「生き残るために」何をするべきか。パナソニックの家電トップに聞いた

    創業100周年を迎えたパナソニックはこれからどう変わるのか

    2018年に創業100周年を迎えたパナソニックは、10月末に全社を挙げた記念イベントを都内で開催した。

    「パナソニックは暮らしアップデート業を営む会社である」という津賀一宏社長の宣言からスタートした同イベントでは、各カンパニーの社長による講演、ビジネスセッションなどを多数実施。今後のパナソニックの道筋を示す内容となった。

    Natsuko Abe/BuzzFeed

    一方、パナソニックの基幹とも言える家電を扱うアプライアンス社の本間 哲朗社長は、「2021年までに全ての家電を知能化する。これからの家電製品はアップデートできるというのが前提となる。モノを消費する時代は終わった」と話す。

    モノ=家電を売り続けて来たパナソニックはこれから、どう変わって行くのだろうか。

    生き残るためにどうするか

    「日本で総合家電メーカーがうちだけになった中で、本当に今の延長線上で生き残れるのだろうか、ずっと自問自答してきた」(アプライアンス社 本間社長)

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    「日本が誇る家電メーカー」という言葉も今は昔。

    東芝の白物家電部門は中国の家電メーカー・美的が買収、シャープも台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が買収、日立もテレビ事業から撤退するなど、国内で「総合家電メーカー」と言えるのは、パナソニック1社に限られる。

    しかし、一強として安泰が約束されているわけではない。価値観の多様性や技術の進化、環境の変化に柔軟に対応していかなければ、その先はない。「生き残るために」どう変わるべきなのか。

    創業100周年記念イベントの基調講演では、アップデート可能な家電の知能化、新規事業による新たな文化の創出、脱炭素社会に向けた水素エネルギー事業の3つを掲げた。

    自前主義からの脱却

    今回発表した事業戦略から見えたのは、自前主義からの脱却だ。製品の発案、企画、製造、販売の全てをパナソニックで行うかつてのやり方は通用しない。それを象徴するのが、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo・フューロ)と共同開発したロボット掃除機だ。

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    ロボット工学の第一人者として知られるfuRo所長の古田 貴之氏が「本間社長と二人三脚で、新しいモノ作りをしてきた」と語る。この製品は社長直轄プロジェクトとして進められ、わずか3ヶ月の短期間で開発された。

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    最先端のAI(人工知能)技術、自動操縦技術およびロボット技術を搭載した次世代のロボット掃除機で、畳やラグの段差を認識して乗り越えることもできる。

    開発期間中は、顔を合わせての打ち合わせを月に1回必ず行ってきた。多忙な2人が時間を作るのは容易ではない。移動中に空港のラウンジで打ち合わせしたことも複数回あったという。

    「まずは古田先生のアイディアを私が聞き、それをどう形にできるか、様々な阻害要因を解放して、整備してきました。例えば、ミドルウェアの開発に適した人材が必要であれば、カンパニーの壁を超えて1人借りてきて繋いだり、非常にスペシフィックなことをしてきました」

    スピード感のある開発ができなければ生き残れない

    社長自らが1つのプロジェクトにここまで密接に関わるのは、パナソニックという大企業においてもちろん異例のことだ。背景には強い危機感があった。

    「白物家電製品は長年使えることを期待して、購入する人が多い。長く品質を担保するためには様々な検証が必要で、製品をゼロから作るためには非常に長い時間がかかります。

    一方で、アップデートを前提とした知能化家電には、出来立てほやほやの先端技術を入れて行く必要があります。こういうことができなければ、世界で生き残れる家電メーカーとして脱皮できない。だからこそ社長直轄のプロジェクトにしてでも、この製品を作る必要がありました」

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    今回のやり方を活かしながら、2021年までには全ての家電ジャンルで知能化を進めるという。

    「知能化家電」ってなに??

    インターネットに接続された家電は「AI家電」「IoT家電」など様々な名称があるが、パナソニックでは「知能化家電」と呼ぶ。

    「スマートフォンで操作できるIoT家電というものは、すでに中国で展開しています。ただ、同じものを日本でやったとしても、その機能にお金を出してくれる人がいるとは思えなかった。デバイスがどう使われているかを、クラウド側にフィードバックしながら、製品をアップデートして行く、そういうループが回る製品を知能化家電と呼称しています」

    製品のアップデートを続けてくためにはデータが不可欠となる。

    「ネットに繋がる製品はすでに色々展開していて、そこからすでに様々なデータが集まってきています。長く繋がっているのはテレビ、ビデオで、そこは20年くらい前から繋がっています。いろいろなデータがある中で、そこをどう最適化して、アプローチしていくかというところが非常に重要になってきます。

