全身タトゥーの牧師はなぜ、キリストの名を体に刻んだのか

    「俺は『刺青を入れよう』って宣伝したいわけじゃなくて、『偏見を持つのはやめよう』って言いたいだけなの」

    タレントりゅうちぇるさんがタトゥーを公表し、ラグビーの国際団体が選手にタトゥーを隠すよう要請するなど、最近何かと話題のタトゥー。

    不良牧師!』などの著書がある牧師のアーサー・ホーランドさん(67)は、新宿・歌舞伎町での路上伝道や、十字架を背負っての日本列島縦断といった多彩な活動を経て、40歳過ぎでタトゥーを入れた。

    「東京オリンピックが岐路になる。日本も認めていく方向にしていかないと、『おもてなし』どころじゃなくなるよ」。異色の牧師はこう語る。

    最初に入れたタトゥーは…

    ――最初にタトゥーを入れたのはいつごろですか。

    43歳ぐらいかな。牧師になってからだね。弟が2人いて、アメリカで牧師やってるんだけど、一人が背中に「俺はクリスチャンのサムライだ」みたいな言葉を入れたのよ。

    それ見て、俺も腕にワンポイントで「フィッシュサイン」を入れたの。昔はキリスト教徒であることを公言すると迫害されたから、魚のマークをクリスチャンのシンボルにしてたわけ。

    「イクトゥス」といって、「イエス・キリスト、神の子、罪からの救い主」という言葉の頭文字をとると、ギリシャ語で「魚」って意味になる。

    それを最初に入れたんだよ。イエス・キリストは俺の救い主だ!って。

    堅苦しい社会で葛藤しながら生きていくなかで、ブレイクスルーするためのひとつの突破口だったのかな、いま振り返ると。それまでの自分から脱皮するための表現だったんだろうな。

    武士道は日本のスピリット

    ――ご兄弟も牧師で、しかもタトゥーを入れているのですね。

    兄弟3人、みんな「大和魂」って入れてる。広島で入れたんだよ。やっぱり、日本の血が流れてるから。

    武士道とか大和魂っていうのは日本のスピリット。弟たちも宮本武蔵とか大好きだし。俺、桜も好きだから、桜吹雪も入れたいんだよね。

    胸に刻んだ「ジーザス・クライスト」

    ――ほかにも体中に入ってますが、キリスト教や聖書にまつわるメッセージが多いのでしょうか。

    多いね。つい最近、胸に「ジーザス・クライスト」って入れた。下には「ロックンロール」て彫ってね。

    (右肩を指して)これはトリニティーっていう三位一体のマーク。背中には十字架に巻きついた龍を入れてる。

    聖書の世界ではドラゴンは悪魔の象徴だけど、東洋では龍は神の使い。俺にとって龍っていうのは、神に仕える天使の象徴なんだよね。

    普遍的なものって言葉にならないじゃない? 俺は俺なりに、言葉にならないものを表現してるわけさ。

    ジーザスもタトゥー?

    ――聖書には《死人のために身を傷つけてはならない。また身に入墨をしてはならない》(レビ記 19章28節)という記述もあります。教義的には問題ないのでしょうか。

    確かに書かれているね。でも、それは宗教的な習わしについて書かれたもので、いま多くの人たちがタトゥーを入れているのとは意味合いが違う。

    一方で、聖書には《すべて外から人の中にはいって、人をけがしうるものはない。かえって、人の中から出てくるものが、人をけがすのである》(マルコによる福音書 7章15節)という言葉もある。

    それから、神に関して《その着物にも、そのももにも、「王の王、主の主」という名がしるされていた》(ヨハネの黙示録 19章16節)という記述もあってね。

    ウチの娘は宣教師をやってるんだけど、「ももに書いてあるということは、ジーザスもタトゥーを入れていたんだね」なんて言ってたよ。

    ジーザスのももに示されていた文字は、インクのように消えてしまうものではなかったんじゃないか。俺はそんな風に想像しているんだ。

    神の宮のステンドグラス

    ――解釈によっても変わってくると。

    解釈次第だよ。保守的に解釈する人も入れば、娘みたいな考え方もある。

    たとえば《あなたがたは知らないのか。自分のからだは、神から受けて自分の内に宿っている聖霊の宮であって、あなたがたは、もはや自分自身のものではないのである》(コリント人への第一の手紙 6章19節)という部分。

    人の体っていうのは、「神の宮」なんだと。刺青なんか入れると神の宮を汚すことになる、というクリスチャンもいる。

    だけど、牧師やってる弟は「俺の刺青は神の宮のステンドグラスだ」って言ってるからね(笑)

