山下達郎を愛しすぎた男が「エンタの神様」に出演するまで

    「U. S. A.」を山下達郎風にカバーする「シティポップ芸人」が語る

    「U. S. A.」「紅」など、ヒット曲の山下達郎風カバーで話題を呼ぶ「シティポップ芸人」のポセイドン・石川が、メジャーデビューを果たした。

    「リンゴ追分」「め組のひと」「あんたがたどこさ」を配信限定でリリース。「エンタの神様」や「行列のできる法律相談所」をはじめ、年末年始も人気番組に引っ張りだこだ。

    数ヶ月前までラーメン屋でアルバイトをしていたというポセイドンが、突然のブレイクに困惑しつつも、意外な音楽的ルーツを語ってくれた。

    「U. S. A.」が150万回再生

    ――8月にTwitter投稿したDA PUMP「U. S. A.」のカバー(※原曲ジョー・イエロー)は150万回以上再生され、大きな話題を呼びました。

    地元の金沢のラーメン屋でバイトしていたんですが、出勤前にツイートして。休憩するフリをして携帯を見たら、3千件ぐらい「いいね」がついていて、うわー!やべー!と。

    バイトが終わるころには1万件近くになってましたね(12月22日現在、2万2千リツイート、5万いいねを超える)。

    DA PUMPの「U.S.A.」を山下達郎さん風にカバーしました。 何故か「和」テイスト、。

    MVはiPhoneで即興撮影

    ――「U. S. A.」なのにミュージックビデオはなぜか和テイストだし、山下達郎さん風だし、星条旗持って盆踊りしてるし…ワケがわからなすぎて最高でした。

    MVは完全なる即興です。幼馴なじみの友達に、全編iPhoneで撮ってもらいました。パソコンは一切使ってません。

    「U. S. A.」だから、とりあえず国旗だろうと思ってAmazonで星条旗を買って。100円ショップに行ったら星条旗のワッペンがついた帽子が売っていたので、それもはがして持っていって。

    あとはとにかく現場で考えながら、偶然に任せて撮りましたね。

    結婚式で「CAN YOU CELEBRATE?」

    ――達郎さん風の歌唱法は以前から試していたそうですね。

    達郎さんの音楽は以前から大好きだったので、ライブの時にオリジナル曲を達郎さん風に歌ったりしていたんです。

    昨年、達郎さんオマージュの「東京SHOWER」というアルバムをつくって。そこから、ニットキャップに長髪、青シャツといういまの格好を始めました。

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    ポセイドン・石川 / Via youtu.be

    ポセイドン・石川「東京SHOWER」ミュージックビデオ

    ――「東京SHOWER」はポセイドンさんのオリジナルですが、達郎さん風のカバーを始めたのは?

    東京のバンド仲間が結婚することになって、披露宴の余興で「達郎さん風に何か縁起のいい曲をやってほしい」と頼まれたんです。彼も達郎さんが大好きで。

    安室奈美恵さんの「CAN YOU CELEBRATE?」を歌ったらウケて、それから調子に乗って、「紅」とかの曲も次々にTwitterにアップし始めました。

    先日、Citypop好きカップルの披露宴の余興でCan you celebrateを山下達郎さん風のモノマネで歌った所、大喜びしていたので自宅で再現しました。 本人なら多分こんな風に歌うと思う、。笑 #山下達郎 #安室奈美恵

    達郎さんが絶対やらない曲を

    ――どういう基準で選曲しているんでしょうか。

    達郎さんが絶対やらない曲をやろうと。そうするとギャップも出ますし。

    あとはやっぱり、流行りも大切ですね。だから、「U. S. A.」以上のヒットが早く出ないかなと思ってるんですけど。

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    ポセイドン・石川 / Via youtu.be

    ポセイドン・石川「紅」ミュージックビデオ

    ――人任せ(笑) 今回連続リリースする「リンゴ追分」(11月28日)、「め組のひと」(12 月12日)、「あんたがたどこさ」(19日)、「紅」(26日)も、美空ひばり、ラッツ&スター、童謡、X JAPANとバラエティーに富んでいます。

    耳なじみのある曲で、意外性があって面白そうなものをピックアップしました。

    「リンゴ追分」は僕がつくったデモに対して、アレンジャーの方たちにいろんな「遊び」を加えていただいて。達郎さん感はありつつも、いままでにないポセイドン・石川色を自然と出せたのではないかと。

    「め組のひと」はレコーディング前日の夕方に急遽決まって。そこから覚えて、次の日すぐにレコーディングしました。

    「あんたがたどこさ」は、テレビ局の方から「童謡でやってほしい」という依頼をいただいたのがキッカケ。竹内まりやさんの「プラスティック・ラブ」風の進行がハマりました。

