Updated on 2020年1月27日. Posted on 2020年1月24日

    大麻解禁論にMr.マトリが大反論「酒・タバコと同じテーブルで論じられない」

    カナダやアメリカの各州で合法化された大麻。『マトリ 厚労省麻薬取締官』の著者で元麻薬取締部部長の瀬戸晴海さんは、にわかに盛り上がりを見せる大麻解禁論を真っ向から否定する。

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    元麻薬取締部部長の瀬戸晴海さん

    カナダが2018年に大麻を合法化し、米国では10以上の州が嗜好用の大麻解禁に踏み切った。日本でも安倍晋三首相の妻・昭恵さんは、医療用大麻への肯定的なスタンスで知られる。

    にわかに盛り上がりを見せる大麻解禁論を、「Mr.マトリ」はどう受け止めるのか。厚生労働省の元麻薬取締部部長で、『マトリ 厚労省麻薬取締官』(新潮新書)を上梓した瀬戸晴海さんに見解を聞いた。

    解禁国・地域は「致し方なく」

    新潮社 / Via amazon.co.jp

    瀬戸晴海著『マトリ 厚労省麻薬取締官』

    ――カナダやアメリカの各州で大麻が解禁され、安倍昭恵さんも医療用や祈祷用の大麻への関心を公言し《「日本を取り戻す」ことは「大麻を取り戻す」こと》と語っています。こうした風潮をどのように見ていますか。

    世界レベルで見たら、先進国ではカナダだけ。あとはアメリカの11の州とワシントンD.C.ですから。それから、先進国ではありませんがウルグアイ。

    大麻の経験率を見ると、欧米は3〜4割なんです。致し方なく、ああいう制度化をせざるを得なかったという事情がありますよね。

    米国襲ったオピオイド禍

    厚生労働省のサイトより / Via mhlw.go.jp

    主要な国の薬物別生涯経験率

    ――欧米は結構高いですね。

    日本なんか1.4%です。

    加えて、欧米はハードな薬物でいま大変な状況になっている。特にアメリカは合成オピオイド(麻薬系鎮痛剤)、とりわけフェンタニルの問題で何万人も亡くなっています。

    あるいは犯罪組織も暗躍している。そうした状況のなかで、大麻を解禁――というよりも制度化――せざるを得なかったんだという風に見てますけど。

    《※フェンタニルは合成オピオイドの一種で、モルヒネの50〜100倍もの強さがあると言われる。フェンタニルを含む合成オピオイドの2017年の死者数は、全米で2万8千人超に達した。オピオイドの過剰摂取による死亡率は、交通事故による死亡率を上回る

    酒やタバコの方が「有害」指摘も

    薬物政策国際委員会 / Via globalcommissionondrugs.org

    薬物政策国際委員会による薬物の有害度を示すグラフでは、大麻はアルコール(1番上)、タバコ(6番目)よりも下の8番目に位置づけられている。

    ――大麻に比べ、アルコールやタバコの方が有害だとの指摘もあります。

    作用がまったく違いますし、アルコールやタバコと同じテーブルで論じることはできないんですよ。

    大麻には「催幻覚」といって幻覚性がある。ここがひとつの大きな問題です。

    タバコも依存性がありますが、大麻にも依存性がある。普通は努力による報酬で喜び・快感を得るのですが、外から入れると努力なしに快感を得ることになり、脳に記憶される。ずっとそれを求めてしまうわけです。

    個人差はありますが、大麻を継続すると脳が萎縮し、「無動機症候群」になる。集中力がなくなってうつ状態が始まります。

    社会的な要因でみても、交通事故を起こした時にアルコールなら呼気でわかります。大麻はわかりません。採尿するか、血液を抜かなきゃいけない。つまり令状が必要になります。

    こういったことを考えても、なぜいま、あえて大麻が論じられるのかというのが、少し不思議なんですね。

    「危険ドラッグと同じ効果」

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    ――アルコールもタバコも合法ですが様々な害があり、合法=無害ではありません。身体・社会への危険性に応じて、規制に濃淡をつけるのは難しいのでしょうか。

    作用部位がまったく違います。アルコールは何をもって有害性があると言っているのか。タバコはなぜ有害だと言っているのか。

    極論を言えば、全部規制したらいいですよ。ただ、いまアルコールやタバコという嗜好品があるにもかかわらず、なぜ危険性のある大麻をさらに嗜好品として認めなきゃいけないのか、という議論はありますよね。

    これは現場の捜査官が語ることではなく、法制度や精神医療、創薬の問題。マトリとしては、法律で規制されている以上は取り締まる、というのが仕事なんです。

    現場で体感してきたところから見れば、大麻は決して問題のないものではない。興奮系ではないので、なかなか目に見えないところがありますが。

    危険ドラッグ問題の時に、合成カンナビノイドをめぐって多くの事故がありましたが、まさに同じものなんです。

    大麻の幻覚成分は、デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)。これと合成カンナビノイドというのは、ほぼ効果が同じなんですよ。

    大麻ワックス、リキッドへの懸念

    時事通信

    大阪税関が押収した200本の大麻リキッド=2018年11月、大阪市港区

    ――混ぜ物が悪い影響を与えたわけではなく?

    入っていなくてもそうです。大麻の100倍、キツイものもあるわけですから。

    伝統的な薬物ではないから、1回の使用量もわからない。3グラム買ってきて、2〜3回で使ってしまう。すると、ああいう風な状況(社会問題化した暴走事故などの他害行為)になるんですね。

    いま、(大麻成分を濃縮した)大麻ワックスだとか、大麻リキッドだとかが出ています。間違ってああいう使い方をしたら、同じ状況になりますよ。

    THCとCBD

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    ――最近は日本でも、大麻の成分が入っていることを謳ったエナジードリンクなどが売られていますね。

    大麻にはTHCと、カンナビジオール(CBD)という成分があって、ごっちゃに議論されています。(市販されているドリンクは)CBDの方ですね。

    THCは幻覚成分ですが、CBDっていうのはまったく幻覚性がありませんから。

    ところが、危ないのがですね、マトリがCBD(製品)を買い取って分析すると、何%かTHCが混入しているものがあるんですよ。それが恣意的なのか、よくわからないですけどね。

    CBDは取締りの対象になりませんが、THCを入れたら取締りの対象ですよ。

    ――混ざっていたらアウト。

    ええ。日本では合成してませんから、ほとんど海外でやったものが日本に入ってきています。

    ヘンプ(麻)という言葉も使いますね。ヘンプジュース、ヘンプオイルとか。それによって非常にヘルシーなんだというような…。

    大麻クッキー

    時事通信

    横浜税関が押収した大麻成分入りのクッキー=2019年2月、東京都江東区の東京税関

    ――クッキーやチョコレートにしてみたり。

    クッキーやチョコレートは結構、厳しいのが出てますよ。昔は個人でつくってたんですけど、いまは米国に行くと生産されていますよね。

    ――現地では普通に売っている?

    普通に売ってますね。1枚食べると意識が飛んでしまうような。

    あるジャーナリストが取材に行って、出されたチョコレートを1枚食べた。その後、ホテルで強烈な幻覚を見て倒れて、救急車で運ばれたケースもあります。

    チョコやクッキー以外に、スープにもしますし。そういう実態、実像を伝えていかなきゃいけないですね。

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    瀬戸晴海さん

    瀬戸晴海〈せと・はるうみ〉 1956年生まれ。福岡県出身。明治薬科大学薬学部卒。1980年、厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを経て、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。2013年、2015年に人事院総裁賞を受賞、2018年3月退官。「Mr.マトリ」の異名を持つ。