【全文】「映画館の閉館は望んでいない」 JASRACが報道陣に語ったこと

    記者説明会での質疑応答のすべて

    音楽教室の次は映画館――日本音楽著作権協会(JASRAC)は映画音楽の上映使用料を引き上げ、劇場に対して支払いを求めていく方針を明らかにした。11月8日の記者会見に先立って10月25日に開かれた報道陣向けの説明会では、単館系映画館の経営への影響や、チケット値上げの可能性、海外からの要求などに関する質問が相次いだ。説明会でのやりとりの全文は下記の通り。

    《JASRACの大橋健三常務理事》

    11月8日の記者会見では、世界各国の著作権団体、並びに映画音楽をメインに作曲されておられる創作者の皆さまからメッセージをいただき、映画音楽にかかる使用料の適正な対価の還元をメッセージとして訴えさせいただく予定になっております。

    著作権法上の映画上映の定義は、著作物を映写幕その他に映写することを言います。あわせて映画の著作物に固定されている音楽を再生することを含むものとする、というのが著作権法上の定義でございます。

    したがいましてアジア、それから日本が問題にしております映画上映使用料といいますのは、映画に収録されている音楽の再生に伴う使用料のことでございます。

    11月6〜8日までの間にAPMA(アジア・太平洋音楽創作者連盟)やCIAM(国際音楽創作者評議会)の総会で本件についての問題が提起されます。

    そもそもアジア地域では、上映使用料について、徴収以前の問題で管理ができていない国々がたくさんある。そのなかで音楽というものが映画を構成するうえで重要な要素を満たしております。

    音楽の創作者に対して適正な対価の還元がされていないのではないか、されるべきである、といったことについて取り上げていただく予定になっております。

    「どんなにヒットしても18万円」

    アジアのことはともかくとして、これから先は日本の現状の話です。

    外国映画については1作品あたり定額の18万円です。どんなにヒットした映画作品もそうでないものも、外国映画については18万円というのが実情であります。

    18万円という金額そのものの設定は、1964年、いまから50数年前に使用料規定を制定して以来、抜本的な変更をしていません。というよりも残念ながらできていません。

    資料に「内外格差」と書いてありますけれども、日本の映画上映使用料は映画興行収入に比べて極端に低い。なかでもとりわけ外国映画の使用料が、世界との比較で極めて低廉であると。

    「国際間の格差を是正」

    JASRACとしての喫緊の課題は、外国映画について興行収入ベースに応じた使用料に改めて国際間の格差を是正することです。

    売れる映画はたくさんの入場者とたくさんの上映回数を稼ぎますので、おのずと映画に収録されている音楽の利用頻度も高くなる。

    利用頻度にかかわりなく18万円といったものを、基本的には興行収入ベースにする。そのために全興連(全国興行生活衛生同業組合連合会 ※映画館の団体)と協議しています。

    来年度には、映画上映使用料について、何とかいま申し上げたような興行収入をベースとした規定に改めて、まずは外国映画における日本と海外との使用料の著しい差異の解消に努めたいと思っております。

    《JASRACの江見浩一複製部長》

    現状の国際比較ですが、JASRACの使用料徴収額は2014年度の数字で1億6600万円ぐらい。それに対してイギリス、フランス、イタリア、ドイツでは桁違いの金額です。

    2014年の興行収入は2000億円程度なのですが、それに占めるJASRACの徴収額の割合というのは0.08%に過ぎないというようなレベルになっています。

    外国映画の使用料18万円の根拠ですが、使用料規定のなかには18万円という金額はございません。規定では全興連さんとの契約で定める、というふうになっておりまして、全興連さんとの契約で18万円という金額が決まっているという状況です。

    劇場経営者から徴収へ

    ポイントとしまして、興行収入の規模を反映するような規定にする必要があるということで使用料規定の変更予定をしているというところが1点目。

    それからいまは、配給事業者さんが主にお支払いをいただいておりますが、これを劇場の経営者さんにお支払いいただくような枠組みに変更するような必要があるのではないか、ということ。

    これらについて利用者の団体さんである全興連さんと協議を進めさせていただくとともに、関連の団体から意見を聞く、という説明をさせていただいているところでございます。

    《質疑応答》

    朝日新聞:使用料引き上げの直接の受益者は外国映画の作曲家や作詞家。JASRACの徴収額は増えるだろうが、日本文化にとってどういう意味があるのか。

    江見:外国映画がもちろん中心ですけれども、興行収入を反映するという意味では、日本映画もベースとしては同じものを持っている。

    日本映画のシステムがこのままでいいと思っているわけではありませんで、変更は必要だろうというふうに思っています。

    それに加えて、ご承知の通り外国映画であっても日本の作曲家の方が提供する場合が実際にございます。そういうケースにおいて、作曲家からも上映使用料について問題点の指摘を受けているというような状況です。