    一方で、今後非常に大きなデータの入り口になりそうなのがエアコンです。10月下旬から発売するエアコンは、ウェザーニュースとの連携機能を搭載しており、さらに接続が進んでいくと思います。外部の付加価値とクラウド側で連携させることで、個々のデバイスを最適に制御するというところに、ようやく風穴が空きました」

    一緒に仕事したいと思ったから招いた

    米国・シリコンバレーを拠点にしたScrum Ventures(スクラムベンチャーズ、以下SV)とパナソニックが共同運営している、新規事業の創出促進を目的とした新会社「株式会社 BeeEdge(ビーエッジ)」でも一定の成果が出始めている。

    2018年3月に設立したばかりだが、従来にない機構を採用した「ホットチョコレートマシン」の事業化を進めている。「大企業ではなかなか形にできないアイディアを、スピード感を持って形にすること」を目的に設立した新会社だが、背景には本間社長と元DeNA会長であり、BeeEdge の代表取締役社長である春田真氏との交流があった。

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    「人として春田さんに惚れ込んでいるんです。

    DeNAの会長で、球団のオーナーだったというのは、もちろん存じていましたが、お話ししてみるとパナソニックにはない視点やビジネスセンスを感じました。

    彼はもともと、住友銀行出身で、我々よりももう一段硬い会社にいたのに、日本のサイバーの世界とものすごく親和性が高い、サイバーにいる若い世代の人たちとちゃんと会話ができて、マネージメントまでできる。そんな日本人、初めて見ました。こういう人と一緒に仕事をしたいと思いました。

    BeeEdgeとしての業務はもちろんですが、定期的にお会いして、色々なことを相談、アドバイスをいただいたり社外取締役のようなこともしていただいています」

    家電製品の付加価値はサイバー部分にだけあるわけではない

    海外に目を向けてみると、特に中国ではIoT家電の進化が止まらない。その進化のスピードに「日本はもはや追いつけないのではないか」という声もあるが、悲観はしてないという。

    「中国の進化のスピードに関しては圧倒的なものがあります。特にサイバー空間における速さとマーケットがそれを受け入れる力の強さについては、脅威に感じ、注視しています。

    しかし、家電製品における付加価値は、サイバーの部分だけで作られているわけではなく、従来型の家電製品の作り方の積み上げももちろんある。要は組み合わせが大事。私たちは、従来の技術もきちんと磨き上げるし、サイバー空間の方も適切にキャッチアップして行けば、決して悲観するような状況にはなりません」

    美味しいごはんが炊ける炊飯器を作るには、何度もごはんを炊いて、調整を繰り返すしかない。

    例えばパナソニックの高級炊飯器は、全国50銘柄の米を最適に炊き分けることができる、それはネットに繋がるからできることではなく、年間3tもの米を炊き続けてきた開発チームの努力があったからこそだ。そういった技術は一朝一夕で追い越されるものではない。

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    一方で危惧しているのが、中国で圧倒的な普及率を誇るモバイルペイメントであり、それにまつわるデータの蓄積だ。

    「現在、個人の収支情報が飛躍的に中国に集まっている状況。それと消費を結びつけるというモデルがおそらく出てくるでしょう。そこは、プライバシーを重んじる先進国の方がずっと慎重で難しい。そこで差がついてしまうと元も子もないので、我々自身も中国でそういうものたちと結びつきながら、どういう新しい付加価値が生まれるのかを、慎重に、先端のトレンドを捉えていきたい」

    中国はアプライアンス社にとって最重要地域の1つで、エンジニアだけでも現在約2500名を抱える。

    「2016年、2017年と二桁成長を達成し、2018年も二桁成長を見込んでいます。日本の家電メーカーの強みを維持しながら、存在価値を示していければと思っています」

    これからのパナソニック

    「J―コンセプト」など、シニア向けの事業は充実している一方、若い世代へのアプローチはどう考えているのか。メルカリなどで開封済みの化粧品を買うことに抵抗がない世代は、家電に関しても従来型とは大きく異なる価値観を持っている。

    「ご指摘の通り、若い世代へのアクセスが不十分というのは我々も認識してします。一部の美容製品だけでティーンエイジャー向けのデザインを採用しているという状況に、強い危機感を抱いています。

    新しい価値観を持った世代がマーケットの中に入ってきたときにどう対応して行くか、今準備している。その中の取り組みの1つが定額制のテレビ。一定の金額を毎月払ってもらったら、有機ELのテレビを自宅で使えますという取り組みをスタートしました。当初思っていたよりも、前向きの評価をいただいているので、もう少しなんとかしたいと思っています」