「生き残るために」何をするべきか。パナソニックの家電トップに聞いた

    創業100周年を迎えたパナソニックはこれからどう変わるのか

    2018年に創業100周年を迎えたパナソニックは、10月末に全社を挙げた記念イベントを都内で開催した。

    「パナソニックは暮らしアップデート業を営む会社である」という津賀一宏社長の宣言からスタートした同イベントでは、各カンパニーの社長による講演、ビジネスセッションなどを多数実施。今後のパナソニックの道筋を示す内容となった。

    生き残るためにどうするか

    「日本で総合家電メーカーがうちだけになった中で、本当に今の延長線上で生き残れるのだろうか、ずっと自問自答してきた」(アプライアンス社 本間社長)

    自前主義からの脱却

    今回発表した事業戦略から見えたのは、自前主義からの脱却だ。製品の発案、企画、製造、販売の全てをパナソニックで行うかつてのやり方は通用しない。それを象徴するのが、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo・フューロ)と共同開発したロボット掃除機だ。

    スピード感のある開発ができなければ生き残れない

    社長自らが1つのプロジェクトにここまで密接に関わるのは、パナソニックという大企業においてもちろん異例のことだ。背景には強い危機感があった。

    「白物家電製品は長年使えることを期待して、購入する人が多い。長く品質を担保するためには様々な検証が必要で、製品をゼロから作るためには非常に長い時間がかかります。

    一方で、アップデートを前提とした知能化家電には、出来立てほやほやの先端技術を入れて行く必要があります。こういうことができなければ、世界で生き残れる家電メーカーとして脱皮できない。だからこそ社長直轄のプロジェクトにしてでも、この製品を作る必要がありました」

    「知能化家電」ってなに??

    インターネットに接続された家電は「AI家電」「IoT家電」など様々な名称があるが、パナソニックでは「知能化家電」と呼ぶ。

    「スマートフォンで操作できるIoT家電というものは、すでに中国で展開しています。ただ、同じものを日本でやったとしても、その機能にお金を出してくれる人がいるとは思えなかった。デバイスがどう使われているかを、クラウド側にフィードバックしながら、製品をアップデートして行く、そういうループが回る製品を知能化家電と呼称しています」

    製品のアップデートを続けてくためにはデータが不可欠となる。

    「ネットに繋がる製品はすでに色々展開していて、そこからすでに様々なデータが集まってきています。長く繋がっているのはテレビ、ビデオで、そこは20年くらい前から繋がっています。いろいろなデータがある中で、そこをどう最適化して、アプローチしていくかというところが非常に重要になってきます。

    一方で、今後非常に大きなデータの入り口になりそうなのがエアコンです。10月下旬から発売するエアコンは、ウェザーニュースとの連携機能を搭載しており、さらに接続が進んでいくと思います。外部の付加価値とクラウド側で連携させることで、個々のデバイスを最適に制御するというところに、ようやく風穴が空きました」

    一緒に仕事したいと思ったから招いた

    米国・シリコンバレーを拠点にしたScrum Ventures(スクラムベンチャーズ、以下SV)とパナソニックが共同運営している、新規事業の創出促進を目的とした新会社「株式会社 BeeEdge(ビーエッジ)」でも一定の成果が出始めている。

    2018年3月に設立したばかりだが、従来にない機構を採用した「ホットチョコレートマシン」の事業化を進めている。「大企業ではなかなか形にできないアイディアを、スピード感を持って形にすること」を目的に設立した新会社だが、背景には本間社長と元DeNA会長であり、BeeEdge の代表取締役社長である春田真氏との交流があった。

    家電製品の付加価値はサイバー部分にだけあるわけではない

    海外に目を向けてみると、特に中国ではIoT家電の進化が止まらない。その進化のスピードに「日本はもはや追いつけないのではないか」という声もあるが、悲観はしてないという。

    「中国の進化のスピードに関しては圧倒的なものがあります。特にサイバー空間における速さとマーケットがそれを受け入れる力の強さについては、脅威に感じ、注視しています。

    しかし、家電製品における付加価値は、サイバーの部分だけで作られているわけではなく、従来型の家電製品の作り方の積み上げももちろんある。要は組み合わせが大事。私たちは、従来の技術もきちんと磨き上げるし、サイバー空間の方も適切にキャッチアップして行けば、決して悲観するような状況にはなりません」

    美味しいごはんが炊ける炊飯器を作るには、何度もごはんを炊いて、調整を繰り返すしかない。

    例えばパナソニックの高級炊飯器は、全国50銘柄の米を最適に炊き分けることができる、それはネットに繋がるからできることではなく、年間3tもの米を炊き続けてきた開発チームの努力があったからこそだ。そういった技術は一朝一夕で追い越されるものではない。

    これからのパナソニック

    「J―コンセプト」など、シニア向けの事業は充実している一方、若い世代へのアプローチはどう考えているのか。メルカリなどで開封済みの化粧品を買うことに抵抗がない世代は、家電に関しても従来型とは大きく異なる価値観を持っている。

    「ご指摘の通り、若い世代へのアクセスが不十分というのは我々も認識してします。一部の美容製品だけでティーンエイジャー向けのデザインを採用しているという状況に、強い危機感を抱いています。

    新しい価値観を持った世代がマーケットの中に入ってきたときにどう対応して行くか、今準備している。その中の取り組みの1つが定額制のテレビ。一定の金額を毎月払ってもらったら、有機ELのテレビを自宅で使えますという取り組みをスタートしました。当初思っていたよりも、前向きの評価をいただいているので、もう少しなんとかしたいと思っています」