10年前のM-1は「テクノ頂上決戦」だった YMO大好き芸人が語る裏側

    ナイツ塙宣之が明かす「YMO漫才」の創作秘話

    YMOが結成40周年を迎え、アルファレコード期のアルバムがアナログ盤やハイレゾ音源などで蘇る。

    ファーストアルバムの「イエロー・マジック・オーケストラ」をはじめ、第1弾となる3作品が11月28日に再発売されたのに合わせ、大ファンだというナイツの塙宣之がYMO漫才を発表。あふれるYMO愛を語った。

    C-C-Bと言い間違い

    ――YMOとC-C-Bを言い間違えたり、敬愛するYMOを漫才でいじり倒してましたが、遠慮はなかったですか。

    いや、むしろ尊敬しているからこそ、思いっきりできるというか。嫌いだと気が引けちゃうし、ウソっぽくなる。野球ネタや相撲ネタと一緒で、好きだからつくれるんです。

    だから、浅草の師匠とかをネタにするのは、ちょっと気が引けますね。尊敬してないのにネタにしちゃってるんで、たまに心が苦しくなります。

    ――いやいや(笑)漫才にするにあたって難しかった部分は?

    曲名を間違えるのが非常に難しくて。YMOって「君に、胸キュン。」とか、そもそもがちょっとふざけたようなタイトルなんですよ。

    ――最初からおかしみが宿っている。

    そう、おかしみが宿ってるんですよね。おかしくないことをおかしくする方が、漫才はつくりやすいんですけど。

    「ライディーン」にしたって、元は「雷電」ですから。こちらが間違える前から、すでにもじっている。そこの難しさはありました。

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    Sony Music (Japan) / Via youtu.be

    ナイツのYMO漫才

    細野さんとライブで共演

    ――実際にメンバーとお会いしたことは。

    TBSの「オー!!マイ神様!!」という番組で、僕の神様として細野晴臣さんを紹介した時に、「インソムニア」の出囃子をつくっていただいたんですよ。

    すごく嬉しくて、お礼に細野さんの漫才をつくって送ったんです。そうしたら細野さんがめちゃくちゃ喜んでくださって。去年、中野サンプラザのライブに呼んでいただきました。

    そこで漫才をやらせてもらって、最後に「恋は桃色」を細野さんと一緒に歌って…。夢みたいな感じ。あれは自分のなかでピークでしたね。

    YMOは笑いの「間」もすごい

    ――NHK BSの正月特番「細野晴臣イエローマジックショー2」でも共演されるそうですが。

    細野さんと3人で漫才をやらせてもらってるんですよ。YMOのお三方は、お笑いの「間」がうまい。すごいなと思います。

    要するに「ウケようがスベろうが関係ない」っていう間なんです。あんまり反応を気にしない。それって一番強くて。いちいち動揺しないというか…。すごくおかしくて、感心しちゃいましたね。

    本当に「インソムニア」に

    ――中学生のころからのYMOファンだそうですね。

    最初は電気グルーヴさんのラジオ経由で知って。どうもYMOがルーツにあるらしいと。それでCDを買って聴いたのがキッカケだったと思います。

    初めて聴いた時は衝撃でしたね。ファミコンが好きだったこともあって、テクノのピコピコ系の音に惹かれたんです。

    「インソムニア」のCDをいつも夜中に聴いて、本当に不眠症(インソムニア)になっちゃうっていう。

    当時は意味も知らなかったですけど、辞書引いて調べたりして、英語の成績も上がりましたよ。模試で1位になったこともありますし。スピードラーニングみたいな感じじゃないですか。

    結婚式で「ライディーン」

    ――思わぬ学習効果。YMOの結成は塙さんの生まれた1978年ですから、ライブには行けていないですよね。

    全然です。1993年の東京ドームの時(再結成ライブ)も佐賀の高校生でしたし。でも、お金ためてCDのボックスセットを買ったりはしてました。

    1万円ぐらいしたんですけど、一番上の兄に盗まれちゃって。東京の大学に行く時に持って行っちゃったんです。ひどいんですよ、マジで超腹立つ。実は長男もYMO大好きで。

    ――そんなほろ苦さもありつつ、大人になってからも聴き続けて。結婚式でも「ライディーン」をかけたそうですね。運動会ではよく聴きますが、結婚式はなかなか…。

    ティーリーリー♪って新郎新婦2人して出てきて。奥さんは全然好きじゃないんですけど。東京ドームホテルでジャビット君の人形もあって、好きなものづくしで結婚式やりました。

    YMOにはツッコミがいない

    ――お笑いに関してもYMOの影響ってありますか?

