Posted on 2018年6月28日

    浅野忠信が語る、パンクと母と息子と娘

    「中2の時、自分の部屋に入ったら、ピストルズの写真集が机に置いてあって…」

    町田康原作、石井岳龍監督の映画『パンク侍、斬られて候』が6月30日に公開される。江戸の乱世を舞台に、超人的な剣客や奸智に長けた家老らの思惑が入り乱れて転がる、突拍子もないストーリーだ。劇中で謎めいた宗教家を演じ、ファンク・パンクバンド「SODA!」で音楽活動も展開する浅野忠信に、独自のパンク論を語ってもらった。

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    浅野忠信

    最初にオファーを断った理由

    ――浅野さんが演じる茶山半郎は、新興宗教「腹ふり党」の元幹部という劇中でも屈指のパンクな役どころです。

    石井監督に最初にオファーをいただいた時、本当に申し訳ないんですけど、「僕はできません」って言ったんです。

    僕のなかで、いつか主人公として監督とどっぷりと組んでやりたいっていう夢があったので、「予定と違う!」と思って。

    でも「ダメです!」って許してくれない。それならと、ひとつアイディアを提案しました。僕のセリフをナシにしてほしい、と言ったんです。

    茶山って映画のなかでも一番現実離れしてる。元の脚本だと僕が全部セリフを言ってシーンが進む感じだったんですけど、それだとほかの役と同じようなトーンになっちゃうかなあと。

    だから、できれば付き人が2人いて、代わりにセリフを喋ってくれるとありがたいとお伝えして。

    そしたら監督も「んん〜、持ち帰らせてください!」となって。脚本の宮藤官九郎さんに相談して、書き直してくださいました。

    ©️エイベックス通信放送

    茶山の顔には奇妙な刺青が入っている。タトゥーの入った役柄を演じることが多いが、浅野本人は「ビビリだし、痛がりなのでタトゥーは絶対無理ですね。温泉行けなくなるのは嫌だし、次の日には飽きちゃいそうだから。でも心は全身タトゥーです!」

    やっちゃいけないことを…

    ――と言いつつ、劇中では結構しゃべってましたよね?

    そうですね。一言も発しないというワケではありません。

    僕のなかで茶山は、完全に違う世界で生き続けている存在。黒子の2人だけが喋っていると、茶山が正常な状態でそこに座ってるように見えてしまいますから。

    彼はもしかしたら、タイムスリップしてきたのかな、という気もして。もっと昔から来たのかもしれないし、未来からかもしれない。この世界を理解できなかった男っていうか。

    今回、結構いろんなことやったんですよ。でもところどころカットされたり、音を消されたりしてて。現場は盛り上がってたから、イケる!と思ってたんですけど。

    やっぱり、やっちゃいけないことをやってたんだなって(笑)

    ©️エイベックス通信放送

    『パンク侍、斬られて候』の一場面。主演は綾野剛

    毎日がライブみたい

    ――茶山は「腹ふり」踊りで物語にカオスをもたらす怪人ですが、SODA!のライブで「踊り続けよう!」と呼びかける浅野さんの姿に、どこか重なる感じもしました。

    決まりごともないし、セリフもない。とにかく、みんなが取り乱す状況をつくって、暴れ回ればいい。毎日がライブみたいで最高でしたね。

    ダンスの先生にも「僕は先生の振り付けで踊れないです。僕のオリジナルで行きます!」って言って。恐らく、ほかの皆さんはしっかり踊る。でも茶山は絶対、ちゃんと踊っちゃダメだと。

    石井監督はやっぱすごいですよ。ほかの監督だと「いや、違います」ってなっちゃうと思うんですけど、絶対乗ってきてくれる。

    僕が「これだ!」ってやってると、監督が寄ってきて「いまのは宇宙と交信してたってことですか?」ってものすごい解釈で受け取ってくれて(笑)

    「そう言われたら、そうかもしれないですね」ってお互いに乗せ合って、乗せ合って。僕の芝居を、ものすごくきちんと受け止めてくれました。

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    東映映画チャンネル / Via youtu.be

