春は出会いと別れの季節。
「3月」だけに焦点を当て、30年にわたるラブストーリーを描いた映画『弥生、三月 -君を愛した30年-』(遊川和彦監督)でヒロインの弥生を演じた波瑠に、「人生を変えた出会い」や「思わず泣いてしまう瞬間」を聞いた。
涙はなくても

――親友のサクラを亡くした後の高校の卒業式、夫の告別式と、波瑠さんの涙を見せない「悲しみ」の表現が印象に残りました。
やっぱり弥生の中には、「力強く前を向いて生きていこう」という強さがあるんだと思います。卒業式で泣けば、本当にサクラとの別れ、サクラがいた時間との別れになってしまう。
さらにサクラをいじめていた子たちが泣いているのを見て、弥生は「彼女たちと一緒にはなりたくない」と思う。それは絶対に嫌だと。
だから私は私の悲しみ方で、きちんとサクラや学校とお別れしよう――。そういう気持ちでしたね。

夫の告別式の場面ではもう、人間的な部分を喪失してしまっているのかなと、私は思っていて。
親友の死だとか、好きだった相手の結婚だとかを自分なりに乗り越えて幸せになった。それなのに、「この人を大事にしよう」と向き合い続けた人と、また死別してしまう。
これはかなり堪えるし、ものすごく絶望すると思うんです。自分は人を不幸にしてしまうんじゃないか、という絶望のどん底。
きっとそういう時って泣くこともできないんじゃないかな、と思いながらやっていました。
言葉が遠くに

――波瑠さん自身は、どんな時に泣きたくなりますか。
私はどうですかね…。でも、泣かないわけじゃないです。やり場のない気持ちを抱えた場合は、涙が出ることももちろんあります。
自分ができなかった悔しさとか。悔しいと思ってる自分が恥ずかしくて、泣けたりもしますし(笑)
あと私の場合、悲しいのは誤解をされてしまうこと。あんまり愛想がいいタイプではないので。
思ってる以上に、自分の言葉が思いがけない形で人の中に残ってしまったり、遠くに行ってしまったり。
この仕事にはつきものだと思うんですけど、「ああ、そういう風に理解されてしまうのか」と落胆したり。そんな風にがっかりした時に、なんか泣けてきたりはしますね。
たたずまいの説得力

――春は出会いの季節ということで、波瑠さんの「人生を変えた出会い」を教えてください。
様々な出会いのなかでも、私がご一緒できてよかったとすごく思うのは、中井貴一さんですね。
とても厳しいですけど、とても温かくて包容力のある方。すごく気さくで、いろんなことを話してくださって。
中井さんってお芝居、演技力はもちろんですけど、「たたずまいの説得力」がすごいんです。初めてご一緒した映画の時に、こんなことを教えていただきました。
自分の役やセリフをこんな風にやろう、あんな風に言おうと「人に見せるもの」「人に見られるもの」としてやってはダメ。
本当にそこに立った時に、どんな空気が流れているのか。自分はどういう動きをして、相手がどんな動きをして…ということに、ちゃんと感覚を向けないといけない。
でないと、「どんな風に芝居をしよう」というところまでも至ってないよって。それこそが「たたずまい」だと思うんですけど。
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映画『弥生、三月 -君を愛した30年-』予告
――作為よりも呼吸が大事だと。
呼吸っていうのは、すごく言われて。その感覚が、いろんなものを引き算していくきっかけになったし、自信にもなりました。
今ここでこういう感覚でいるから、何かやらなくても立っていられる、とか。小細工をしなくていいんだと、すごく勇気づけられたアドバイスでしたね。
30年という時間の重み

――『弥生、三月』の特に好きなところは。
私がこの映画で面白いな、いいなと思ったのは、弥生と相手役の太郎(成田凌)が歳を重ねていくなかで、ずっと同じ人間でいるのではなくて、キャラクターが変わっていくところです。
何かの影響を受けたり、いろんなところでつまずいたり。「自分はこういう人間だ」と思っていても、そうじゃいられない時もある。そんな時でも、手を差し伸べてくれる人がいて…。
そうやって変わりながら、同じ景色を繰り返し見て、時には違って見えたりだとか。人間ってそういう経験を重ねていくんだなって。
30年ってそれだけの時間があると思うんですよ。ただの人間ドラマではなくて、そこに愛情、恋愛を盛り込んでつくられているのが、この映画のすごく好きなところですね。
〈波瑠〉 1991年6月17日生まれ。東京都出身。2006年、ドラマ『対岸の彼女』(WOWOW)でデビュー。翌年からファッション誌『Seventeen』で専属モデルを務める。主な出演映画に『マリア様がみてる』『がじまる食堂の恋』『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』など。2015年にはNHKの連続テレビ小説『あさが来た』に主演した。