ある朝、家に帰ると棺桶のそばで母親が泣き崩れていた

    くすぶり、もがき、自分を責めた――。異能のラッパーDOTAMAを駆り立てるもの

    スーツにメガネというサラリーマン然とした風貌。甲高い声で言葉の速射砲を繰り出し、強面のラッパーたちを次々に仕留める――。

    MCバトル番組「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日系)に初代モンスターとして出演し、その鋭い舌鋒から「ディスの極みメガネ」の異名をとった。

    DOTAMA、33歳。心の奥底に、常に「怒り」をたぎらせて生きてきた。

    会社員時代の葛藤、母親への屈折した思い、そして弟の死…。自伝『怒れる頭』(DLEパブリッシング)で赤裸々に半生を綴ったDOTAMAが、自らを駆り立てる「怒り」について語った。

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    ラッパーのDOTAMA

    曽祖父から続く教師一家

    栃木県佐野市、曽祖父と祖父が校長で、両親も教員という教師一家の長男に生まれた。何不自由のない幸せな暮らしだったが、教育熱心で厳格な母は些細なことで声を荒らげた。

    小学4年生のころ、2年生の次男、保育園児の三男と通っていた書道教室で、ふざけて遊んでしまったことがある。

    「さっきのあの態度はなんなんだよ! おい!」

    帰り道、神社の前で車を停めた母は、兄弟3人を境内に立たせて怒鳴り上げた。いま思えば、子どもたちへの期待の裏返しだったのだろう。仕事や育児、介護に追われ、精神的に参っていたのかもしれない。

    けれど、当時はそんな事情は知る由もない。この人は大丈夫なんだろうか? 幼心に母への疑念が膨らんでいくのを感じた。

    「男口調で怒鳴りつけられてショックだったし、理不尽さを感じました。母親としては許せなかったんでしょう。父親が2人いるみたいな家庭でしたね」

    DLEパブリッシング / Via amzn.asia

    初の自伝『怒れる頭』

    文化祭のほろ苦い思い出

    中学生になるとDragon Ashにハマり、ZeebraやTHA BLUE HERB、DMX、ウータン・クランなどヒップホップを聴き漁った。

    音楽の授業の課題で自作のラップを提出し、友人とミュージックビデオをつくったこともある。Dragon Ashの「Deep Impact」のMVに感化され、床に置いたカメラから仰ぐように撮影した。

    高校3年生の文化祭では、友人と結成したユニット「ドリルヘッド」として後夜祭のトリを務めた。が、玄人好みの楽曲は、高校生にはてんでウケなかった。

    現在も名乗る「DOTAMA」というMCネームは、ドリルヘッドを漢字にした「怒頭」をさらにアルファベット表記に改めたものだ。

    進学校のため同級生は大学進学組がほとんどだったが、ヒップホップへの思いばかりが募り、受験勉強にもまったく身が入らない。いまよりずっと回線スピードが遅く、カクカクしたMCバトルのネット動画を眺めては、いつかは自分もと夢想した。

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    ダダ滑りした文化祭も良い思い出

    「変なおじさんになるな」

    代々続く教師の家系。面と向かって「教師になれ」と言われたことこそなかったが、暗黙のプレッシャーはひしひしと感じていた。

    大学に進学せず、近所のホームセンターへ就職することが決まると、母はあからさまに「人生の落伍者」を見るような態度をとった。

    息子の将来を案じた父からは「志村けんの『変なおじさん』みたいにならないでくれよ」と、冗談とも本気ともつかない言葉を投げかけられた。

    「『息子さんもいずれは教師になるんでしょう』という世間の目、同調圧力もあったはず。僕が『社会の異物』になっていくように思えて、怖くなったのかもしれません」

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    術ノ穴/subenoana / Via youtu.be

    DOTAMA『悪役』(Official Music Video)

    真夜中の電話

    ホームセンターの先輩たちは厳しかったが、世間知らずの自分を鍛え上げてくれる「師匠」のような存在でもあった。職場は音楽活動に寛容で、同僚のミュージシャンとアルバムを出す機会にも恵まれた。

    週末はクラブに通い、平日夜は作曲に打ち込む。「サラリーマンラッパー」の二足のわらじ生活は、嵐のように過ぎ去っていった。

    そんな2006年の深夜、ライブに訪れた群馬のクラブで母親からの電話が鳴った。

    「ちょっと帰ってきてもらっていいかな」

    遅い時間の電話に胸騒ぎを覚えつつ、家路を急ぐ。明け方に帰宅すると、居間には棺桶が置かれ、母が泣き崩れていた。

    棺桶のなかにいたのは、冷たくなった弟だった。

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    GARAGE MUSIC JAPAN / Via youtu.be

    輪入道 × DOTAMA × mu-ton "TAG SHIT" track by dj honda Official Video

    必死に探した弟の遺書

    「人生のレール」を外れた長男の身代わりのように、母は次男を溺愛した。埼玉・川口の予備校で浪人生をしていた次男のもとへ、80キロは離れた佐野から通いつめた。

    長男の自分が、両親の期待に応えてさえいれば。自責の念にさいなまれた。

    「父親は誰のせいでもないと言ってくれたんですけど…。生真面目な性格だと自分でも思いますが、弟は輪を掛けて真面目な人間。すべて正面から受け止めて、プレッシャーになってしまったんだろうという気がします」

