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名前入りゲームソフトを持ち主に返したい

感動の再会を求める「名前入りカセット博物館」の館長に話を聞いた

名前の書かれたゲームソフトを持ち主に返したい――。そんな思いでカセットの収集に取り組む人がいる。

「名前入りカセット博物館」の館長、関純治さん(45)だ。

普通のコレクターなら「ジャンク品」として避けて通るはずの名前入りソフトを千本以上も集め、そのうち800本の情報をネットに公開している。

一風変わった活動に込められた思いとは。BuzzFeedは関さんに話を聞いた。

【写真】名前入りファミコンカセットが懐かしすぎて目から汗が止まらない

キッカケは「リンクの冒険」

関さんの本業は、スマホ向けゲームなどを開発する「ハッピーミール株式会社」の社長。子どものころからファミコンが大好きで、1991年ごろからソフトを買い集め始めた。

当初は発売されている全タイトルのコンプリートを目指していたが、すでに達成している人がいることを知り、コレクションへの情熱が急速に冷めていくのを感じていた。

再び意欲を取り戻す転機となったのが、2003年10月に米サンディエゴのゲーム店で見つけた、NES(海外版ファミコン)の「リンクの冒険」だった。

金色に輝くソフトを裏返すと、「Teresa」と持ち主と思しき名前が書かれていた。美品を求めるコレクターにとっては本来、邪魔でしかないものだ。

「買うのはやめよう」と脇に置きかけて、ふと気づいた。

「アメリカ人も名前を書くのか!」

カセットの裏に名前を書くのは、日本人だけの感覚だと思い込んでいた。

「これって世界共通なんだ。いままで避けてきたけど、名前入りの方がむしろレアなんじゃないか」

その瞬間、コレクションの新たな方向性が決まった。

残留思念を味わい尽くす

名前入りカセットの醍醐味は、「残留思念」を味わい、空想をめぐらせることにある。

「これなんか、持ち主はきっとひょうきんなヤツですよ。活発で、クラスの人気者だったんじゃないかな」

そういって関さんが取り出したのが「新人類」のソフトだ。

大きなシールが何枚も貼ってあり、タイトルが読めなくなってしまったものだから、裏側に自分の文字で「新人類だよ」と書いてある。

だったら、最初からタイトル隠すなよ! と言いたくなる、ツッコミどころ満載な一品だ。

あまり女子受けしないゲームに、なぜか女の子の名前が書かれている、なんてことも。

「もしかするとお兄ちゃんに『面白いぞ』ってだまされたのかもしれない。当時、ファミコンソフトを手に入れられる機会と言ったら、誕生日とクリスマス、あとはお年玉ぐらい。でも兄妹がいればその枠を2倍にできますからね」

妄想の答えあわせ

そんな風に思いを馳せるうち、関さんのなかで妄想の「答えあわせ」をしたい気持ちが膨らんでいった。

「1泊200円」と書かれた「ファミリースタジアム」。裏側には「トヨダ」の文字がある。トヨダ君はかなりのしっかりものに違いない。

「ファミスタは当時人気だったから、すぐに元がとれたでしょう。本人に話を聞きたいなあ」

「アスレチックワールド」と「JJ」には、よく似た筆跡で「こばやしあきひろ」の署名。

前者には「S62.3.12バースデイプレゼント」、後者には「昭和63 クリスマス」の文字が確認できる。幸せな家族の肖像が目に浮かぶようで、胸の奥が熱くなってくる。

「バースデイプレゼントなんて書かれてたら、返したくなるじゃないですか」

そうして2016年1月、ソフトの持ち主を探す「名前入りカセット博物館」としての活動をスタートさせた。

収集したカセットのタイトル、メーカー、発売日、持ち主の名前などの情報をまとめ、写真を添えてサイトにアップ。各項目で検索もできるよう、データベースを整えた。

3つのルール

返却にあたっては、以下の3つのルールを設けている。

  1. カセットは手渡しでお戻しさせてください。
  2. カセットはあなたの思いの額で買い取ってください。
  3. カセットにまつわるお話をサイトに公開させてください。


