「親戚のお兄さん」「無理目のパス出せる」
――岡田さんと峯田さんは、お互いにとってどういう存在ですか。
峯田:岡田さんは、僕からすると親戚のお兄ちゃんですね。
スクーターの後ろに彼女乗っけて、俺は岡田さんの前に座らせられて。「うわ、初めてスクーター乗った! 気持ちいいなー」みたいな。
「アイス食いてえか?」って聞かれて、「食いたい」って言ったら買ってくれる。そんなお兄さん(笑)
岡田:(笑) サッカーに例えると、無理目のパスを出せるって感じですかね。
これはもう理屈じゃなくて、峯田くんの走っていくところにパスを出せる感じが自分にはあって。それがすごく幸せだし、普段活動してるところは違っても、こういう風に時々組める相手としては最高ですね。
峯田くんとの出会いは、僕にとってはここ数年で1番でかい。自分のなかの何かを引き出してくれるから楽しいんです。いま書いてるものに峯田くんがいないのが寂しいですよ。
裏っかわの情景が浮かんだ
――『いちごの唄』の挿絵は峯田さんが描きました。
峯田:主人公の笹沢コウタはちょっとバカな感じの男の子。上京してきて、「あーちゃん」っていう気になる女の子と年に1度会うようになる。
何が起こったのか具体的に書かれているわけじゃないけど、たぶん、あーちゃんは東京でいろんなことがあったはずなんですよ。
コウタと会った帰り際、寂しそうな様子にすごいグッときて、それを絵に描きたいなと思って。OLの格好で、裸足になって、鉄棒みたいなところに寄り掛かって、1人でブラーンとしてる感じ。
コウタはその姿を見ていない。でも、あーちゃんはこういうことをしてるんじゃないかなって、裏っかわの情景が思い浮かんで。
僕が描くのは全部で7枚って決まっていたんですけど、アイディア自体は20パターンぐらい考えてました。ただ、画力の限界があるんで、手をつけてあきらめたのも何枚かあります。
岡田:それは画力の問題なの?
峯田:画力の問題ですね。俺の筆では描けないなって。
女の子の顔は好きで、何も見ないでも描けるんです。ほかはなかなか描けなくて。線路とか看板とか、歩きながら実際に写真撮って、見ながら描きました。
来年には映画化も
岡田:峯田くんの曲が根っこにある小説に、絵も描いてもらうっていう「サンドイッチ」みたいなコラボ。来年には夢だった映画化もされます。
ちょっと例のない感じのことができて、すごく楽しかったですね。
峯田:部屋に置いてあるだけでホッとするような、不思議な作品。軽やかで、隙間たっぷりで。僕だけでは絶対につくれないものをつくってもらえて、嬉しいです。
銀杏BOYZでは、僕が1から10までどの創作物にもかかわっていて。プレイヤーでありプロデューサーなので、ジャケットのデザインにしろ、チラシにしろ、アイディアから最終チェックまでガッチガチにやる。
もちろん自分の完成したいものにはなるんですけど、想像を超えたものにはならないんですよね。
お芝居以外のところで初めて岡田さんとそういうものができて、自分としては大したもんだな、上出来だなと。
勝てなくても負けない
――「私もさ、戦ってみたいなって。負けてもいいから」という、あーちゃんの言葉が印象的でした。峯田さん主演、岡田さん脚本のドラマ「奇跡の人」にも「勝てなくても負けねえぞ」というセリフがありましたね。
岡田:「奇跡の人」の時にすごく思ったんですけど、やっぱりあの役を峯田くんで書くと、自分にとってロックって何なの?みたいなところが出てくる。
普段はあんまり言わないことをセリフにするっていう作業を初めてやった感があって、それまでフタをしてきた部分が開いた感じがあったんです。
「勝てなくても負けない」っていうのも、その一環っていうか。今回に関しても、自分のなかのロック的な部分が出てると思います。
峯田:「負ける美学」っていうのも、もちろんカッコイイなと思うんですけど、それだけじゃないと思っていて。僕も岡田さんも、サッカーのバルセロナが好きなんですね。
岡田:バルサ好きだね。
