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「出会い系」で70人に会って、本をすすめまくった日々

「新しい世界に出たい。鬱屈した自分ではない、違う自分を見つけたい」

「面白すぎる」「笑えて泣ける」「まさかの感動」…。

実録小説『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)が4月18日に発売され、話題を呼んでいる。

「自分が変わったというより、自分を取り巻く世界が変わった。5年前の自分が想像もしていなかった場所にいます」

作者で3月に東京・日比谷にオープンした「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」の店長でもある花田菜々子さんは、BuzzFeed Newsの取材にそう語る。

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新しい世界へ

2013年1月、花田さんは夫と暮らしていた家を飛び出し、簡易宿泊所やスーパー銭湯を転々としていた。当時働いていたサブカル系書店の書店員としての仕事も壁にぶつかり、人生はどん底状態。

心機一転、マンションへ引っ越した矢先に存在を知ったのが、とあるネットのマッチングサービス「X」だった。

「新しい世界に出たい。鬱屈した自分ではない、違う自分を見つけたい」。そんな思いで、プロフィール欄にこう書き込んだ。

《変わった本屋の店長をしています。1万冊を超える膨大な記憶のデータの中から、今のあなたにぴったりな本を1冊選んでおすすめさせていただきます》

「セクシー書店員」

書名にうたった通り、「X」を通じて約70人と出会った。年齢は20代〜50代、男女比は7対3ほど。プライバシーの問題もあって、相手の名前や肩書きなどを変えて脚色した部分もあるが、「90%以上は実話」だそうだ。

「意識高い系の学生もいれば、結婚されている方もいました。カフェでお会いして本をすすめるだけなので、何も問題はないんですけど。女性と会う時は安心感もあるし、気楽でしたね」

当初は職業欄を「セクシー書店員」としており、募集コメントに「Hになればなるほど固くなるものなーんだ?」(答えは鉛筆)とふざけたなぞなぞを載せていたこともあり、下心で近づいてくる男性もいた。

ねっとり口説いてきたおじさんには樋口毅宏の『日本のセックス』をすすめ、「年収5千万」とうそぶく若者には『ウケる技術』という本を紹介したという。

「性的な目的の人だとしても会話自体は楽しかったし、失望や怒りはなかった。『知らない人と会ってしゃべれたぞ』『踏み出せたじゃん!』という興奮や驚きが大きかったです」

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友達との出会い

プロフィール欄を改善し、相手の見極め方に習熟していくうちに、出会いの「質」も徐々に高まっていく。

世界一周の航空券を手に入れるために、「リアルわらしべ長者」に挑戦している「前野さん」には、ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』を推薦した。

藤子・F・不二雄の『モジャ公』をオススメした「遠藤さん」は、いまなお交遊が続く友人だ。

「すすめた本を読んで『面白かった』とメールをくれた時は、すごく感動しましたね。それまで職場のなかでしか生きていなかったけど、変わった人に会って、友達もできた。一気に視界が開けました」

「逆ナン」と「丸腰」

勢いがついて、「X」の外でも臆せず人と会うようになった。恋愛目的なしに「逆ナン」を仕掛けたり、見知らぬ人ばかりのイベントに繰り出したり。

「その時はタガが外れていて、『行くしかねえ!』『何も怖くねえ!』みたいな感じ。『混んでますね』『何飲んでるんですか』とか、初対面の人に平気で話し掛けてましたね」

「大勢でワイワイやるのは苦手でも、一対一でしゃべるのは実は好きなんだと気がついて。スマホとか見ないでひとりでぼーっと立ってると、必ず誰か話し掛けてくれる。『丸腰法』オススメですよ」

想像もしていなかった場所

十分にやりきった手応えを得て、スマホからXを削除した。数々の出会いに背中を押されるように、12年勤めた書店を辞め、夫とも離婚した。

転職活動では、思い切ってエントリーシートに「X」での体験をつづった。面接でも積極的に話したところ、面白がられて採用につながったという。

今回の単行本は「WEBmagazine温度」での連載をまとめたもの。一見下世話なタイトルとは裏腹に、読後感は爽快だ。ひとりの女性の挑戦と成長を描いた「大人の青春小説」のような趣がある。

その後も幾度か転職を重ね、いまは「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」の店長を務めている。まさしく「5年前の自分が想像もしていなかった場所」だ。

90人のなかの10人に

同じ色の本をまとめた書棚や、書名に擬音語や擬態語が含まれる本の特集など、店内の各所に工夫がちりばめられている。

ネット書店にはないセレンディピティ、本との偶然の出会いこそがリアル書店の強み。熱心に本を読む層が100人のうち10人だとして、「COTTAGE」では残り90人のなかの浮動層10人にアプローチしていくことを目指す。

「普段あまり本屋になじみのない人に『行ってみたい』と思わせたい。ふらっと立ち寄って、『面白い本が見つかったから、つい買っちゃった』って言ってもらえたら」

パトロールでは出会えない本を

70人に本をすすめた武者修行を経て、推薦テクニックは格段に上達した。「X」を卒業した後も、オススメ本を尋ねる依頼は引きも切らない。

時には依頼者の雰囲気やさりげない会話から好みを探り当て、時には質問を重ねつつ、最適解を導き出す。プロファイリング捜査で犯人を絞り込むを刑事のようであり、取材を尽くして真相を追いかける記者のようでもある。

「本を読む人、読まない人ですすめる本も変わってきます。その道のプロの人にそれっぽい本をすすめても、『とっくに読んどるわい』と言われてしまうので難しい」

「本を読みまくってる人は、普段のパトロールでは出会えない、新しい本に出会いたいんですよね。そういう人に『自分では手に取らないけど面白そう』と言ってもらえると、嬉しいなあと思います」

記者のオススメ本は…

取材の最後、無茶ぶりを承知で記者へのオススメ本を聞いてみた。少し考えた後、畳み掛けるようにこう続けた。

「お話していて、サブカルな空気の方なのかなと。『夏がとまらない』って漫画読みました? 絶対読んでほしい。あれ最高なんですよ! 2コマ漫画で絵は下手うまな感じ。大喜利みたいに自分でお題を考えて、2コマでそれを表現するんです」

「出てくるおっさんの表情のバリエーションがすごい。基本的にはクスッと笑っちゃうんですけど、どこか叙情的で詩情をたたえていて。誰もが明確に『切ない』って感じると思うんですよね」

怒涛の攻勢に圧倒され、そのままレジへ。帰りの電車で袋を開けた。笑った。完全に人前で読んではいけないタイプの本だ。ドンピシャのセレクトだった。

BuzzFeed JapanNews


Ryosuke Kambaに連絡する メールアドレス:ryosuke.kamba@buzzfeed.com.

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