    映画『パンク侍、斬られて候』予告

    パンクは名乗るものじゃない

    ――高校中退した後、パンクバンドをされていたこともあると聞きました。浅野さんにとっての「パンク」とは。

    当時はいわゆるパンクロックをやってましたね。セックス・ピストルズとかラモーンズとか、初期のパンクを聴いて。今日もラモーンズのスカジャン着てますけど。

    パンクなファッションだったり、パンクロックだったりは気軽な気持ちでできるけど、生き方としての「パンク」となるとそうはいかない。

    「俺はパンクだ!」って自分で決めることじゃなくて、誰かが「あの人パンクだね」って言うもの。ルールがないなかで、自分自身の何かを探し続ける生き方だと思うんで。

    「お前が勝手に言ってるだけで、俺は別にパンクなんかじゃねえよ。気持ち悪いからやめてくれ!」っていうぐらいの人が一番パンクなんですよね。

    ――自称パンクではなくて。

    そう。それだと疲れちゃうから。

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    この日はラモーンズのスカジャンを着ていた

    自分らしく生きればいい

    ――歳を重ねても、パンク愛は変わりませんか。

    昔は「パンクって何だろう?」と思ってたけど、パンクって別にそうやって考えることじゃないし、自分で決めてやるようなことじゃない。

    パンクであろうとする必要がなくなったっていうか。要するに、形が無いわけですよね。

    自分らしく生きた結果、誰かがパンクだと言ってくれればそうかもしれないし、アクターだって言われたらアクターですし。なんでもいいやって。

    そういう風に思えた時に、ものすごく楽になりました。

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    SODA ! / Via youtu.be

    赤く染まるまで! / SODA!

    パンクな母がくれた写真集

    ――お母様の順子さんは、ビキニ姿で公園で日光浴したり、ディスコでゴーゴーガールをやっていたりと、かなりパンクな方だったとか。

    ええ。そんな写真を見たことがありますよ。いまのファッションもパンクロックにハマったのも、ほとんど母親の影響です。

    中2の時、自分の部屋に入ったら、ピストルズの写真集が机に置いてあって。母が「お前もそろそろコレだろ」って。「おおっ、確かにカッコイイ!」みたいな。

    ――すごいお母さんですね。普通は親に反発してパンクに走るとか、逆じゃないですか?

    ほんとですよね。ウチは革ジャンでもラバーソウルでも、母親が全部与えてくれたから。友達の家ではまったくありえないことでしたけど。

    「有名人になりたい」と思ったのも、小さいころに母親が見せてくれた「ウッドストック・フェスティバル」の映像がキッカケでしたし。

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    Tシャツはクシャクシャ。着る予定だったシャツが見つからず、急遽ひっぱり出してきたのだとか。「こういうファッションだって書いといてください」

    祖母からの説得で俳優の道に

    ――18歳ごろ、音楽の道に進むか、俳優の道に進むかで葛藤したそうですね。

    僕はバンドをやりたい気持ちが大きかったんですけど、母方のおばあちゃんが説得してくれたんです。

    「あんたが音楽好きなのはわかる。でも、本当に好きだったら何をやっていてもできるでしょ」って。その一言は大きかったですね。

    いい親といい子どもに恵まれた

    ――浅野さんが順子さんからパンクを教えられたように、長女のSUMIREさんや長男の佐藤緋美さんにも、浅野さんからパンク・スピリットが受け継がれているのでしょうか。

    いやあ僕の場合、そういう意味では子どもに教わることの方が多いです。

    子どもたちに、ファッションのことでも音楽のことでも教わってる。あの子らを見てて学ぶことがいっぱいあるから。

    本当に小さいころは教えることもできたんだけど、2人とももう大人なので。

    娘と息子とラフォーレの看板やってます!(^o^)!

    ――素敵な親子関係ですね。

    粋がって息子に「こんないい音楽あったぞ」なんて言ったら、「知ってるよ。この曲好きだったらこっちも好きなんじゃない?」って返されて。

    「おお、確かにいいじゃん!」みたいな。結果、いまでは僕の方が「最近いい音楽ない?」って聞いているという(笑)

    娘はまたタイプが違うんだけど、優しいんです。この間も父の日にご飯に連れて行ってくれて。そういう生き方、優しさを娘から教わってます。

    すごいな君、誰に育ててもらったの?みたいな。本当に僕はいい親と、いい子どもに恵まれましたね。親に教わった次は子どもに教わる。学ぶことだらけです。

    娘がSODA!のライブに来て父の日プレゼントくれた😍ラブ💖 My daughter came to the live of my band gave me the gift for Father's Day😍LOVE💖

    風を感じたい

    ――少し前のインタビューで「全部に飽き飽きしている」と発言されていて、少し驚きました。俳優業に、音楽に、絵に、全部を楽しんでいるように見えたので。

    ちょっと疲れてたんでしょうね(笑) 全部を楽しもうと必死になっちゃうタイプだから。いまは楽しいですよ。

    年を取ると、昔フレッシュだったことにも同じようなフレッシュさを感じられなくなる。逆に言うと一度通過しているから、深く楽しめるっていう面もあると思うんです。

    僕個人で言うと、「外の風が気持ちいいなあ」とか、そういう瞬間が一番気分が楽ですね。

    映画づくりとか音楽を掘り下げるというよりは、いまの僕にはそういう時間が必要なのかもしれない。少年時代から風を浴びて、海に行ってっていう感じでしたから。

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    「逆に言うと一度通過しているから、深く楽しめるっていう面もある」

