「ダンディすぎるマトリ」本意じゃない 麻薬取締部元部長のパンチパーマ時代

    厚生労働省の元麻薬取締部部長、瀬戸晴海さんが著書『マトリ 厚労省麻薬取締官』を上梓。「カッコよすぎる」「俳優みたい」といったネット評に対して「本意じゃない」と胸中を明かした。

    「カッコよすぎる」「激シブ」「俳優みたい」――。

    ダンディすぎる風貌がネットで話題を呼んだ厚生労働省の元麻薬取締部部長、瀬戸晴海さんが、長年の捜査の軌跡をまとめた著書『マトリ 厚労省麻薬取締官』(新潮新書)を刊行した。

    「Mr.マトリ」の異名をとる瀬戸さんが、麻薬取締官を志した理由や蔓延する薬物犯罪への危機感を語った。

    テレビは出たくなかった

    ――2014年、関東信越厚生局麻薬取締部部長としてNHKに出演した際の画像がネットで拡散され、「渋すぎる」と話題になりました。

    まったく見てないです。仕事以外でインターネットを見ることはありませんし。

    そういう話を職員から聞いたことはありますけども、そんなこと意識してたら仕事ができません。

    自分の顔がネットに出てるということ自体が極めて不思議ですし、容認できないですね。

    ――そこは容認しましょうよ。

    長い間勤めていたといえども、いち捜査官ですから。

    あのころは危険ドラッグの関係で、多くの情報を国民全般に周知するという責務がありました。出たくはなかったんですけども、致し方がないと。

    帯の写真も本意じゃない

    ――やはり捜査上、顔が割れてしまうのは嫌ですか。

    そうです。現役時代はそうそう顔なんか出せませんでした。

    ――そういう注目のされ方は本意ではない?

    本意じゃないですね。(著書の帯を指差しながら)だからこの写真も、あんまり本意じゃないです。

    ――でも、この写真を見て「あっ、あの人だ」と買う人もいるのでは。

    こういう風に取材を受けること自体が、まさに想定外ですね。書いておしまい、と思ってたんですけど。

    パンチパーマとロン毛の理由

    ――身だしなみであったり、清潔感であったり、見た目で気を配っていることはありますか。

    ないですね。

    若いころは現場へ行く時にパンチパーマにしてました。1980年代は暴力団真っ盛りの時代だったので、その方が馴染めるわけですよ。

    あるいはサイケデリック系の世界で仕事をする時はロン毛にしたり。

    ――ロン毛時代もあったんですね!

    ええ、ありましたね。いまの若い子にはそこまで求められないんですけど、我々のころはそうやって個人で情報を仕入れて来なければ仕事ができなかったんです。潜在犯ですからね。

    銭湯に通って刺青を勉強

    ――捜査のために地道に努力をされて。ヤクザの刺青の紋様を覚えようと、夜ごと銭湯に通ったこともあったとか。

    捜査現場で仕事をしていくのに、どうしても暴力団、ヤクザというものも対峙しなければなりません。多くの情報が必要です。

    80年代当時は風呂なしのアパートも多かったので、銭湯に行って一緒に入ってるだけでもいろんな刺青を見ることができました。

    ひとまわり上の世代だと唐獅子牡丹。ほかにも昇り竜だとか般若だとか。自分の目で見て、体感して覚えていくわけです。

    米国ドラマに憧れて

    ――マトリを志した理由は。

    よく聞かれるんですけども、いつも迎合するように答えてきたんです。面倒くさいから(笑)

    この場ではこういう話の方がいいのかな、とか。ところがですね、自分でもよくわからないんですよ。

    おそらく幼少期からおぼろげに、こういった仕事に就くんだろうなと、思い込んでいた気がしますね。

    昭和30年代の生まれですが、子どものころテレビで見たのは大体、アメリカのドラマでした。あるいはスパイものの映画だとか。そういうもののなかから、憧れが生まれてきたのかもしれません。

    人を狂わせる魔力

    ――大学は薬学部に進まれて。

    薬学部で学んでいる間に、アヘンのことを学んですごく驚きました。

    ケシの実を傷つけて採取した汁液が、モルヒネにもなれば、ヘロインにもなる。医療のために絶対的な必要なものである一方、人に多幸感や陶酔感をもたらしもする。

    ただの一年草が、なぜこんなにも人を狂わせるのか。そこから、麻薬への意識が芽生えてきたんです。

    その時初めて、麻薬取締官は厚生省(当時)だと知りました。ずっと警察の仕事だと思ってましたから。

    なんで厚生省なのか、入ってからわかりましたね。やっぱり麻薬っていうのは本来、医療行為に使うものなので。

    薬物対策の4本柱

    ――2018年に定年退職されました。やり残した課題はありますか。

    まだまだ課題は山積しています。

    捜査権限の問題もあれば、捜査員の育成もある。海外機関との連携も重要です。まだまだ改革をして、組織も増強しなければなりません。

    1. 薬物犯罪の取り締まり
    2. 正規流通する(医療用)麻薬の監視
    3. 薬物に関する普及啓発
    4. 再乱用の防止と依存対策


    この4本が一体となって薬物対策になるんです。

    近年、4年連続で覚醒剤が1トン以上押収されています。驚異的なことです。マトリ含めて警察、税関、海上保安庁の4機関、オールジャパン体制の成果でもあります。

    さらに、海外機関とも実効性のある連携がとれてきました。法律は違う、制度も違う。しかし、連携へ向けた仕組みが生まれています。それをさらに、進めていかなければいけません。

    ――ところで、タバコを吸われるんですね。

    ああ、これはネオシーダーといって、タバコではなく薬なんですけど。ちょっと喉を痛めまして。それでもタバコをやめられなくて、依存症で。

    ――いいんですか、それは。

    タバコは好きです(笑)

    瀬戸晴海〈せと・はるうみ〉 1956年生まれ。福岡県出身。明治薬科大学薬学部卒。1980年、厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを経て、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。2013年、2015年に人事院総裁賞を受賞、2018年3月退官。「Mr.マトリ」の異名を持つ。