ『ひよっこ』『いだてん』『高嶺の花』などに出演。演技の世界でも高い評価を受けている。無観客生配信ライブ「銀杏BOYZ 年末のスマホライブ2020」を12月26日に開催予定。