日本テレビ系の連続ドラマ「anone」が、1月10日の夜10時にスタートする。脚本は坂元裕二、演出は水田伸生。数々の賞に輝いた「Mother」「Woman」のスタッフが再結集した、注目作の見どころを解説する。
坂元ファンは戸惑う?
「Mother」では児童虐待、「Woman」ではシングルマザーの貧困と、過去の水曜ドラマ枠で社会性のあるテーマを描いてきた坂元。しかし、「anone」からは、かなり毛色の違った印象を受ける。
えぐるようなリアリズムゆえ、一部で「重い」「見ていられない」という声もあがった両作に比べると、ライトなドラマ視聴者への配慮も伺える仕上がりだ。
その分、コアな坂元脚本のファンほど、面食らう部分もあるかもしれない。詳しい理由を説明する前に、まずはあらすじを紹介しよう。
広瀬は難役を瑞々しく好演
主人公の「ハズレ」こと辻沢ハリカ(広瀬すず)は、孤独死などのあった部屋を清掃するアルバイトをしながら、同世代の仲間とネットカフェに寝泊まりしている。
決して豊かとは言えないハズレのささやかな楽しみが、闘病中の青年「カノンさん」(清水尋也)と、チャットゲームを通じて他愛のないやりとりを交わすことだ。
役づくりのために髪をバッサリと切ったことでも話題を呼んだ広瀬は、ともすれば現実離れした印象を与えかねない難役を瑞々しく好演。地の足のついたリアリティーをもたらしている。
絡まりあう運命
医師から余命半年の宣告を受けたカレー屋の店主・持本舵(阿部サダヲ)は、店を畳もうとした矢先、最後に訪れた客・青羽るい子(小林聡美)と意気投合する。
エリート街道を歩みながら、会社に放火して服役したるい子は「死に場所を探していた」と舵に告げる。
一方、法律事務所の事務員・林田亜乃音(田中裕子)は、自宅1階にある廃業した印刷工場の床下から、大量の1万円札を見つける。
ハズレ、亜乃音、舵、るい子、そして謎の男・中世古理市(瑛太)…。海辺の街に打ち捨てられた大金をめぐって、彼らの運命が絡まりあっていく。
「Mother」「Woman」に続いての出演となる田中の名演は、見逃せないポイントのひとつ。題名と同じ「あのね」という名を持つキャラクターだけに、今後の鍵を握る存在になりそうだ。
会話劇の魅力は健在だが…
「努力は裏切るけど、あきらめは裏切りません」
「1日にスマホを3時間見てる人は、一生のうちに10年見てることになるんですって」
阿部と小林の軽妙な掛け合いは、リアルな会話劇で定評のある坂元ならでは。
今作でも巧みなセリフ回しは健在だが、力点はあくまでも骨太なストーリーに置かれている。セリフの妙は、物語を引き立てるスパイスのような位置付けだ。
名脚本家が挑む新境地
「Mother」「Woman」のほか、「カルテット」(TBS系)、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「最高の離婚」(フジ系)など、坂元は近年、立て続けに話題作を手がけてきた。
「anone」は過去の名作群と似た要素を少しずつ持ちながらも、そのどれとも決定的に異なる。新境地であり集大成、と言ったら言い過ぎだろうか。
クライム・サスペンスの趣きあり、どたばたコメディーの要素あり。回想シーンにはファンタジー的な演出も用いられている。
他方で深層を流れる大きなテーマの存在も仄見える。「私を守ってくれたのは、ニセモノだけだった」。番組ポスターに躍るキャッチコピーは、ドラマの行く末を暗示しているかのようだ。
序盤から中盤にかけて、物語は(時に突拍子も無い方向へ)どんどん転がっていく。ん?と思うところもあるかもしれないが、だまされたと思って最後まで見てほしい。
「正座して見て」とは言わないけれど、「ながらスマホ」で流し見するには惜しい作品だから。
初回のラストシーンを見終えた時、戸惑いは氷解し、静かな感動に変わる。そして新たなクエスチョンマークが頭に浮かぶだろう。
最後まで見届けたあなたは、きっと誰かに感想を打ち明けたくなる。「あのね」と。