    宝石のような歌詞

    ――モノマネって一歩間違えると対象への揶揄や毒がにじんでしまうものですが、ポセイドンさんの達郎さん風カバーには愛がありますね。

    達郎さんの音楽は、テンション・ノートとか複雑なジャズの和音が多用されています。僕自身ジャズをやってたこともあって、カッコイイなあと自然に惹かれました。

    和音に加えて魅力的なのが歌詞の世界ですね。言葉ひとつひとつが宝石のようで、絵本を広げているみたいな感覚になります。

    芸術一家に生まれて

    ――ポセイドンさんの音楽的なバックグラウンドを教えてください。

    芸術一家というか、祖父が彫刻家で。父は花屋なんですけど、シャンソンを歌っていたりして。母も昔はクラシックギターを弾いていたそうです。

    子どものころはシャンソンも聴けば、郷ひろみさんとかの歌謡曲も聴いてました。

    中学ぐらいからは洋楽一辺倒。ビートルズに始まり、エルトン・ジョン、ビリー・ジョエル、プリンスとか…影響を受けたアーティストはたくさんいすぎますね。

    高校からはジャズも聴きだして。オスカー・ピーターソン、キース・ジャレット、ビル・エヴァンスと、有名どころは全部押さえてました。

    ――聴くだけでなく、演奏し始めたのは。

    ビートルズの「ホワイトアルバム」に「マーサ・マイ・ディア」という曲があって。冒頭、ポール・マッカートニーのピアノ伴奏から始まるんですけど、それを耳コピしたのが最初ですね。

    ずっと一人でやってまして、ライブとかを始めたのは、大学を卒業して金沢から京都へ移った後です。

    絵画で日展に入選

    ――大学では何を専攻していたのですか。

    金沢の大学で日本画の勉強をしていました。音楽と並行して絵もやってまして。ミュージシャンをモチーフに絵を描いたりしてました。

    (マネージャー)日展に入選したこともあるんです。

    これは、父をモデルにした絵ですね。

    京都修行で挫折

    ――すごい! ということは日本画家を目指されていたんですね。

    そうですね。日本画の画壇は東京と京都にあって、大学でお世話になった先生が京都画壇の大家だったので、勧められて京都へ修行に行きました。

    音楽は趣味で本業は絵…のはずだったんですけど、絵の方は途中で挫折というかドロップアウトしてしまったんです。

    先生のレベルが違いすぎて、いつになったらこの境地にたどり着けるんだろうと。壁を感じて、愕然としました。

    仮に大きな賞をとったとしても、絵だけで食べていくのは相当難しい、という事情もありました。

    岡崎体育と同じイベントに

    ――結局、京都にはどれぐらいいたのですか。

    12年間いましたね。22歳から33歳まで過ごしました。

    絵の道は京都に移って2、3年で断念していたのですが、もともと絵の勉強のために行ったので、帰るに帰れなくなったというか。京都の街が好きだったっていうのもありますし。

    「祇園SILVER WINGS」というライブハウスでアングラなアーティストばかりを集めた「クズ祭り」っていう濃いイベントがあって、岡崎体育さん同じ回に出たこともありましたね。多分、岡崎さんは覚えていないと思いますが…。

    達郎さんを聴くようになったのも、京都時代からです。

    3ヶ月前までラーメン屋

    ――長い下積みを経て、突然のブレイク。いまの心境は。

    当然うれしいんですけど、突然すぎて、まだどこか気持ちがフワフワしているというか。3ヶ月前までラーメン屋でバイトしていたので、まだ気持ちの整理がついてなくて。

    これまで金沢を拠点に活動していたのですが、最近は月の7、8割が東京という感じで。

    いただいている期待に応えられるように頑張りたいなと、少しずつ決意を固めているところですね。

    ――いつか、達郎さんに会えたらいいですね。

    いやいや、恐れ多すぎて…。もしお会いできたとしても、何を話していいものか、言葉に詰まってしまうと思います。怒られているところしか想像がつかないです。

    オリジナル作品にも意欲

    ――今後の抱負は。

    まだこの業界に入って本当に間もないので、ひとつひとつのお仕事を誠実にやることに全力を尽くしたいです。

    カバーシリーズが一段落したら、オリジナルもやってみたいですね。

    もともとジャズピアノをやっていたので、インストゥルメンタルもいいですし。ジャズっぽいネチっとした歌い方も試してみたい。そういうのを全部トータルして、コンセプトアルバムにまとめられたら。

    当然、そのなかには達郎さんへのオマージュも入ってくると思うんですけど

    〈ポセイドン・石川〉 1982年、石川県生まれ。大学の芸術学部を卒業後、2005年に「Session」で日展に入選。「U. S. A.」の山下達郎風カバーがTwitterで150万回以上再生されたことを機に、音楽活動を本格化。配信シングル「リンゴ追分」で日本コロムビアからメジャーデビューした。12月22日に「エンタの神様」、23日には「行列のできる法律相談所」(いずれも日本テレビ系)に出演するなど、バラエティー番組を席巻している。