「コロナでも新しい経験ができた」
「コロナでやりたいことができなくなってしまった」
そう対照的な話をする2人の大学生がいる。
大学に行き、教室で授業を受け、友人との遊びを満喫する日もあれば、アルバイトにも精を出す。新型コロナウイルスは、そんな大学生活をも大きく変えた。

早稲田大学に通う2人は、コロナ禍でどんな日々を送ってきたのか。これからの大学生活に何を思うのか。対照的な点がある一方、共通点も見えた。
そして大学側は、学生に対してどんな思いを抱いているのか。双方に話を聞いた。
コロナ禍で見つけた新しい居場所
1人目は、四国から上京しているAさんだ。3月頭、新型コロナの感染拡大状況に不安を感じたAさんは、両親と相談し、実家に帰ることを決めた。
帰省当初は「大学も、サークルも、バイトも行けないので、何もしないまま。家にこもってただ時間が過ぎるのを待つことになってしまう」と思っていた。
そこで、デイサービスの求人を見つける。全国へ臨時休校要請が行われたことで、受け入れる子どもや時間帯が増え、人手が足りないところだった。
せっかくだから、とAさんはアルバイトをはじめた。感染対策には十分気をつけて働く中で、新しい人との関わりが生まれ、福祉の世界を知ることもできた。

Aさんにとって「サークル活動、ゼミ等の合宿ができなかったことは悲しかった」ものの、地元の新しい経験は強く心に残ったという。
学外に居場所を作り出したAさんだったが、オンラインでの大学生活自体に、困ったことはなかったのだろうか。
「学生同士の交流は減りました」
サークルのメンバーと話す機会は、月1回に減った。3年生からはゼミでの活動が始まったが、知り合い以外のゼミ新入生と個人的に関わることは全くなかった。
「(対面だと)近くにいるだけで話す理由ができる。オンラインだと、誰かが代表してやりましょうと呼びかけるしかないから、初対面の人と仲良くなりづらいと思います。呼びかける人も固定化されてきて、負担になってしまいます」
オンライン授業では、充実度に差を感じることがあった。
録画した講義を流す形式のものは、「何回でも再生できるし、先生に質問しやすく、今までで一番濃い内容だったと思いました」。
一方、ディスカッション中心の講義は、自分の考えをチャットに貼り付けることに終始することもあり、残念だと感じることが多かった。
「春学期を通して、オンラインに向いている授業と向いていない授業が分かったと思います。(秋学期は)環境を整えてもらって、学生としては質のいい授業を受けたいです」
秋からの大学生活も、基本的に家で過ごすが…
秋から一部の授業が対面で実施される。それに合わせて、東京での生活も再開させる。「一人で授業を受けるのに耐えられるかという不安はあります」というが、秋学期は、どのように生活したいか。
「受講するほとんどがオンラインで行われるため、基本的には家にこもって生活することになると思います。それでも友達と連絡を取り合って、時々会ったり、バイトにも少しずつ参加したり、一人でできる趣味を見つけるなどしていきたいです。こういう工夫が現実的だなとは思ってます」
ちなみに…現実に即したものを超えて、希望を出せるなら?
「大学に通っている間しかキャンパスを自由に使用することはできないので、図書館や、友人と勉強できる交流スペースなどを使いたいという思いがあります」
オンラインの大学生活で、どのような経験をしたのかは人それぞれではある。「大学1年生の辛さを描いた漫画」には、多方面から意見が寄せられた。
ただし運良く大学の外にコミュニティを見つけられたAさんの例は、まれな例かもしれない。2人目のBさんは、どういった生活を送ったのか。
やりたかったことができなくなった。計画が崩れ…
彼女はこれまで、学業と、所属する民族音楽サークルに力を入れた大学生活を送ってきた。
春学期を通して味わったのは「コミュニティから物理的に断絶された感覚」だったという。授業以外の活動がなくなり、大学内での交流が一切なくなったためだ。そして課外活動を通して実現したいと思っていたことが、不可能になってしまったのだった。
サークルでは「3年生になったら、練習方法を変えていこう」といった取り組みを考えていたが、2月末から活動は停止。再開が認められたのは8月からだ。

しかし、感染対策を十分にできる練習環境の整備や、感染者が発生した際の責任といった懸念点が多く、再開は実現しなかった。しょうがない、と納得させつつも、残念に感じる思いはぬぐいきれない。
1、2年生で学んできたことを生かして、学生団体に所属する予定もあった。しかし新型コロナの影響を受け、その活動は停滞している。
大学は勉強するところだとはいっても。
制約の多い学生生活を経験して、改めて大学生活に求めることは何だろうか。
「私はもともと、大学を勉強するために通うところだと思っていて、遊ぶ場所だとは考えていませんでした。勉強をメインとすると、サークルやゼミの人間関係はサブ要素ではあります。
オンライン授業で質が落ちている部分があるにしても、講義は成立していて、学業に対してすごい損害があったわけではありません。
ですが、他の活動が一切無くされると、それは悲しいと思いました。サークルで趣味が同じ人と集まって何かやるって経験も、社会人になったら機会が減るのかと思うと、いま大学で人間関係が全くないのは悲しくて…。
大学にも、その状況を見て欲しいとは思います。授業をオンラインでやっているからいいいでしょ、という風にはしてほしくないと思います」
対面授業を一部再開する大学の見解
2人の学生は、オンラインと対面授業の向き不向きについて指摘した。
また、オンライン期間を経て、友人と勉強したりサークル活動に励んだりといった、大学での交流の大切さを改めて感じていた。
首都圏の場合、前期ではオンライン授業を行っていた早稲田、慶應義塾、一橋、中央などの大学は、後期からはオンライン授業を中心に行いつつ、一部で対面授業を導入すると発表している。
しかし、対面授業が再開するとの発表があっても、実現するかは学部や講義内容、担当教授によって異なる。
早稲田大学広報課によると、一部で対面を再開させる背景には「多様な個性溢れる学生同士、学生と教職員とが交じり合うことが本学の大きな特徴であり、授業によっては対面による教育効果が大きいものもある」という考えがあったという。

学生の生命と健康を守ることと、対面授業を実施すること。この両立について、学校内外から相反する意見が届いていた。そうした中、あらゆる要素を検討したうえで出した決断だったという
課外活動や施設利用は、一定の制約のもとで再開しているが、全面的に使える状況には至っていない。
今後も感染状況を慎重に見極めながら、段階的に可能な限り、学内での活動を再開をしていく予定だという。
「授業に限らず、オンラインでできることやオンラインのメリットも明確になった一方、対面による効果も再認識することとなりました。あらゆる場面で対面を生かすための非対面の活用も同時に進んでいくものと思われます」