「こんなことやってる場合か?」香取慎吾の葛藤、コロナ禍で得た“気づき”

    香取慎吾が2枚目のソロアルバム『東京SNG』をリリースした。美空ひばり『東京タワー』を小西康陽が編曲、「新しい学校のリーダーズ」と一緒に歌う異色コラボも注目を集めている。コロナ禍やウクライナでの戦争など暗いニュースが続くなか、改めてエンターテインメントの意義を見つめ直したという香取が、職業観や人生観を率直に語った。

    泰然自若、行雲流水、天衣無縫。香取慎吾にはそんな言葉がよく似合う。

    最新アルバム『東京SNG』の取材のため、撮影場所に姿を現した彼の足取りはダンスステップのように軽やかだった。絶えず鼻歌を口ずさむ様は、生粋のエンターテイナー。抑えきれないオーラが、周囲にまであふれ出しているかのようだ。

    そんな香取も、コロナ禍やウクライナでの戦争など暗いニュースが続くなかで、自らの職業やエンタメの意味を改めて考えさせられたという。

    音楽の持つ力、ファンとのつながり、年輪を重ねて見えてきたもの……。香取が語る、「香取慎吾」の現在地。

    コロナ、戦争…抱いた仕事への葛藤

    ――「東京を明るくする」というのが、『東京SNG』のコンセプトの一つです。コロナだったり戦争だったり、なかなか明るくなれない話題も多いですが、香取さんが考える「音楽の力」について伺えますか。

    音楽もそうですし、自分の仕事について考えますよね、やっぱり。

    コロナ禍が始まった時もそうでしたけど、そこから自然災害や大きな地震があったり、戦争が起きたり……。本当に自分の仕事のことを考えさせられる1年、2年でした。

    「今、TikTok始めていいのか?」「こんなことやってる場合なのかな」とか、本当にすごく考えるけど、そこで「何かが違う」っていう判断を僕がするなら、僕の仕事全部できない。

    歌も音楽もドラマも映画もエンターテインメントだし、今だとSNSもそう。皆さんの生活の中で、ちょっとどこか違う時間を過ごせる。そのための職業なんじゃないか?

    こんなことが起きている今でも、僕が歌うことによって、お芝居することによって、ちょっとでも上を向くことができる人がいるのではないか……と最近は思っています。

    「最初の何カ月はダメでした」

    ――お仕事について、改めて顧みる機会になったのですね。

    コロナ禍の始まり、最初の何カ月はダメでした。

    ソロのファーストアルバム『20200101(ニワニワワイワイ)』をひっさげて、さいたまスーパーアリーナで1日限りのライブをやろうと。セットの図面を引いたりしてたくらいだったんで。

    それがなくなるってなった3月、4月ごろは、ちょっとダメでしたね。SNSもできないし、「そんな場合じゃないな」とか。

    じゃあこの時間って何なんだろう? 自分の仕事って何なんだろう? 前も、上も、どこも向けない感じだった。

    ――そこから出口を見つけられたキッカケはあったのでしょうか。

    Twitterかな。最初につぶやいてみた時に、「慎吾ちゃん元気してた? 私はこんなことがあって、もうステイホームでつらいよ」とか「こないだ仕事で……」とか、コメントがブワーってきたんです。

    それを読んだ時に、すごい元気づけられて。つぶやきなんだけど、もう会話ですよね。本当につながれるものなんだな、と思いました。

    人生ポイントためていこう

    ――収録曲の『Happy BBB(feat.田島貴男〈Original Love〉)』では、「歳をとるっていいことあんの? 鏡見てため息つく」と歌っていますが、香取さんが歳をとってよかった、と思うことがあれば教えてください。

    やっぱり、経験値が増えていくことかな。成功も失敗もいろんな経験が増えてくると、何か急な対応が必要な時にも、引き出しにありますよね。それはいいことかな。

    若い時って、それを持ってないから。

    ――では、年輪を重ねていくことに関して、マイナスな感情は……。

    まったくないです。この歌のなかで「人生ポイント」っていう言葉を使っているんですけど、ポイントって増えると、いろんなものがもらえますよね。

    人生ポイントが増えてくると、いわゆる大人みたいな遊びができるようになる。若い頃とは違うお酒の飲み方とか、行くあてもなくドライブをするとか。

    ――めっちゃ大人だ。

    そういうことを、やっていった方がいいと思う。

    20代より30代、30代より40代はあえてやらないと。いつまでも若いままでいるよりは、そういうことをやる方が「おー、大人だぜ」みたいな。

    ――人生ポイントは、そうやって面白いことをした時に貯まっていくと。失敗したり、やらかしたりした時はどうなんでしょう?

    両方じゃないですかね。さっきの経験値の話ともつながるのかもしれないです。

    痺れるコラボ

    ――「今、人生ポイント貯まったな」って考えられると、失敗もそこまで怖くないですね。今回のアルバムでは、美空ひばりさんの『東京タワー』をカバーしていますが、編曲の小西康陽さんとはどんなやりとりがあったのでしょうか。

    『東京タワー』の編曲は小西さんしかいない、と思って。もともと好きだった美空ひばりさんの曲を、ずっと前からいろんな刺激をもらっている、小西さんという大きな才能がやってくださる。

    小西さんへの説明の場で、気になっているアーティストとして「新しい学校のリーダーズ」を挙げました。

    「小西さん、実はこんな子たちがいるんです。一緒に歌いたいんですけど……」

    「いいと思います。ぜひ」

    「マジっすか!?」

    みたいな。もう痺れますよね。

    ――『東京タワー』を「新しい学校のリーダーズ」と歌うアイデアは、小西さんじゃなくて香取さんが仕掛けたんですね。香取Pの本領発揮だ。

    もう楽しいですね!

    ミュージックビデオもリーダーズと一緒に撮ったんだけど、小西さんに1カットだけ出てほしいって頼んで。

    「本当に1カットでいいんでしたら」って、結構離れたロケ場所まで来てくれて。1カットだけ小西さん(笑)

    ――贅沢すぎる。

    そうなんです。

    2022年の道しるべ

    ――アルバムを締めくくる最後の曲は『道しるべ』。香取さんの今後の「道しるべ」は?

    セカンドアルバムの『東京SNG』って、すごく大きいもので。ファーストアルバムだけだと、「ちょっと1人で出してみた」で終わっちゃってもおかしくない。

    でも、この2枚目を出すことによって、もうずっとやっていくと思うんですよ。

    応援してくれる皆さんと一緒に、SNSや新しいお仕事も含めていろんな経験をしてきましたけど、2022年の香取慎吾はこのアルバムと共に突き進むことが決定した感じです。

    香取慎吾(かとり・しんご) 1977年1月31日生まれ。神奈川県出身。2017年、稲垣吾郎、草彅剛とともに、公式ファンサイト「新しい地図」を立ち上げ。2020年、ファーストソロアルバム『20200101(ニワニワワイワイ)』を発売。今年4月13日、セカンドアルバム『東京SNG』を出した。4月16日から5月6日まで東京・明治座で「香取慎吾 二〇二二年 四月特別公演 東京SNG」を開く。稲垣、草彅とNHKの教育バラエティー『ワルイコあつまれ』に出演中。3月に公式TikTokアカウントを開設するなど、SNSでも活発に発信している。

    衣装:YOHJI YAMAMOTO /ヨウジヤマモト