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「選挙免許制でポピュリズム防げ」 呉智英が危惧する民主主義の暴走

封建主義者かく語りき

誰もが投票できる普通選挙は危険? 「封建主義者」を自称する評論家の呉智英さんは、ポピュリズムを防ぐ手立てとして、投票のために試験を課す「選挙免許制」を提唱しています。暴論ともとられかねない主張の理由を聞きました。

全員無免許でいいのか

――選挙免許制はさすがに極論なのでは。

自動車の運転や危険物取扱、ボイラーとか、危険の伴う作業には免許が必要です。国家の運営を誤った場合の危険度は、自動車どころじゃない。

仮に戦争になれば、交通事故よりずっと多くの死者が出る。それなのに全員無免許でいいのか、という話ですよ。

三権でみても、司法は司法試験、行政なら公務員試験がある。議院内閣制では立法府の役割が大きいのに、無試験なのは変だろうと。

――人気投票になってしまうのは危険だと。

危ないでしょうね。常にポピュリズム選挙になってしまいますから。

イケメンだとか、キレイだとかいう理由で議員が選ばれる。各政党に広告代理店がついて、「髪型はこうした方がいい」だの「服装の色を明るくしよう」だのレクチャーするわけでしょう。

しかし、それはどういう政治をするかとはまったく関係ないですよね。

例えばの話、オーストラリアとオーストリアの違いも知らずに、外務大臣になるかもしれない人を選んでしまうとか。最低限の見識を欠いたまま、皆に同じように票が与えられるのはおかしいんじゃないか、という疑問を呈したいわけです。

民主主義や国民国家への疑問

――納税額や性別で選挙権が制限されていた時代から、徐々に権利が拡大されて普通選挙制が導入されました。免許制は時代に逆行していませんか。

根底にあるのは、民主主義や国民国家への疑問です。我々はなんとなく、普通選挙が絶対的な進歩であるかのように思い込まされてきましたが、全然進歩なんかしていない。

1925年、普通選挙法(※25歳以上の男子に選挙権)と抱き合わせで治安維持法が成立しました。1928年には、治安維持法の最高刑が死刑に引き上げられた。普選の後に重罰化が進んでいるんです。

しかもその後、日本は戦争の坂道を転げ落ちていく。当時はいまより国会の権限が小さかったという事情を考えても、ほとんど悪くなる一方だったわけですよ。

収入や性別で選挙権を制限するのは不公平ですが、能力の違いは考えた方がいいんじゃないか。

中学レベルの試験を

――免許制にするとして、どの程度の知識を問うつもりなのでしょう。

中卒程度でいいと思います。それも100点満点と言わず、8割で十分。中学生の教科書を読んでみたらわかるけど、英数国含め8割理解できれば相当な知識ですよ。

――え、公民だけでなく数学も入るのですか。

比率ぐらいは理解しておかないとまずいでしょう。一票の格差と言われますが、統計的にみてどうなのか理解できる程度でないと。

――三権分立の意味とか、被選挙権は何歳からとか、そういった基本的な知識を問うものかと。

それぐらいでもいいですけどね。「三権分立の三権は何か」と選択式で尋ねたとしても、結構な数の人が落ちると思いますよ。

――試験の合格率はどれぐらいを想定しているのですか。

5割いけば理想ですかね。いまだって投票率はそんなものでしょう(※2014年の前回衆院選は52.66%)。そう考えれば試験で半分落ちたとしても、全然おかしくない。

――受かる能力があっても面倒だから行かない、という人も出てきますよね。

当然ありうる。それは自分の勝手ですよね。投票率は高ければいいというものじゃない。北朝鮮は投票率100%近いですから。

変な泡沫候補も必要

――立候補する側が試験を受けるのではダメなのですか。

そうすると、面白い泡沫候補が出なくなっちゃうでしょ。変なヤツが立候補しても、投票する側が落とせばいいんです。

――選挙に出る側には意外と優しい(笑)

そうそう。世の中やっぱり「遊び」の部分もないと、堅苦しい社会になっちゃいますから。

機械の歯車はあまりカッチリつくると回らない。泡沫候補に公的な道化をやってもらうことも必要なんじゃないですか。

――出題者の手心次第で、急に問題が難しくなって選民政治になったりしませんか。

難易度というよりも、なんらかの思想的な傾向を忍ばせる懸念はありますよね。出題委員会をつくる時には、公平性が担保されないとまずい。

大衆扇動のリスクをヘッジ

――免許制と合わせて、ポイント制も提唱していますね。

試験の点数に応じてポイントを与えるんです。Aさんがいいけど、Bさんも悪くないかなあという時に、手持ちのポイントを自由に割り振れるようにする。

すると、正しく民意を反映できて、死票を減らせますよね。10点満点で7点だった人は、次の免許更新の時までに頑張って勉強すればいい。

――年齢を重ねて認知能力が衰えると、点数が下がってしまうのでは。

下がってきますよね。車の運転免許も75歳以上は検査や講習があるでしょう。

――呉さんだって点数が下がったら怒るんじゃないんですか。

いやあ、それはしょうがないでしょう。大学受験と一緒。「なんで俺が東大に行けないんだ」って言っても、点数が足りなければ落ちるし、納得するよりほかありません。

――免許制にしたとして、本当に世の中はよくなりますか。

大衆扇動に対するいくらかのヘッジにはなると思いますよ。選挙結果は大して変わらないだろうけど、選挙や国家に対する意識は少しずつ変わっていく。

日本の知的レベルも上がるでしょう。子どもに「学校の勉強は何のためにするの」「因数分解は何の役に立つの」と聞かれた時に、「選挙のポイントが増えるよ」と答えられるようになるかもしれないね(笑)

(くれ・ともふさ) 1946年、名古屋生まれ。早稲田大学法学部卒業。『封建主義、その論理と情熱』(『封建主義者かく語りき』に改題 ) で単著デビュー後、一貫して民主主義批判を展開している。著書に『吉本隆明という「共同幻想」』『現代人の論語』 (ちくま文庫)、『バカにつける薬』(双葉文庫)など。マンガへの造詣も深く、『マンガ狂につける薬』(ダ・ヴィンチブックス)などの評論多数。

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