朝日新聞取材班の文庫本、表紙が類書に酷似 「パクリ」指摘の声も

    著者のNHKディレクターは「とても残念で悔しいです」

    朝日新聞の連載企画を文庫化した『【増補版】子どもと貧困』(朝日新聞出版)の表紙が、同じく児童の貧困問題を扱った、NHKディレクター新井直之さんによる書籍『チャイルド・プア~社会を蝕む子どもの貧困~』(TOブックス)に酷似している。

    『チャイルド・プア』が出版されたのは、『【増補版】子どもと貧困』の4年以上前。関係者からは「パクリ」の可能性を指摘する声もあがっており、新井さんはFacebookで「とても残念で悔しいです」と綴っている。

    両書の内容は

    『チャイルド・プア』は、2012年10月にNHKで放送された「特報首都圏 チャイルド・プア〜 急増 苦しむ子どもたち〜」の内容をベースに、2014年3月に刊行された。

    車上生活を余儀なくされた中学生や、母親を失って引きこもりになった女性など貧困の実態を生々しく伝え、高い評価を得た。

    朝日新聞や週刊現代で紹介され、2015年9月には続編『チャイルド・プア2 貧困の連鎖から逃れられない子どもたち』も出版されている。

    一方の『【増補版】子どもと貧困』は、2015年10 月から始まった朝日新聞取材班による連載記事「子どもと貧困」をまとめたものだ。

    「増補版」とある通り、2016年10月に発表した単行本版の『子どもと貧困』を、今年7月に増補して朝日文庫のラインナップとして発売している。

    空腹のあまりティッシュを口にした姉妹借金を背負い風俗で働く短大生ら、貧困の当事者の生の声を報じた記事は、発表当時ネットでも大きな反響を呼んだ。

    こちらも内容の評価は高く、文章には『チャイルド・プア』からの剽窃の形跡はうかがえない。表紙に関しても、2016年の単行本の時点では別の写真を使用していた。

    つまり、今回の「パクリ」疑惑は「文庫版の表紙」についての話ということになる。

    「どう見ても似ている」

    『チャイルド・プア』も『【増補版】子どもと貧困』も、表紙の写真はフォトサービスの「Getty Images」から購入したものを使用しているという。

    調べてみると、確かにこの写真は「Hiroyuki Oniki / Getty Images」の署名、「watching the rail」のタイトルでGettyに登録されていた。お金さえ払えば、誰でも写真を利用することができる。

    ただ、法的な問題とは別に、『子どもと貧困』の文庫化に際して、なぜ同一ジャンルの先行書である『チャイルド・プア』と同じ写真を使ったのか、という疑問は残る。

    写真ばかりでなく、後ろ姿の少年の左横に白抜きのタイトルを置くレイアウトもよく似ている。類書で表紙も似ているとなれば、混同する読者が出てもおかしくない。

    「どう見ても似ている。残念です」

    『チャイルド・プア』の版元であるTOブックス編集部は、BuzzFeed Japanの取材に対してそうコメントした。

    「ゴールは同じ」なのに…

    当の著者はどう受け止めたのか。新井さんは8月19日、友人限定公開のFacebookで複雑な胸中を明かした。

    とても残念で悔しいです。先月発売された朝日新聞取材班の『子どもと貧困』という文庫本の表紙が、2014年に発売した『チャイルド・プア』と酷似しています。


    男の子の後ろ姿の画像は全く同じものを使用していて、タイトルの文字が白色であることやタイトルの配置の仕方もそっくりです。一見、『チャイルド・プア』の文庫かと見間違えるほどです。もちろん、私は執筆に関わっていませんし、編集者も出版社も違います。

    ただ、朝日新聞も私も、こうした本の出版を通して目指すゴールは全く同じで、『子どもの貧困』問題の解決です。多くのメディアがすでにこの問題に関心を失いかけている中、こんなことで先方と揉めたくはありません。朝日新聞取材班の本が問題の解決につながるのであれば表紙が似ていることくらい些細な問題です。


    それでも自分が苦労して書いた本なので、残念な気持ちは正直ぬぐい切れません。

    朝日新聞出版は「調査中」

    BuzzFeed Japanは、表紙に同じ写真を使った経緯や今後の対応などについて、朝日新聞出版に問い合わせた。同社からは書面で次のような回答があった。

    表紙カバーの写真はフォトエージェンシーのGetty Imagesから購入したものです。この写真を使った経緯等については調査中です。

    TO ブックス側は「今後の交渉次第だが、少なくとも重版時には表紙を差し替えてほしい」としている。