「悪魔の召喚にはお客さんがいないと」HYDEが語るコロナ禍とエンタメ

    L’Arc~en~CielやVAMPSのボーカリストであり、ソロアーティストとしても活躍するHYDEが、ライブ映像作品『HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL』を出す。コロナ禍でライブやイベントの中止を余儀なくされたHYDEが、ファンへの思いや今後のエンタメの展望を語った。

    HYDEが7月29日、昨年の幕張メッセでのライブを収めた映像作品『HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL』を出す。

    新型コロナウイルスの感染拡大によって、2〜3月に予定されていたL’Arc~en~Cielのアリーナツアーや、HYDEのファンクラブイベントは中止を余儀なくされた。

    一方で、ファンがTwitter上で自発的に始めたエアライブ 「#エアMMXX」「#エアSMH」や、「#ラルクが29歳だからTLに虹をかけよう」というハッシュタグのトレンド1位獲得など、希望を感じさせる出来事もあった。

    コロナ禍でエンタメはどう変わり、変わらないものは何なのか? HYDEにインタビューした。

    ショックを乗り越えて

    ――コロナによって、ライブやイベントが中止になってしまいました。やはり、喪失感は大きかったですか。

    そうですね。自分のソロだけじゃなくてラルクもそうだし、いろんなものを計画していたのに中止になってしまいました。

    僕らアーティストって、サプライズだったり、いかにファンの子を喜ばすかっていう職業だと思うから。けっこう面白い企画を考えてたんだけど、全部流れちゃった。それはショックでしたね。

    ただ、悪いことばかりでもなくて。空いた時間で先に音源制作を進められるから、アルバムはちょっと早く出せそうです。

    この先いいスタートが切れるし、余裕を持って作品をつくれる分、クオリティーも上がるだろうし。そういう意味では、プラスに考えようと思ってます。ファンの子に会えなくなったのは寂しいけど。

    ファン発企画に本人降臨

    どうもありがとう! みんな最高☆ 感動しました。 この後は一緒に打ち上げしましょう! #エアMMXX

    ――2、3月のラルクの公演が中止になってしまった際、ファンたちがTwitterで「#エアMMXX」のハッシュタグをつけて、あたかも本当にライブが開かれているかのような投稿をして盛り上がっていましたね。HYDEさんご本人も降臨されて。

    そうそう。ファンのみんなが、ライブがあったであろう日に、Twitterで「もう物販並んでます」とか勝手に想像して遊び始めて。

    「なんかかわいいな。これは僕も参加しない手はないな」と思ってツイートしたら、すごい盛り上がっちゃって。

    あれは、すごい結束感がありましたね。何だろう…昔でいう『電車男』みたいな(笑)

    ウェブ上だけで、みんなとつながる。会ったこともない人たちと、感情を共有して、ひとつのドラマができあがる。ファンの子がつくった企画だけど、いい出来事だったな。

    「TLに虹をかけよう」

    来年もこの花火を君と観たいな。 #エアSMH

    ――ラルクが初ライブをした記念日である5月30日にも、ファンたちが「#ラルクが29歳だからTLに虹をかけよう」のハッシュタグで祝福のメッセージを書きこんで、Twitterトレンドの1位になりました。

    こんな時だからっていうのもあるだろうけどね。普通にライブをやってる時だったら、多分ここまで盛り上がらなかったんじゃないかな。

    こういうタイミングだからこそ、光、希望を感じたいっていう。ファンとのつながりを感じたし、みんなの気持ちが伝わってきて良かったな。

    貴重なオフショットも

    ――『HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL』は初回特典のドキュメンタリー映像も面白かったです。ライブで観客をガンガン煽りまくるHYDEさんと、米国ツアーの合間にピザをつまむ柔和な表情とギャップがあって。

    自分ではそれが普通やから、何が変なのかわからないけど…。

    ――いや、全然変じゃないんですけど、HYDEさんって常に完璧で隙のないイメージだったので…。少し無防備な表情も垣間見られて、ファンは嬉しいのではないかと。スタッフの誕生日を祝って歌うシーンとか、和気あいあいとしていましたし。

    女の子のファンはね、そういう普段の姿が見たいっていう人、多いかもしれないですね。

    ジキルとHYDE

    ――それがライブとなると、ビシッとスイッチが入る。

    ライブは真逆ですね。悪魔を召喚してるような感じ。もうイタコですよ。僕は多分、悪魔の霊を召喚しないと、自分のやりたい理想的なライブができない。

    ――「ジキルとハイド」ではないですが、内なる二面性を抱えている?

    二重どころか、多重です(笑)

    ――新型コロナの自粛生活はどんな風に過ごしていたのでしょうか。

    4月の頭にアメリカから戻ってきて、それからずっと籠もってます。

    曲づくりは相変わらず進めていて。秋口ぐらいにやる予定だった作曲作業を全部前倒しして、自宅でやってますね。

    本来ならライブのリハーサルとかをやらないといけなかったけど、そういうのも全部なくなっちゃったから。

    無観客ライブをどう見るか

    ――『ANTI FINAL』のライブ映像を見ていて、ものすごい熱気だし、密だし。「ああ、少し前までこれが普通だったんだよな」と少し感傷的になってしまいました。HYDEさんは今後のエンタメ、ライブの行方をどう見ていますか。

    何かが閉鎖されたら、ほかの部分が広がるというかね。何かできなくなったら、何か広がる。

    ウェブでやるような配信ライブだったり、無観客ライブだったり。そういうのも盛り上がるとは思います。けど、まだ僕が介入するようなものじゃないなと考えていて。

    リアルタイムでCGとかがミックスされて、ライブ以上のことができるようになってくると、ちょっと話は変わってきますけど。

    でも、まだテレビの歌番組っぽい感じで、ライブとは違うなっていうか。僕がやりたい世界じゃないなとは思っちゃいます。

    もちろん、企画として面白そうだなと思えば、参加させてもらいますけどね。自分のワンマンライブを無観客でやるとかっていうのは、ちょっと違うかなと思ってます。

    だから今はそっちに力を入れるよりも、コロナが収束した時にスタートダッシュを切れるような体制をつくる方が自分らしいかなと。

    やっぱりライブはお客さんがいないと、悪魔召喚できない。

    「カッケー」をもっと

    ――イタコとしては。

    イタコとしてはね。ひょっとしたらウェブを使ったものが、今後もっとすごいことになっていく可能性もあるけど、まだその域までいってないから。

    「興味を持てない」なんて言えるうちが華なのかな。そういうことすら何もできないような事態になったら、何かするかもしれないし。

    今はまだやることが山ほどあるし、音楽つくって、収束した時に「もっとカッケーことしてやろう」っていう方にトキメキを感じますね。

    〈HYDE〉 L’Arc~en~Ciel/VAMPSのボーカリストであり、ソロアーティスト

    1994年のメジャーデビュー以降、数々のヒット曲を発表。ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンや国立競技場で大規模なライブを成功させるなど、ワールドワイドに活躍している。

    2001年からソロ活動をスタート。2019年、ソロ名義としては13年ぶりとなるオリジナル・アルバム『ANTI』を発売。同作を掲げた全国ツアーを敢行した。

    2020年7月29日(水)に、ツアー最終日の幕張メッセ公演(2019 年 12 月 8 日)を収めたライブDVD / Blu-ray『HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL』をリリースする。