    NHK:18万円というのは、1964年の制定以来、物価上昇などを無視してずっとそのままなのか。18万円という数字の根拠は。

    江見:現状においては18万円ですが、最初は4万円あるいは5万円という金額で、その後何度か話し合いをしていまの金額になっているということです。

    だから根拠についてはお話し合いで決まっているとしか、いまの段階では申し上げられないです。

    全興連とは6年間協議

    NHK:団体と協議中ということだが、いまのところ向こう側はどういう意見を主張しているのか

    江見:いま名前があがっている全興連さんとは、6年間協議を継続している状況です。

    様々な意見が出されていますが、最近は我々の方の考え方に対して、全興連さん側としては「いままでの状況との乖離が激しい」「何とかもう少し受け入れやすい案にならないだろうか」というようなことをおっしゃっている状況です。

    我々としてはできるだけお話し合いで解決を図るということで、何とか歩み寄れるところを模索しているというのが現状になります。

    コードプラス:日本映画の1曲あたりで通常の音楽著作権の徴収形態に近い。上映使用料を支払うのは、日本映画の場合も劇場なのか。

    江見:支払い者につきましては、資料に記載させていただいております。日本の映画については配給会社となっています。ただ、注釈の通り、日本映画の場合は製作者が支払う場合もあります。

    もともと日本で製作しますので、上映だけでなくその前の録音も著作権の処理が必要になります。製作者の方が録音の処理に合わせて上映の処理をいただくという場合が多いですし、それがもっぱらになっています。

    一方の外国映画に関しては、外国に買い付けに行って配給の契約をされて、日本に持ち込んで配給をされる、ということになります。

    製作が外国で行われますので、諸外国で録音の処理が済んだものを持ってくるという事情があります。そういう映画に関しては、上映の処理だけがあるということで、そこに製作の方は絡んでいません。

    配給の方が、日本の劇場に配給をされるということで動いているので、配給事業者の方にお支払いをいただいている、という違いがありますね。

    興行収入の1〜2%目指す

    コードプラス:JASRACは外国作品についてどういう方向を目指しているのか。

    大橋:使用料の額については、国際比較でも興行収入ベースでおおむね1〜2%になりますので、興行収入の1〜2%の比率でお支払いいただくことを目指します。

    もうひとつ、外国映画の上映使用料を払うべき利用主体は本来は映画館です。

    第一義的には映画館がお支払いいただくべきであるとJASRACは考えておりますけれども、いまのところ日本国内においては映画館自体が独自にJASRACと許諾契約を結んで使用料をお支払いいただくケースは極めて稀です。

    外国映画について申し上げれば、全興連がJASRACにお支払いをいただいている。つまり映画館の団体がJASRACにお支払いをいただいてますけれども、実際の支払いは外国映画を買い付けて配給をしている配給事業者という、極めて特殊な管理の特異性があります。

    JASRACとしましては基本的には全興連さんを通じて、映画館自体がお支払いいただくべき対象ではないか、ということで並行してお話をしている。

    各劇場との利用許諾契約の促進ということで、映画上映の主体者である劇場を支払者とした枠組みを全興連さん通じながら…

    コードプラス:だが現実には、東宝など製作者でもある会社が劇場を経営している。

    江見:おっしゃる通りで、東宝さんが出資されている会社が劇場経営されているケースもあると思いますが、全国600館の映画館があり、出資している会社もいろいろです。

    いろんな形の映画館ございますので、すべてがおっしゃるような映画館ではありません。

    「上映主体は劇場」

    コードプラス:全興連のなかでは「なんで外国映画の使用料を自分たちが払わなくてはいけないんだ」という意見がある。その辺りの理解がまったく進んでいないのでは。

    江見:その点、我々は繰り返し協議等でお話をしておりまして、外国の事情ですとか、あるいは法的にどのように整理されるのかというところを、一つひとつひもといてお話を差し上げています。

    諸外国では劇場さんが実際に支払いをしている。また法律的にも上映主体は劇場さんだということを、繰り返し説明をさせていただいています。

    ただ、現状において皆さんがそこに納得されているかというと、なかなか理解が進まないということは承知をしております。ですので、そういう方々にもわかっていただく意味で、こういう席を設けさせていただきました。

