ロックバンド「銀杏BOYZ」が約6年半ぶりのアルバム『ねえみんな大好きだよ』を出した。収録曲『アレックス』は、峯田和伸が昨年亡くなった親友を思ってつくったという。
「あの人、一回も俺を否定したことがなかった」「ずっと俺の味方で、お兄ちゃんみたいな人だった」。峯田はそう振り返る。
自分なりのお別れ

――アルバムの最後を飾る『アレックス』はどのようにして生まれたのでしょう。
去年の年末に友達が亡くなって。…イノマーさんって知ってます?
――もちろんです。パンクバンド「オナニーマシーン」のイノマーさん。峯田さんと共著を出されたり、クリスマス・イブに一緒にイベントをしたり、深い親交があったそうですね。
そう。友達のことを直接歌うのはちょっとあれだから、イノマーさんの彼女のことを、自分の気持ちにちょっと置き換えてみて、1曲書こうかなって。自分なりのお別れというか。
歌詞で「大好きだった」とか出てきたから。その頃ちょうどアルバムタイトルもできてたので、「あっ、つながるな」と思って。エンドの「大好きだよ」っていうのは。
《そんな日がくるって夢みていたんだ
まぶしい未来にもう帰れない
雨が窓を叩く音 宛名のない歌
さよなら さよなら 今なら
だいすきだったよ》
『アレックス』
初対面は編集者とミュージシャン

――イノマーさんとは、かなり長い付き合いでしたよね。
長いですね。2001年からかな。
イノマーさんは『オリコンウィークリー』っていう雑誌の編集長をやってたのね。『さくらの唄』(GOING STEADY、2001年)を出した時に、特集を組んでくれて。
――オナニーマシーンの音楽活動ではなくて、先にオリコンの取材で知り合ったと。
うん、最初はライターとしてのイノマーさんと知り合って。でも友達が亡くなると、さすがにへこむよね…。
病室で起きた小さな奇跡

――危篤になった時にも駆けつけられたと聞きました。
朝の4時ごろマネージャーから電話がかかってきて、「ヤバイかも」っていうから、俺すぐに病院に行ったの。
そろそろかもしれないって覚悟していたんだけど、そこから起き上がったんだよ。
――すごい!
周りにいる人たちが「イノマーさん、峯田来たよ!」って言ったら、グイーって起き上がってさ。映像も残ってる。見たらビックリするよ。
意識戻ってきたから、みんなワーッ!となって。朝までずっと手をつないで過ごした。いままで生きてきて、あんなに長い時間、人と手をつないだことないな。
「イ゛ノ゛マ゛ーざん゛!!」

その日の夜に、(銀杏BOYZの)マネージャーの江口くんの結婚式があったの。
夕方近くになって、そろそろ行くっていう時に、イノマーさんがホワイトボードにペンで「おめでとう」「江口くんに伝えて」って書いてくれた。
しゃべれないんだけど、意思の疎通はできて。すごいなと思った。
結婚式の終わりに、江口くんにイノマーさんの写真見せて、「おめでとう」のメッセージを伝えたら「イ゛ノ゛マ゛ーざん゛!!」って号泣してた(笑)
「なんとか生き延びてほしいね」「記念すべき結婚式の日には亡くなってほしくないね」なんていう話をして。
――そこからは一進一退、という感じですか。
そうです。亡くなったのが去年の12月だもんね。
12月って言ったら、ずっとオナマシと銀杏とで「童貞たちのクリスマス・イブ」ってイベントをやってたから。もう対バンできないのか…という気持ちはありますね。
死なないで。生きるまで

――4曲目の『アーメン・ザーメン・メリーチェイン』もイノマーさんにゆかりがあるとか。
《2019年。渋谷ラママの楽屋で、ガンで亡くなる前のイノマーさんに寄せ書きをお願いされて、ペンを渡された僕は咄嗟に「死なないで。生きるまで」と書きました。夜遅くに家に帰ると僕はその言葉の意味がまたさらにわからなくなり、ただその言葉のうわばみだけを反芻しました。ガンと闘い続ける最愛の友人に向けて、自分に向けて、心経のように唱えました》
(峯田和伸による覚書「解説のようなもの」)
そう。『アーメン・ザーメン・メリーチェイン』は、解説にはイノマーさんのこと書いたけどね、いろんなことが混ざってる。
この曲は意識的に、銀杏BOYZのアンセムをつくろうと思ってつくったんですよね。
――すごくきれいな曲なのに、このタイトル。いいですね。
ありがとうございます。
寄せ書きは、ラママの店長に頼まれたんだよ。「これ、イノマーさんにプレゼントするから、トートバッグか何かに書こうか」という話になって。
でも、内情知らない人からしたら、ラブソングに聴こえるでしょ? それでいいと思うんですよね。
こういうことがあったから、直接歌にしようってことにはならなくて。やっぱりラブソングなんですよね、書きたいのは。
引っかかる言葉

――「ぼくが生きるまで きみは死なないで」という歌詞が印象的です。イノマーさんへの寄せ書きに「死なないで。生きるまで」と書いた時点では、自分でもその意味が完全には咀嚼しきれていなかったということでしょうか。
意味わかんないよね。不思議だなと思います。どういう風にも受け取れるし。
この言葉、一度書いてはみたけど、どういう風な意味合いなんだろうな?とか。角度によって、いろんな解釈できるなみたいな。
「僕たちは世界を変えることができない」(2007年発表の映像作品のエンディングテーマ)、「世界がひとつになりませんように」(2019年の日本武道館公演のタイトル)とか、裏側に何かありそうじゃないですか。
そういう言葉って引っかかるっていうか、歌詞になりやすい。タイトルになりやすいんですよね。
ずっと味方でいてくれた

――改めて、イノマーさんってどんな人でしたか。
あの人、一回も俺を否定したことがなかった。
「イノマーさん、俺こう思う」「イノマーさん、俺こうしたい」と言うことに対して、「いいね、最高だね」って全部、肯定してくれた。全部。
――「それはやめておこうぜ」みたいなことは…
ないないない。一回もない。いつも「峯田君、それいいんじゃない?」って。そんな人いないよ。
何でも許してくれるんだよね。「社会はお前がやったことを断罪するし、怒るし、謝罪を求めてくる。でも俺は、お前の味方でいるよ」っていう感じ。すごくありがたいよね。
そういう人がひとりいるだけで全然違う。イノマーさんは全部面白がってくれたし、聴かせる曲全部、いいって言ってくれたから。
ずっと俺の味方で…俺からしたら、すごい尊敬する先輩だけど、お兄ちゃんみたいな人だったな。

〈峯田和伸〉 ミュージシャン・俳優。1977年、山形生まれ。1999年、ロックバンド「GOING STEADY」としてデビュー。2003年に解散し、「銀杏BOYZ」を結成。代表作に『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』『DOOR』など。最新作『ねえみんな大好きだよ』は、前作『光のなかに立っていてね』以来、約6年半ぶりのオリジナルアルバム。音楽活動のかたわら映画『アイデン&ティティ』『ボーイズ・オン・ザ・ラン』や、ドラマ『ひよっこ』『いだてん』『高嶺の花』などに出演。演技の世界でも高い評価を受けている。無観客生配信ライブ「銀杏BOYZ 年末のスマホライブ2020」を12月26日に開催予定。