郵送でなく手渡しにこだわるのは、一緒にゲームで遊びながら、思い出話を聞いてみたいからだ。

金銭目的の活動ではないので、「思いの額」は1円からで構わない。カセットへの思いの熱量を図る指標のひとつとして、この条件を盛り込んだという。

ヒント満載でも基本は「待ち」

カセットのなかには、名前ばかりか住所や電話番号までわかっているものもある。といって、いきなり押しかければ迷惑になりかねない。

「そんなことしたら、不審者として通報されちゃいますよ」と関さんは笑う。

SNSで同姓同名の人を見つけて教えてくれる人もいるが、原則的に本人か知人以外からの情報提供は受け付けていない。

元の持ち主が不要になって売ったのだとすれば、返却を望んでいない可能性も十分ある。だから、基本姿勢はあくまで「待ち」だ。

「『返してほしい』という気持ちがある人に、直接返したい。『懐かしいです、ありがとう!』と涙を流してくれるようなシーンを見たいんです」

「『借りパク』などで、手放すつもりがないのにカセットを失ってしまった人のもとへ返せたら理想ですね」

「ドラポケモン」の奇跡

慎重姿勢もあってか、実はいままで返却に至ったことはない。ただ、おしいところまでいったケースはある。

今年4月、ネット番組でNINTENDO64の「ポケモンスタジアム金銀」について取り上げたところ、放送中に持ち主だと名乗る香川県の学生から連絡があったのだ。

ソフト上部には、サインペンで記された「ドラポケモン」の文字。

「ドラえもん」と書きかけて間違いに気づいたのか、「ドラ」の部分を上から訂正したような線の跡も見える。

番組終了後、学生からより詳細な情報が届いた。

《弟がひらがなやカタカナが書けるようになった頃に自分でペンを取り出しゲームカセットの上に書いたそうです。 放送終了後、関さんが所持している「ドラポケモン」の画像を弟に見せますと「俺が書いた、間違いない」 とのことでした》

当初は弟と遊んでいたものの、だんだんと飽きてホコリをかぶるようになったドラポケモン。

3年ほど前、大学進学にともなって一人暮らしを始める際に、NINTENDO64本体やほかのソフトともども、近所のリサイクルショップに引き取ってもらったたそうだ。

《燃えないゴミとして捨ててしまうのはどうしてもできませんでした。捨てるぐらいならば他の誰かの手に渡った方が私としてもゲーム達に対する罪悪感のようなものも薄れるものでした》

《まさかその時に手放したドラポケモンが遠く離れた場所で他の人の手に渡っていたのには私自身も驚きではあります》

実際に持ち主の特定まで至った初めての事例だったが、すでにNINTENDO64本体が手元にないこともあり、返却に関しては辞退したいということだった。

「心当たりあれば連絡を」

残念ながらソフトを持ち主に返すことはかなわなかったが、関さんは今後も地道に活動を続けていくつもりだ。

1000本以上のコレクションのうち、情報を登録し、ネット公開できたものはまだ800本にとどまる。

まったくの手弁当なため、なかなかライブラリーを充実させられないのが目下の悩みだという。

「情報の登録はなかなかしんどい作業ですが、もし手伝ってくれる方がいたら大歓迎です」と話す関さん。最後にこう呼びかけた。

「自分のものがないか、サイトで確認してほしい。もし心当たりのある作品を見つけたら、ぜひご連絡ください。持ち主がわからない名前入りカセットの寄贈も受け付けています」

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なにが「遊び」なのかは、人それぞれ。ゲームをしたり、写真を撮ったり、どこかへ出かけたり。つまらないと感じることでも、ある人の視点を通すと、楽しくなって、それが「遊び」に変化することもある。「遊び」には、限界がないのです。BuzzFeed Japanは、人それぞれの「遊び」を紹介し、平成最後の夏を思いきり楽しむ!