    コードプラス:この件で何らかの「東京宣言」のようなものが出されるのか。

    大橋: 11月8日の記者会見におきましては、世界の創作者だけではなく日本の創作者のメッセージも何かあると思います。現状の使用料があまりにもじゃないですかと。適切な対価を求めますと。

    またアジアの多くの国々は使用料の多寡以前に、対価の還元そのものができていない。

    そういった現状の国々もありますので、それも含めてCIAM、APMAの総会における決議、東京宣言としてその旨を記者会見で発表させていきたいと思っております。

    ミニシアターへの影響は

    BuzzFeed:資金力のないミニシアターや単館系映画館の経営に影響するのではないか。音楽教室の時以上の反発も予想されるが。

    大橋:音楽教室とは全然違う案件だと思いますけどね。あちらはそもそも演奏権の権利が及ばない、払わない、ということを主張して法廷闘争をやっているわけですから。

    曲がりなりにも映画業界におきましては、適切な対価とは言い難いものの、これまで上映使用料はお支払いいただいているわけです。

    したがって先ほど海外団体並みの興行収入の1〜2%を目指します、と申し上げましたけれども、「目指します」であって、「何が何でもやります」ということではないかと思います。

    著作者にとっては極めて不本意な額ではございますけれども、現実に18万円という支払いが続いてきました以上は、創作者が目指すべき金額を両立するために、実態・実情を見ながらやっていく。

    段階的にステップを置きながら、一つひとつの階段をのぼっていただきたい。そういう協議をさせていただくことになろうかと思います。

    ご承知の通り、(著作権等)管理事業法はどこまでいっても上限でございます。その範囲のなかで実態を踏まえて様々な協議を行ったうえで、利用者の皆さまとの着地点を段階的に目指していきたいということです。

    日本のユーザーからすると…

    ITmedia:外国映画の音楽が日本で安く使えるのであれば、ユーザーとしては万々歳なのでは。

    江見:ユーザーが万々歳ではないかという話に関してですが、これは長期的な視点を考えていく必要があると思います。

    日本において大きな興行収入を上げているものについて、その映画に楽曲を提供している作家さんに大きな分配がいかない状況が何を生むのかということ。

    「ほかの国で使用料を受けているんだから、それでいいじゃないか。それで映画ができるじゃないか」という考え方でいくのか。

    使用料に見合った対価はきちんと還元して、次の作品の提供につなげていこう、というふうに考えるのか。

    そこは考え方ですので、「安い方がいいじゃないか」という議論に関しては、これ以上のコメントはありません。

    日本映画も興収との連動目指す

    ITmedia:日本映画の方も変える方針ということだが、具体的にどこが問題でどう変えていくのか。

    江見:日本の映画については、最終的には興行収入にリンクする形での規定が望ましいと思っています。

    いまはスクリーン数に応じたものになっていますが、一番問題なのは、一度使用料をお支払いいただいた場合には、基本的にはその後お支払いをいただく機会がないということです。

    現状では、たとえばロングランになって長期間映画が上映される場合、あるいはリバイバルで上映が終わったんだけれども数年後あるいは数十年後に、もう一度上映されたという時に、上映使用料が追加で発生しない仕組みになっております。

    我々としてはまず次の行き先として、そういう点の改善を団体さんに申し入れているところでございます。

    ITmedia:そのように変更すると、日本映画の方の使用料も当然増える。

    江見:いま支払いの機会が一度だけということになっておりますので、たとえばリバイバルで数年後にかかります、というところで新たに使用料をお支払いいただくことになれば、その分は新たな使用料の発生ということになるかと思います。

    JASRACの収入はどれぐらい増えるのか

    毎日新聞:外国映画について制度を変えた場合、劇場にとってどれだけの負担になるのか。また、JASRACの収入はどれぐらい増えるのか。数字を具体的に知りたい。

    大橋:2016年の映画興行収入が全体で2355億円ぐらい(※映画製作者連盟調べ)。これ単純計算ですよ。それで1%ならいくらになるかということですよね。

    ただそれは全体ですから、1映画館あたりということではないですし、外国映画と日本映画がありますから(※映連のまとめでは、2016年の興収の内訳は邦画が1486億円、洋画は869億円)。

