昨年末、突如飛び込んできた「ねごと」解散の報。2008年に結成された4人組ガールズバンドは、今年7月20日のライブをもって活動を終えると発表した。
ボーカル&キーボードの蒼山幸子は、1月31日に配信が始まったJUJUの新曲「ミライ」の作詞を手掛けている。
ねごとはなぜ、解散という道を選んだのか。夢から目覚めた後の「ミライ」をどう思い描いているのか。新たな挑戦へ向けて歩み始めた蒼山に聞いた。
この人の声なら
――「ミライ」を作詞することになった経緯は?
去年の11月ぐらいにマネージャーさんからお話をいただいて、コンペに応募しました。JUJUさんの仮歌を聞いて、すごく素敵な曲だなと。
やっぱり、JUJUさんの声ってすごく説得力がある。この人の声だったらイメージが湧きそうだな、挑戦したいなと思いまして。2日ぐらいで書き上げて応募しました。
何段階かの選考を経て、正式に決まったのが12月21日のことです。
それから5日後には歌録りをするということだったので、JUJUさんのディレクターさんと話し合いながら、歌詞をブラッシュアップしていきました。
忘れられないクリスマス
――「ねごと」の解散発表が年末ですから、時系列的には並行してますね。
解散発表が28日だったんですけど。ちょうどクリスマスイブ、クリスマスあたりは、ディレクターさん、マネージャーさんと3人でスタジオに缶詰になって歌詞を書いてましたね。
クリスマスにスタジオでココイチのカレー食べながら、「どうしましょうか?」と話し合って…。27歳のクリスマスは、これから先も何度も思い出すと思います(笑)
自分のバンドでも、1曲をこれだけ時間をかけて詰めることってそうないので、本当に勉強になりました。
「私ごとなんですけど…」
――歌詞を磨いていく過程では、どのようなことを議論したのでしょう。
自分の歌詞ではあるんですけど、歌うのはJUJUさんであり、「ハケン占い師アタル」(テレビ朝日系)というドラマの主題歌でもある。だからこそ「共感性」を大事にしたい、という話をずっとしていました。
たまたま解散発表の直前でもあったので、結構煮詰まってきた時に、JUJUさんのディレクターさんに「私ごとなんですけど、実はもうすぐ解散発表があって…」とお話ししたんです。
私自身、第二の人生に踏み出す岐路に立っている時に、こういう曲に参加させていただけることになった。偶然だけど、曲のイメージやドラマの方向性とも重なる部分があるね、という話になって。
ディレクターさんが「解散決まった時、どうでした?」とか、色々質問して引き出してくださって。そこに共感軸や熱があるはずだから、盛り込んでいけたらいいねと。
もちろん、自分のことをそのまま書くとかではなくて、あくまで裏テーマではあるのですが、一個の鍵にはなりましたね。
積み上げてきた思い出
――具体的に歌詞のどの辺りに、そういう思いがにじんでいますか?
《かなしみの予感に きっと負けないように 思い出は出来てる そっと煌きながら》というところです。
JUJUさんの歌だという意識で歌詞を書いたんですけど、結果的にここは自分っぽさが出ちゃった箇所かもしれません。すごく感情移入できたフレーズですね。
10年以上バンドをやってきて、積み上げてきた思い出がある。それが今回、それぞれ新しく散らばっていく、違う場所へ行くタイミングでもあって。
未来を想像して、「ダメかもしれない、無理かもしれない」っていう自分と、「いや、できるはずだ」っていう自分のせめぎ合いが、誰しもあると思うんです。
そんな時にどうやって自信を持つかっていうと、「ここまでちゃんとやってきたよな」っていうこと。やっぱり、振り返った時の思い出だったりするのかなと。
「活動休止」ではなく
――解散について、掘り下げて伺っていきます。「活動休止」という表現をとるバンドも多いと思うのですが、はっきり「解散」と言い切ったのはなぜだったのでしょうか。
やっぱりちゃんと区切りをつけていこうと。そういう思いはみんな自然と持っていました。女子だからなのかはわからないですけど、スッキリした感じではありましたね。
――いつの時点で解散が決まったのですか。
ちゃんと決まったのは10月ぐらいでしたかね。
――それ以前にも、解散が話題にのぼることはあったのでしょうか。
そういう話が今までに何度も出た、ということはないです。
もちろん、場面場面でミーティングをして、バンドのことや人生のことを話す機会はありました。でも、「解散」という答えが出てくることはなかった。今回が最初で最後でしたね。
バンドとしてやりきった
――解散発表の際のメッセージには、「この4人でできることは精一杯やりきった」とありました。何が一番大きな要因だったのでしょう?
何かひとつわかりやすい理由があって…という感じではないんです。まず「やりきった」というのが一番大きくて、連名のコメントにもそう書きました。
あとは複合的というか…。バンドとして10年以上やってきて、次のステージを考えたメンバーもいるだろうし。
女性のバンドっていうこともあって、「実際問題いつまで続けていけるのか」ということがチラつかなかったわけでもないと思うので。そういうタイミングが来たのかなと。
4人それぞれの見ている先、「こうしたい」という思いがひとつになりづらくなってきたというか。もちろん、仲が悪くなったとかではないですよ。
先より今、だった
――以前は、4人の描いている未来像がピタリと一致していた?