峯田:1点取った後、その1点をガッチリ守るんじゃなくて、3点取られてもいいから5点取ろうよ、みたいな派手なことをやる。それがバルセロナ。負けるかもしれないけど、5点取るつもりで試合に挑むんです。
岡田:その過程も楽しもうよっていう感じがありますよね。
笑われる感じが丁度いい
――これまでの人生を振り返って、負けそうになったことは。
峯田:勝ったとも、負けてるとも思わない。ただ、ケガしてお客さんに心配させちゃったりすると、人前に立つ者としてはダメだなと。同情されたら終わりだなって。
出てきて笑われる感じが丁度いいんですよね。出てきて笑われて、でもなんか知らないけど途中で泣いちゃう。で、終わってみたら笑えるみたいな。できてるとは思わないけど、理想ですね。
岡田:去年の銀杏の武道館ライブで峯田くんが出てきた時、客席はなんとなく「本当に出てきたよ」みたいな感じがあって。
みんな内心わかってはいたんだけど、「本当にやるんだ」みたいな感じがちょっと面白かった。
峯田:出てくるのが当たり前になってしまったらダメですよね。「バカじゃん、出てきやがって」っていうぐらいが理想。
オール3にショック
――岡田さんは負けそうになること、「もう辞めてしまいたい」と思ったことはありますか。
岡田:キツイな、みたいなのはしょっちゅうありますけど、ほかに何もできないし。休んでどこか遠くへ行きたい、っていう発想はあまりないですかね。
自分としては上出来じゃん、と思っているところがあります。そんなに自己評価が高くない子だったんで。
子どものころ、通信簿でオール3っていうのを取ったことがあるんですよ。小学3年生か4年生ぐらいだったかな。
その時は子ども心に、この人生はつまらなすぎるんじゃないかって思った。
峯田:3って平均ですもんね。
岡田:平均。エライ部分もあるんですよ、苦手なことも2とか1じゃなくて3まで上げてる。でも、自分としてはけっこうイケてるじゃん、と思ってたものも3止まりで。
ドラマがないっていうか、逸話がないっていうか。やっぱりアーティストとかって、1と5みたいな感じがあるじゃないですか。
真逆の通信簿
峯田:僕、本当に真逆で、3、4年生ぐらいの時、通信簿は二重丸、三角、バツのうち、二重丸とバツに分かれていて。
親にも言われましたけど、本当にバランス悪いなと。だから3の人に憧れてました。
岡田:ないものねだりなのかもしれないけど、バランスがいい自分が嫌だったんですよ。コンプレックスがずっとありました。
峯田:僕はバランス悪い自分が気持ち悪くて。自分にない部分だから憧れるし、頼れるなって思う。
岡田:ただ脚本家は天職なのかなとも思ってるんですよ。脚本家はバランス感覚がないとダメ。得点はあげないけど、中心にはいるっていう。
そこに喜びを見出せるんですよね。「俺が俺が」ばっかりだと、ストレスだらけになっちゃうけど。
峯田:たとえばプロデューサーから「もう少し見てる人のこと考えて、この表現こうしません?」ってあると思うんですよ。
でもバンドだけやってる人とか、芸術家の人たちはそこを考えなくていいし、もっとワガママにできる。でも僕、そこにも行けないので…。
もう少しポピュラリティーも意識しないと、っていうのは昔からあって。だから実験音楽だけにもなれないし。その辺のバランス感覚が、もうちょっとほしいんだよな。
岡田:実は僕と峯田くんは、意外と接点を持ちにくいタイプの立ち位置だったと思う。
「アイデン&ティティ」(2003年)も見てたけど、そのころの峯田くんのスタンスだと、たぶん僕とは接点が生まれなかった。だから「奇跡の人」で一緒にやれて、よかったなって。
「好き」を求めすぎるとキツくなる
――お2人から「上出来」という言葉が出ましたが、上出来な人生を過ごすために、どんなことを心がけたらいいでしょうか。
峯田:好きなものってあるじゃないですか。好きなものばっかりを求めていくと、キツくなるっていうのがあって。
たとえば自分にこの髪型が似合うとか、俺はこの服が好きだとか、あんまりわからない方がいいなと。
確かなのは、僕が苦手なのはわかるんですよね。この映画が苦手だとか、それさえハッキリわかっていればいいのかな、っていう。好きなものを求めなくても、「嫌いなものはこれだ」っていうのがあればいい。