    日本映画については、先ほどから申し上げている通り、一般的に映画製作者が映画録音と合わせて上映使用料も元栓で処理している現状がありますので。

    江見:いま業界の方々とお話をしていると、「50年かけてやってきた規定なんだから、50年かけて変えればいいじゃないか」というようなお話も出ている状況。我々としては、そこまではかけられませんけれども、いずれにしても段階的にということを考えています。

    最終的な到達点が1%、2%ということは、もちろんこちらも目標としてみていますけれども、これはお話し合いでどういう階段を刻むかという話。

    いまの時点でJASRACが第1段階としていくらの徴収をしたいか、ということを具体的に計算をしているということありません。

    業界の団体さんからお話を伺って、それをどこに設定するかということをまさにお話し合いで決定しようとしていますので、具体的にじゃあいくらなのか、というのはお話しづらい状況です。

    「映画には音楽が欠かせない」

    産経新聞:国際比較ではイギリス、フランス、イタリア、ドイツの数字が出ているが、アジア諸国との比較がないのでは。アジアも含めて一律に1〜2%にすることを目指しているのか。

    大橋:アジア地域についてはCIAM、APMAの総会で取り上げられますけれども、先ほどから申し上げております通り、使用料の多寡以前に対価を得られていない国々が多くあるという事ですので、レベルがかなり違います。

    その辺については、創作者の声を大きくし、またその地域の著作権管理団体がしっかりと縦横の連携を組みながら進めていくことになります。

    産経新聞:東京宣言の後にまた全興連と話を進めていくということだが、宣言は拘束力を持つのか。

    大橋:事業者団体とJASRACとの協議において、東京宣言をやったからといって、法的な拘束力が生じるものではありません。

    ただ、やはり映画産業というのは製作者なり配給事業者がいて、映画館があり、そして映画を楽しむユーザーの方がいらっしゃる。そういう状況のなかで、世界の多くの国々の映画音楽の創作者の声が上がってますよと。

    我々が感動した映画を思い起こすとき、映画のシーンと一緒に音楽っていうのは必ず一体化してよみがえってくるんじゃないかと思うんです。映画には音楽という要素が欠かせない。

    その欠かせない要素を創作している、世界の多くの創作者が「18万円はちょっとひどいんじゃないの」という声を上げていただくことで、我々が映画事業者の団体の皆さま方と協議するにあたって、先方さんの方で理解を少しでも得るための力になると。

    極めて綺麗事な物言いで申し訳ないんですけれど。そうは言いながらもJASRACはどこまでいっても創作者団体ですから、創作者が声を上げている以上はそれをバックに、利用されてお支払いをいただくべき方との間で協議していく。そのための礎になると考えております。

    街の映画館や名画座はどうなる?

    共同通信:地方の映画館がどんどん消えて、名画座も苦しい状況。使用料引き上げに伴う街の映画館への影響をどう考えるのか。一般のユーザーからすると、チケット代が高くなるんじゃないかと心配。

    江見:単館の映画館が厳しいということは、我々もよく承知をしております。音楽というコンテンツのことですけれども、我々としてはぜひ使っていただきたい。我々だけではなく、作家の具体的な声でもあります。

    「著作権料の負担で閉めなきゃいけなくなりました」「やめなきゃいけなくなりました」ということは、我々も権利者もまったく望んでいないことです。

    そうはいっても、我々としては必要な使用料についてお願いをしたいという面もあり、相反する部分があることは承知をしております。

    業界の方々の実情をしっかりとお聞きして、現実的にどういう金額にさせていただくのが望ましいのか探らせていただく。合意させていただく、という形になるのかなと思っています。

    共同通信:いままで名画座からはお金をとっていなかったということか。そこに新たに負担が生じることになるのか教えてほしい。

    江見:名画座というか、劇場の方には直接お支払いをいただいていない状況です。

    配給事業者や製作者の方にお支払いをいただいているということですが、名画座は基本的にリバイバルすることになると思いますので、リバイバル分に関しては使用料をいただいてない状況です。

    チケット代は上がるのか

    共同通信:入場料に上乗せされる可能性ありますか?