    YMOってツッコミがいないんですよ。「スネークマンショー」(「増殖」でコラボした、コントユニット)もそうなんですけど。

    ずっとボケ続けて、第三者が「何やってんだよ」となるようにつくってある。要するに聴いてる人がツッコミになればいいんですね。

    僕らの笑いは、延々とボケ続ける僕に対して、土屋が延々とツッコミを入れる。すると、聴いてる人が「どんだけボケてんだよ、アイツ」となる。これってYMOの手法なんです。

    土屋は小ボケにはツッコミを入れているけど、あくまでも僕の世界観のなかでの話で、大元の構造に対してはツッコミませんから。

    リズムが大事

    ――ヤホーのネタはボケの数が尋常じゃなく多いですよね。

    ヤホーのやつはそういうシステムで、ボケてツッコんで、ボケてツッコんでを繰り返している。言ってしまえば曲と一緒なんで。

    途中で急にテンションが下がったり、下ネタが入ったりするのは、細野さんが入れてくるリズムのハネとか転調みたいな。

    やっぱりリズムの心地よさって大事。自分がYMOみたいなリズムのいい曲で育ってきたので、リズムの悪いものはやりたくないんです。

    無機質な機械になろう

    ――漫才の方向性を模索していた時期に、YMOがヒントになったとか。

    2006〜2007年ぐらいですかね。

    細野さんがどこかで「音を楽しむ」とおっしゃっていて。俺らの漫才って音として楽しくないな、気持ちよくするためにはどうしたらいいかな、と色々考えました。

    で、テクノが好きだから機械のイメージにしたんですよ。自分自身が無機質な機械になろうと。人間的な部分を出さないで、ずっと言い間違いを続けるマシン。それが多分、ヤホー漫才の始まりですね。

    10年やってるとだんだん飽きられちゃうんで、最近は人間的な部分も出すようにしてますけど、当時はそういう人があまりいなかったから意外にハマったんでしょうね。

    実はオードリーはちょっと近くて。春日(俊彰)は機械的な動きをするじゃないですか。

    オードリー春日もYMO好き

    ――アンドロイドみたいな。

    アンドロイドと一緒なんですよ。「トゥース!」「なんとかだな」って、アンドロイドと人間で漫才してる。春日はもろテクノカットですし。

    春日に聞いたら、アイツ生粋のYMOのファンなんですよ。だから、2008年のM-1は僕のなかでは「テクノ頂上決戦」でした。

    オードリーが準優勝で、僕らは3位。僕らはテクノカットまでできなかったから、オードリーに勝てなかった(笑)

    でも結局、優勝はNON STYLE。ポップミュージックに負けちゃったんですけどね。

    好きな音楽とネタは似る

    ――実はテクノ対決だったんですね。

    裏でテクノ対決してたんですよ。誰もわかってなかったんですけど。

    芸人でいうと、ジョイマンもYMO好きですよ。

    ――「ナナナナ~」も、まさにリズムネタですし。

    好きな音楽とネタってやっぱりちょっと似るところがある。バイきんぐの小峠(英二)さんなんか、BLANKEY JET CITYとかロックが好きですし。

    気持ちが高ぶるぜ

    ――若いリスナーにオススメしたいYMOの楽曲は。

    「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」に入っている「アブソリュート・エゴ・ダンス」とか、気持ちが高ぶるぜ、みたいな。

    やっぱり「音を楽しむ」って書いて音楽なんで、歌詞がなくても全然気持ちいいよっていうのは伝えたいですね。

    歌詞が邪魔になる時ってあるんですよ。洋楽で歌詞のわからない曲聴くんだったら、こういう曲を聴いてテンション上げるのもいいんじゃないかなと。

    想像力を身につけるためには、説明があまりない方がいい。YMOはそこがすごくて、歌詞もメッセージもイマイチよくわからない。ただ、聴くと絶対、気持ちよくなるようにつくってあるんです。

    YMO貯金が糧に

    ――YMOは今年で40周年を迎えます。

    YMOの3人が、いまの音楽シーンの原形をつくってますからね。

    本当に、中学高校でYMOをいっぱい聴いた「YMO貯金」を使ってるだけの人生なので。YMOのリズムが染み付いてますし、漫才師としても糧になってますね。

    今回、再発売されるのは「イエロー・マジック・オーケストラ」「イエロー・マジック・オーケストラ〈US版〉」「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」の3作品。

    ボブ・ラディックがリマスタリングし、アナログ盤のカッティングをバーニー・グランドマンが手がける。ナイツのYMO漫才は、YMO結成40周年オフィシャル・サイトで見ることができる。