自分にこの髪型は似合わない、この服は似合わない…。そこさえ避ければ、けっこう楽にいけるな、みたいなのはあるかもしれない。楽ですよ、そっちの方が。
岡田:ああ、わかる。
峯田:好きなものを追いかけてると、その時は満たされるかもしれないですけど、けっこう流動的じゃないですか。
気になるアイドルがいたとして、1ヶ月後には飽きてる可能性もありますよね。いまもう、いろんな世の中の流れが早すぎて。
好きな、好きな、好きなって求めていくと、疲れちゃう。1年後も本当に好きな確証なんてないわけですよ。
もちろん、「あの映画は60歳になっても見られるだろうな」とか漠然とはありますよ。でも、「この映画、俺は一生かかっても無理だわ」っていう方が、永遠に変わらない気がするんですよ。
確かなものが1個あればいいんですよね。僕みたいにあんまり好きじゃないものが1個あると、すごい楽だし、疲れない気がする。
1番好きなことを仕事にすると…
――岡田さんはいかがですか。
岡田:僕はある意味、本当に1番好きなことを仕事にしてる感じはないのかもしれない。2番目とかなんだと思います。
たぶん1番好きなのは音楽だし、いわゆるシネフィルみたいな人でもない。すごく距離があるというか…。自分が本当に好きで好きで仕方がないものを職業にする人は、それはそれで大変だろうなと思いますね。
峯田:好きなことを仕事にできたらいいなって、たぶんみんな思うじゃないですか。僕も「いいですね、好きなことを仕事にできて」って言われますけど、好きじゃないですからね、別に。
岡田:この歳になっても、家族にそういうこと言われるからね。「いいわね、好きなことやってて」って。しんどい時も「でも好きでやってるんでしょ」って。それはちょっと違うと思うな、みたいな(笑)
峯田:僕も映画見てたりする方が随分いいですね。だからって映画ライターになっているかといったら違うし。
岡田:僕も音楽が好きで、高校のころ1番なりたかったのは、レコードの解説を書く人だった。
でも、もしなっちゃったら、そういう目で聴かなきゃいけないんだなと気づいて。音楽はとっておこうと。
峯田:好きだといま簡単にやれるじゃないですか。ちょっと負荷をかけた方がいいのかな、と思ったりしますけどね。
岡田:あえてね。脚本家になった時、「俺はセンシティブな青春ものしか書かない」「コメディなんて」みたいに思ってたけど、やらされてみてだいぶ変わりました。
だからいまでも、「100%ピュアに好きなことやってください」って言われると、終わっちゃう感じがあって。峯田くんの言う負荷みたいなものがあった方ががいいと思いますね。
自分があんまり好きじゃない、苦手だと思っていることがヘタかというと、そうでもないんだな人間。自分でも思ってないところに、意外と力が眠ってたりするんですよ。
〈おかだ・よしかず〉 脚本家。1959年、東京生まれ。NHK連続テレビ小説「ひよっこ」「ちゅらさん」、フジテレビ系「最後から二番目の恋」、日本テレビ系「泣くな、はらちゃん」など、数多くの名ドラマを手がける。「ちゅらさん」で橋田賞と向田邦子賞をダブル受賞。峯田和伸主演の「奇跡の人」(NHK BS)では、文化庁芸術祭テレビドラマ部門大賞を受けた。著書に『TVドラマが好きだった』など。
〈みねた・かずのぶ〉 ミュージシャン・俳優。1977年、山形生まれ。99年、ロックバンド「GOING STEADY」としてデビュー。2003年に解散し、「銀杏BOYZ」を結成。代表作に「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」「DOOR」「光のなかに立っていてね」など。映画「アイデン&ティティ」「ボーイズ・オン・ザ・ラン」、ドラマ「奇跡の人」「ひよっこ」に出演、演技の世界でも活動の幅を広げている。
インタビュー前編では、それぞれ脚本と小説/音楽と俳優という2つの領域をまたにかけて活躍する岡田惠和さんと峯田和伸さんに、「二刀流」の哲学を聞いています。