    江見:いま現状でお支払いをいただいているのは配給事業者さん。我々は直接劇場さんと契約をさせていただきたいということを業界の方々にお願いしています。

    ただ、そういう形をとったとしても、その前に配給事業者さんが処理をしたものがあれば、もちろん劇場さんにお支払いをいただく必要は無いわけです。

    そういう意味では、契約をする場合でもそれに代わって配給事業者さんが支払いをされるということになれば、劇場さんとしては直接は負担が生じない、ということはありえると思います。

    仮に劇場さんに負担をお願いする場合でも、具体的に上映料に上乗せされるかどうかということについて、我々は何か申し上げることはありません。いまの段階では何とも申し上げられません。

    朝日新聞:ベルヌ条約に上映権は定められているのか。

    江見:14条に映画化権と上映権がうたわれております。

    朝日新聞:アメリカでは上映権の使用料はとっていないのか。上映権が認められてないという理解でいいのか。

    江見:上映権はアメリカに関しても発生しております。その処理自体を団体が扱っていない、というところが特徴だと思います。

    著作者あるいは著作者の権利を預かる会社などが代理して許諾をしている、というふうに承知をしています。

    管理楽曲を使わない映画は

    朝日新聞:JASRACの管理楽曲が使われていない映画もある。まとめて徴集した場合の扱いはどうなるのか。

    江見:ご指摘の通り、ドキュメンタリーなどで管理楽曲を使わない映画はたくさんあるというふうに理解しています。我々としては、その音楽の利用料を評価したうえで料金を算定できるような使用料規定の案を考えています。

    楽曲が利用されない場合には使用料はかかりませんし、利用される量によって使用料が違う。規定上はそういう形を取ろうと考えています。

    朝日新聞:サンプリング調査で分配するのか。

    大橋:サンプリングではないです。いまは日本映画の場合、映画録音と上映権使用料は元栓で頂戴するわけですので、曲単位で分配をしています。

    外国映画については遺憾ながらJASRAC管理の著作物も多いわけですけれども、たくさん使われている映画もそうでない映画も一律18万円になっちゃってるわけです。これが問題なんです。

    ここに、音楽著作物が総上映時間に占める割合を評価しようじゃないかっていうのが、提案の考え方のなかにひとつ入っています

    18万円の分配はどうしているんだというので、誤解があるといけないのであえて申し上げますけれども、ざっくり分配してるわけではありません。

    当該映画のキューシート(作品のタイムテーブル)に基づいて、映画に収録されている楽曲の利用の頻度や時間で測って、その割合に応じて18万円を分配しているということです。

    今後はそれを18万円ではなくて興行収入ベースにしたうえで、音楽の利用割合や頻度なども反映して、使用料の徴収をしたいというふうに考えております。

    権利処理の実情

    朝日新聞:作曲家と映画の製作者との間で買取契約を結ぶことはありえるのか。

    江見:買取というと正確ではなくて、著作権自体が移転してしまうわけじゃないんですけれども、書き下ろしの作品の場合、いったん著作権使用料をお支払いすると、その分の録音使用料・上映使用料を徴収しないという枠組みがすでにございます。

    作家さんが映画に楽曲を書かれて、その分の届け出をJASRACにいただく際に、そういう作品であるということをお知らせいただいて、それに基づいて録音使用料・上映使用料を徴収しない、というような枠組みが実際に動いております。

    映画に関しては書き下ろしが非常に多いですから、録音・上映とも使用料をいただかない形の映画が多いです。

    ただ一方で、そうではない既成の楽曲に関しては曲ごとに使用料を算出して、それぞれの使用料を製作者または配給会社にお支払いをいただく。そういう実情です。

    朝日新聞:まるごと興行収入の何%ということになると、契約の違いによって混乱しないか。

    江見:ですから、たとえば一定の 1〜2%を設定した後に、まず音楽がどの程度映画のなかで使われているのかをみたうえで、さらにそのなかでJASRACの楽曲数がどれぐらいかという割合を出して、それをかけていくという形で使用料を算出するということです。

    朝日新聞:1曲あたりの録音使用料をもとにせずに、あくまでも全体を分母にしたいという考え方なのか。

    江見:最終的な着地点はまだ申し上げられませんけども、いま我々が団体さんに申し上げているのは、録音使用料というのはもともと録音の処理があるというのが前提で、録音の処理がない外国映画にどこまでやるのかという問題があります。

    ですので、そのことも含めて基本的には興行収入ベースで算出したものを、いろんな減額の仕組みを用意して、最終的に導かれた金額をお支払いいただくという形を想定して申し入れているという状況です。

    欧米の団体から強く要請

    BuzzFeed:上映使用料をめぐって、先ほど都倉俊一APMA会長(JASRAC特別顧問)から「世界からバッシングを受けている」という話があった。海外の団体から要請・要望があったのか。