    主は心を見る

    ――日本では、いまだに刺青=ヤクザというイメージが根強いです。

    タトゥーはヤクザのものじゃない。みんなのものなの。

    ある人にとってはアートであり、ある人にとっては自分を奮い立たせるメッセージでもある。同志のシンボルかもしれない。色々あるわけさ。

    聖書には《人は外の顔かたちを見、主は心を見る》(サムエル記上 16章7節)とある。神は心を見てくれるけど、人間はどうしても外側を見ちゃう。

    刺青=ヤクザだから温泉入れないっていうけど、刺青入れてないヤクザだっているでしょ。

    非常に柔らかそうに見えて、悪いヤツもいる。世渡り上手なヤツは人に気に入られる方法も身につけてるからさ。刺青やっているかどうかで、それを見分けるのは難しいよ。

    大事なのは粋がることじゃない

    ――アーサーさんが元ヤクザの人たちを集めた「ミッション・バラバ」の伝道活動は大きな反響を呼びました。

    俺がトレーニングして、ヤクザから牧師になった連中がたくさんいる。

    刺青に対して偏見を持ってる人には「もうそういう時代ではないんじゃない?」と伝えるけど、刺青入れて粋がってるヤツに「そうじゃないだろう」と説くのも俺の役割だと思ってる。

    暴力団のなかには「刺青は見せるもんじゃないんです」なんて言いながら、堂々と見せつけて威嚇しているヤツもいる。見せびらかしたがり屋なんだよな、みんな。

    大事なのは粋がることじゃない。もっと人を愛し、真心を持って接すること。そういうメッセージが必要だよ。

    俺だってトレーニングセンターでは長袖を着るし。こちら側が気を利かせて、TPOをわきまえばいいと思うんだ。

    家族でタトゥー

    ――りゅうちぇるさんがタトゥー公表した際も、賛否両論が起こりました。

    よく親が与えてくれた体に〜っていうじゃない? ひとつの価値観だと思うし、それはそれで俺、リスペクトするよ。

    アメリカとかだと、逆に家族でタトゥーやってたりするね。ウチもそう。娘がタトゥー入れたいっていうから、いい女性の彫り師を紹介してあげた。

    息子はアメリカでフィットネスのインストラクターをやっていて、やっぱりタトゥーを入れてる。

    日本でトレーナーになろうと思って、ある会社に入ったんだけど、パスして喜んでたら、あとでタトゥーが入ってるってわかって辞めさせられちゃった。やっぱり、日本ではタブーなんだな。

    「おもてなし」どころじゃない

    ――来年日本で開かれるラグビーW杯をめぐって、国際統括団体の「ワールドラグビー」が、選手やサポーターに対してジムやプールを利用する際にタトゥーを隠すように要請しました。

    2020年の東京オリンピックが岐路になるんじゃないかな。日本も認めていく方向にしていかないと、「おもてなし」どころじゃなくなるよ。

    海外ではみんなファッション感覚でタトゥーを入れているし、スポーツ選手だって、オリンピックに出たら五輪のタトゥーを入れる。

    マオリ族の人たちは、顔にも入れてるでしょ。「覆面しろ」って言うの?という話だよね。

    寛容に、広い心で

    ――日本社会はタトゥーとどのように向き合っていけばいいのでしょうか。

    タトゥーを入れてる人たちには、それぞれの理由がある。メッセージやアイデンティティーがあるわけだよ。

    この前、アメリカ大陸をバイクで横断した時にガソリンスタンドに行ったら、ある人が腕に子どもの顔のタトゥーを入れてたの。息子さんが亡くなって、思い出すために入れてるんだって。

    「911を忘れるな」って入れてる人もいれば、海兵隊員が所属部隊への誇りを示すために入れることもある。

    十字架担いでアメリカを横断した時も、誘導してくれた白バイのおまわりさんの腕はタトゥーだらけだったし。

    俺は「刺青を入れよう」って宣伝したいわけじゃなくて、「偏見を持つのはやめよう」って言いたいだけなの。もう少し寛容に、広い心でいられたらいいよね。

    〈アーサー・ホーランド〉 1951年、大阪・西成出身。本名・岡田正之。米国人の父と日本人の母の間に生まれる。インターナショナル・スクール卒業後に渡米。23歳で洗礼を受ける。1982年から日本に拠点を移し、路上伝道や日本列島縦断十字架行進などに取り組む。元ヤクザを集め、米国で伝道する「ミッション・バラバ」の活動でも注目を集めた。著書に『不良牧師!』(文春文庫)、『1ミリだけ難しく生きよう!』(フォレスト出版)など。