    飽きたら悲惨

    ――中高年に差し掛かって、楽しんで仕事をしつつも、「飽きる」ことへの恐怖を抱えている人は結構いるかもしれません。

    飽きたら悲惨ですよ。つまんないですから。でも飽きちゃうんだからね。

    ウチの兄は子どものころ、食べ物にハマるタイプだったんです。

    ある時期、麦チョコを毎日のように食ってたんですよ。ああこの人、また麦チョコ食ってるって弟ながらに思って。

    ところが突然、麦チョコを買ってこなかった日があったんですよ。「今日は麦チョコ食べてないね」って聞いたら、「食い過ぎて嫌いになった」って(笑)

    これは悲惨! やっぱりね、飽きないように続けるって大変ですよ。

    「これでいいのだ!」

    ――飽きないためには、どうしたらいいのでしょう。浅野さんのようにリフレッシュの時間を持つとか?

    この間、タモリさんのお言葉をFacebookで見て。「現状維持がいいんだ」みたいなことが書いてあったんですよ。

    それを読んだ時に「これだ!」と思って。人は成長しようとして、頑張りすぎちゃうわけですよね。

    もっとイケるんじゃないか? もっと楽しめるんじゃないか? で、結果つまんないっていう。

    でも「現状維持」なら、それ以上になる必要がない。赤塚不二夫さん的な「これでいいのだ!」精神でいければ、ずっと楽しくいられるかもしれない。

    アミューズソフトエンタテインメント / Via amzn.asia

    『これでいいのだ!!映画★赤塚不二夫』

    役を楽しむのが一番

    ――演技でも「飽きない」ためのチャレンジを重ねて。

    役を見つける作業は大変です。見つけないと楽しめないし、見つけたら見つけたで、現場でぶつかったり、通用しないこともある。

    今回、茶山役で「セリフを話さない」っていうのも、いい加減な気持ちじゃなくて、ものすごく緻密に読み込んだうえでの回答でした。

    役を楽しむためのひとつのアプローチとして、そういう提案をしている部分はありますね。年とって飽きて、行き着いた先だと思うんですけど。

    やっぱり役者は、役を楽しむのが一番ですよ。

    思考を1ミリずらす

    ――パンクに生きたいけど、日々会社のデスクに縛り付けられてままならない、という人は少なくないと思います。

    会社のデスクで今日も同じことをやる。それを1ミリだけ違う視点から眺めてみるのはどうでしょうか。

    「デスクでうんざりして、仕事してる俺がいる」って引いて見ると、それに対しての面白みが出てくる。僕は自分のことをすべて客観視するタイプだから、特にそう思うんですけど。

    映画のなかで、主人公が落ち込んでる瞬間、うまくいかない瞬間ってあるじゃないですか。そんな風に自分を見てみるんです。

    1ミリずらすだけでも、随分違うと思いますよ。

    それでもつまらなかったら、SODA!のライブに来てください。きっと楽しくなれると思うんで。

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    DAX -Space Shower Digital Archives X- / Via youtu.be

    SODA! - yeah! @ METEO NIGHT 2014 FINAL

    好きに楽しんで

    ――最後に「パンクなんて知らない」っていう10代、20代の若い人たちにもメッセージをお願いします。

    まあ知る必要もないですからね。「『パンク侍』のパンクって何?」っていうぐらいがちょうどいいんじゃないですか。勉強したら多分つまんなくなるから、やめときなって。

    「パンクっておじさんたちの時代にあったロボットアニメでしょ? パンクっていうロボットがいたんじゃないの?」とか(笑)

    それぐらいの感じで映画館に来て、好きなように楽しんでもらえたら。

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    「散々ふざけてた連中が、最後の30分でド真面目に変わる。パンクなヤツらもセンチメンタルになる。ここが見どころですね」

    〈あさの・ただのぶ〉 1973年、神奈川県生まれ。1990年、『バタアシ金魚』でデビュー。『地球で最後のふたり』(2003年)でベネチア国際映画祭コントロコレンテ部門主演男優賞、『私の男』(2014年)でモスクワ国際映画祭最優秀男優賞など、受賞歴多数。2011年、『マイティ・ソー』でハリウッドデビュー。近年は『A LIFE~愛しき人~』『刑事ゆがみ』などテレビドラマでも活躍している。


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