    大橋:もう10年以上前から海外の団体、特に欧州・アメリカの団体からは強〜く言われています。そのためだけに外国団体のトップが来て、JASRACに対して「何とかせい」「自分たちも応援する」と。そういった点では、我々も待ったなしだというふうに思っております。

    BuzzFeed:利用料の見直しが行われた場合、分配が増えて得をするのは欧米が中心になりそうなのか。

    大橋:いや、だからその質問は先ほどとダブってますけれども、外国映画ですから外国作品が多いわけで、外国の音楽創作者が多いんでしょうけれども、必ずしも外国作家だけではなくて、たとえば坂本龍一さんだとか日本の作家でも外国映画で音楽作品を提供している方はいらっしゃいますし。

    ご承知の通り、音楽というのは音楽出版社というプロモートする事業者、日本のサブ・パブリッシャーはあくまで日本のメンバーですから、こういった方々についても使用料の扱いが変われば、それ相応の対価のプラスαの還元はあると考えられます。

    いずれにしても、1本あたり18万円という金額が果たして適正かどうか。音楽の創作者に対して、これでもって新たな創作を生み出せと。いや、そうはいかんでしょうと。

    きょうの記者会見のねらいは、そこをなんとかしなきゃいけないということがメインですから、カラオケスナックでカツカツで商売をやってる方々から、18万円を何百万円にしようという話ではありません。

    大きな映画産業、まあ個々の映画館を見れば大中小様々あるでしょうけれども、興行的にヒットしようがしまいが、音楽作品がどれだけ使われようといまいと、1作品あたり18万円。これは昭和60年から変わっていない。

    これはやはり、なんらかの手当てが必要。そのためにCIAM、APMAの総会において、大きなメッセージを出しましょうということです。

    日本の利益は?

    BuzzFeed:いまの18万円の段階でもすでに分配をしているわけで、利用料が引き上げられた場合に1番多く利益を受けられるのはどこの国の団体なのかわかるのでは。

    江見:その話は要するに、外国映画のなかで興行収入が多い映画はどの国のものなのか、ということに近いかと思います。映画に関しては、やはりハリウッド映画が非常に多い。

    日本にはハリウッドメジャー6社が映画を提供してると思いますが、そこに作品を提供している作家さん、これはアメリカだけではありません。イギリス人もフランス人もイタリア人も、もちろん日本人もいるという状況です。

    ハリウッド映画に使われている音楽の著作者が所属する国にそれが帰属するのかな、というふうに思います、ただ、そのなかに日本も入ってはいます。

    BuzzFeed:「50年はかけない」ということだったが、具体的に何年をめどに変えていくつもりなのか。

    大橋:それは相手のあることですのでハッキリとはございませんが、ただこれだけは言えますね。50年はかけません(※冒頭で「来年度には」と発言)。

    訴訟沙汰は「ありえない」

    朝日新聞:完全に平行線になった場合、訴訟ということになるのか。

    大橋:それは違うんじゃないですかね。使用料の取り扱いについての問題ですから、管理事業法上での協議なり、裁定なりということがあるかもしれないですけれども、演奏権が及ぶか及ばないかで争っているヤマハさんやカワイさんとは状況が全然違いますので。

    朝日新聞:究極的には、上映権を根拠に上映の禁止や差し止めをすることも法的にはできるのか。

    大橋:法律的な論理でいえばありえますよね

    朝日新聞:そういうことはあまりしたくないと。

    大橋:あまりしたくないというか、ありえないだろうと思っています。長年お付き合いをさせていただいている映画の業界の方々に対して、無許諾だから使用の差し止めをするというような事態は到底想定はできません。

    「いま始まった話ではない」

    日経新聞:10年ぐらい前から海外から強く言われていたということだが、これまで全興連に引き上げの打診はしていなかったのか。

    江見:先ほど申し上げました通り、全興連とは6年間協議をさせていただいておりますので、少なくとも6年前からは具体的に話をしています。

    先ほど何度か値上げになって最終的に18万円になったということを申し上げたんですけども、その度ごとに申し上げてきています。

    もう少し言ってしまうと、昭和30年代の記録を見ても当時からJASRACとしては劇場さんに直接お支払いただきたいんだ、ということは相当話をしております。

    そういう状況でありますので、いま始まった話ではありませんで、少なくとも6年は具体的な協議をしてますし、その前にも問題意識については伝えています。それは外国の権利者がこう言っている、ということも含めて伝えているという状況です。

    BuzzFeed JapanNews