    父とともに弟が住んでいた寮に赴き、必死に遺書を探した。だが、どんなに探しても遺書は見つからなかった。

    「父は多分、いきなり亡くなってしまった息子と対話がしたかったんだと思う。弟の残り香、意識がどんな形であれ残っていないか、確認したかったんでしょうね。僕も同じ気持ちでした」

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    術ノ穴/subenoana / Via youtu.be

    DOTAMA『音楽ワルキューレ2』(Official Music Video)

    「ダンジョン」で掴んだチャンス

    その後も6年近くホームセンターに勤めたが、音楽に集中しようと2012年に退職、上京した。

    退路を絶ってラップに打ち込むはずが、生活費にさえ事欠き、ブラックバイトに追われる毎日。MCバトルでも決勝戦までは進むのに、なかなか優勝を掴めない。悶々とする日々が続いた。

    そんな矢先に舞い込んだのが、「フリースタイルダンジョン」の出演オファーだった。挑戦者のラッパーが即興のラップバトルで5人のモンスターに挑む人気番組だ。

    当初チャレンジャーとして出演したDOTAMAは、ラッパーらしからぬいでたちと、相手の痛いところを突きまくる変幻自在なディスで鮮烈な印象を残した。

    実力を買われ、後にモンスターが増員された際に、挑戦者からモンスターの側に。昨年8月の放送で初代モンスターが卒業するまでの間、数々の名勝負を繰り広げた。

    昨年末に開催されたMCバトルの全国大会「ULTIMATE MC BATTLE」では、ついに優勝の栄冠を手にした。

    GRAND MASTER INC. / Via open.spotify.com

    Dungeon Monsters「MONSTER VISION」

    MCバトル「格闘技でなく選挙」

    MCバトルは単に口汚く相手を罵ればいいというものではない。攻撃するからには、攻撃されるだけの覚悟が求められる。

    「言葉が実行される恐怖というか。揉める現場も見てきました。MCバトルは、やる側も見る側も覚悟を持つべきだと思います」

    押韻やフロウ(節回し)の応酬で、いかに観客を沸かせるか。技巧を凝らした高度なエンターテインメントでもある。半生記『怒れる頭』にはこんな風に綴った。

    《MCバトルを「言葉の格闘技」と定義する人もいる。よく分かる。だが自分は「格闘技」というニュアンスより、「選挙」というたとえが実際は正しいと思う》

    《どれだけ多数派の心を掴めるか。アメリカのディベート番組と同じように「どれだけお客さんの支持を集められるか」がカギになってくるのだ》

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    「MCバトルは、やる側も見る側も覚悟を持つべきだと思います」

    母親譲り「怒り」を武器に

    バトルの起爆剤となるのが、内に秘めた「怒り」だという。

    「恥ずかしい話ですが、やはり母親譲りの部分がある。母はよくも悪くも強い性格なので。いまでこそ、すごく優しくなりましたけどね。息子を亡くすという決定的な喪失を経て、色々考えるところがあったんだと思います」

    もちろん、私生活で激昂するようなことはない。自分のなかの怒りをうまく飼い慣らし、バトルの燃料へと昇華している。

    ラッパーの道へ進む決断に対して冷淡だった両親も、最近ではライブに駆けつけてくれるなど、すっかり応援してくれるようになった。

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    lute / ルーテ / Via youtu.be

    DOTAMA「謝罪会見」(Official Music Video)

    「鬼教官」に鍛えられ

    バトルMCとしての名声はしかし、諸刃の剣でもある。

    音源制作にも並々ならぬ情熱を傾けているのに、世間からはどうしても「MCバトルのDOTAMA」と見られてしまう。

    「MCバトルは大好きですし、そこで名前を知っていただけたのは本当にありがたい。でも一方で、バトルやってる時間の10倍以上、家に引きこもって曲づくりして、レコーディングしてますからね。そこは力不足を認めざるを得ないところです」

    音楽シーンの実情やブラック職場、家族との関係など、『怒れる頭』には「怒り」の対象が無数に登場するが、最終的にその怒りは不甲斐ない自分自身へと向けられていく。

    「申し訳ない」「申し訳なかった」「申し訳なさ」…。文章中にそんな言葉が頻出することからも、彼がのべつまくなしに怒り散らしているような「切れキャラ」でないことはわかる。

    「常にいっぱいいっぱいでフラストレーションを感じているんだけど、怒りの原因は何だろうと考えだすと、結局は自分の弱さに戻ってくる。一周して、自分に対して怒っているんです」

    「何かにぶつかる度に、自分で自分の怒りを浴びて、自分を変えてきた。『怒り』という鬼教官に、ものすごいスパルタで鍛えあげられている感じがしますね」

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    「自分で自分の怒りを浴びて、自分を変えてきた」

    〈DOTAMA ドタマ〉 栃木県出身、ラッパー。ULTIMATE MC BATTLE 2017全国大会チャンピオン。「フリースタイルダンジョン」初代モンスター。今年3月に3作目のアルバム「悪役」を発表。ドラマ「わにとかげぎす」などで俳優としても活躍。10月19日には東京・渋谷のWWW Xでライブ「社交辞令」を開催予定。