逆に言うと、昔の方がそこが曖昧だったかもしれないですね。「先のことより今のこと」っていうか。
「今」にとにかく集中していいものをつくりつつ、次のツアーどうしようとか、ちょっとだけ「先」のことも見ているようなバンドだったので。
――おのおのの未来を見据えたうえでの、前向きな判断だったと。
そうですね。ちゃんと前を見た、前向きな決断です。
そのうえで、いままで聴いてくれた方に、せめて最後に何かできたらいいねって恩返しのツアーを組むことを決めた感じですね。
――解散発表後、ネットなどでファンの声は見ましたか。
個人でインスタグラムもやっているのですが、色んな方がコメントをくださいました。みなさんすごく優しくて…。
「受け止めます」「最後のツアーも絶対行きます」っていう、本当に優しい声ばかりでした。
チャットモンチーの「潔い」決断
――同じガールズバンドでいうと、2018年の7月にチャットモンチーが完結(解散)したばかりです。「チャットに続いて、ねごとまで…」というような声もありました。
もちろん後追いとかじゃないんですけど、やっぱりチャットモンチーはすごく尊敬できる先輩です。カッコイイことを堂々とやってきた人たちだと思っているので。
最後の武道館も見に行きました。ファンの一人として、終わってしまうのは悲しいけど、あの2人が決めたことなら、それすらカッコイイ、潔い決断だと思えた。終わり方として、清々しいなと。
ねごとの解散発表の後も、あっこさん(福岡晃子)がご連絡くださって。「解散するんだね。今度、時間合えば話そう」と声をかけていただきました。
「夢から覚めることにしました」
――解散発表時にドラムの澤村小夜子さんが「私たちはついに、夢から覚めることにしました!」とコメントしていましたが、振り返って夢を見ているような感覚でしたか? あるいは日々、現実を突っ走ってきた感じなのか。
多分、両方あったと思います。両方あったから、やってこられたというか。
最初のころは曲数もそんなにあるわけじゃないし、毎回新鮮で楽しいねっていう気持ちがエネルギーになっていた。ファーストアルバム(「ex Negoto」)はまさにそうです。
でもセカンドアルバム(「5」)ぐらいで、もっと見せ方や伝え方を強くしていかないと伝わらないんだな、みたいな壁にぶつかって。ライブの仕方や曲のつくり方を試行錯誤した時期もありましたし。
そういう現実を踏みしめてきたからこそ、バンド力も強くなった。「ちゃんと乗り越えられたよね?」っていう経験が、ひとつずつ自信になっていった気がします。
夢見ることも大事だし、それを叶えるための「体力」も必要だなっていうことがわかった10年でしたね。
若さだけではやっていけない
――バンド活動のなかで特に大変だった時期は。
いま言ったセカンドアルバムの時期を、自分たちのなかでは「暗黒期」って呼んでるんですけど(笑) それぐらい、結構大変でした。
「若さだけの自信みたいなものだと、やっていけないぞ」と痛感して。自分の自信のあり方を見直さなくてはいけない時期でした。
みんな大学生だったこともあって、とにかく時間がなかった。立ち止まる余裕もなくて、時にはぶつかり合うこともありました。
4人で固まるというよりは、一人ひとり前を向いて。「とにかく今を乗り越えよう」という団結の仕方でしたね。
楽曲に見合う自分たちに
――そこから、音楽的にも進化していって。
順を追っていくと、サードアルバム(「VISION」)はセルフプロデュースみたいな形で、もう一度つくりたい曲を「楽しい」っていう気持ちでやってみようと。
4枚目のアルバム(「ETERNALBEAT」)からはちょっと音楽性が変わって、エレクトロやダンスミュージックに舵を切りました。
私のなかでは、BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之さんにお会いできたことがすごく大きくて。プロデューサーとして楽曲のキャパ、空間の大きさをグンと広げていただいた。
単に楽曲を良くするということ以上に、「その楽曲に見合う自分たちになるんだよ」っていう意味でプロデュースしてくださいました。
たとえば「アシンメトリ」という曲は、アリーナみたいなところでやっても、すごく似合う規模感の曲だと。「だから、それぐらいのところまで行けるし、行くんだっていう気持ちを持った方がいい」と言ってくださって。
新曲のリリースは?
――改めてファンの人たちへ一言、お願いします。
ねごとのファンの方には年末、驚かせてしまったと思うんですけど、あくまでも前向きな決断です。最後まで皆さんに夢を見続けていただけるようなツアーをしたいな、と思っています。
――最後に新曲のリリースを期待しているファンも多いと思います。
お待たせして、悲しませる感じにはならないと思います。…というぐらいは、言ってもいいのかな?
解散後も音楽は続ける
――蒼山さんの「ミライ」はどんなものになっていきそうですか。
自分の表現を、やり切れるところまでやり切りたいです。
とにかく、解散後も音楽を続けていこうっていうことだけは決めていて。今回の作詞のようなチャレンジも続けていきたいですし。
どんな形になるかはわからないですけれども、ワクワクしていただけるものを届けていけるように頑張りたい。なので、ふんわり楽しみにしてもらえると嬉しいなと思います。
〈ねごと〉 2008年、蒼山幸子(ボーカル&キーボード)、沙田瑞紀(ギター)、 藤咲佑(ベース)、澤村小夜子(ドラム)の4人で結成。2010年、ミニアルバム「Hello! “Z”」でメジャーデビュー。2011年のファーストシングル「カロン」は、au「LISMO!」のCMソングにもなった。2017年には「ETERNALBEAT」「SOAK」の2枚のアルバムを発売。2018年12月28日、今年7月で解散することを発表した。5月からは全国11ヶ所12公演のラストツアーを敢行。7月20日のZepp ダイバーシティ東京で最後を迎える。